実は、僕には21歳年上の兄がいる。しかし、兄に会ったことは一度もない。それもそのはず、僕がこの世に生を受けたとき、兄は既に亡くなっていたのだ。この事実を知っている人は、僕のことを直接知っている人のなかにもあまりいないだろう。 「あなたにはお兄ちゃんがいたのよ」 親からそう言われても、目の前にあるのは遺影だけ。幼少期の僕には、兄の存在に、まるで実感がわかなかった。 兄は優秀な人だったらしい。まず、区の走り幅跳びの小学生記録保持者。さらに学問の成績も優秀で、有名私立高校への