1000本の樹木がある山型モール
こんにちは、コーイチです。
今回は、2021年の12月下旬にオープンした、山型のショッピングモールとか、「バビロンの空中庭園」と呼ばれている「1000 TREES(天安千樹)」の概要と開発に対する考え方を見ていき、日本の再開発の課題を考えたいと思います。
1.1000 TREES
(出典:Walpole UK youtubeより)
中国上海市を流れる蘇州河、そのほとりにはかつて上海の工業発展を支えた製粉所がありました。
この製粉所の跡地に、1000本の樹木を冠した新しいランドマーク「1000 Trees」が誕生しました。
ここは延べ面積約30万m2に及ぶ巨大な再開発であり、今回は、第一期(WEST)となる大型複合商業施設が竣工しました。
今後は、第二期(EAST)でオフィス、ホテル、商業施設、文化施設がオープンする予定となっています。
建築デザインは、ロンドン五輪の聖火台、上海万博のイギリス館のデザインなどを手がけた世界的に有名なデザイナーのトーマス・ヘザーウィックによるもので、中国の名峰・黄山(安徽省にある景勝地)とバビロンの空中庭園の融合をイメージした設計と言われています。
(上海万博イギリス館 出典:heatherwick.comより)
想像を超える斬新なデザインで、一見すると、ショッピングモールなのか、美術館なのか分からないほど“アートな建物”となっています。
この「1000 Trees」は、上海市の北部を流れる蘇州河の河畔に位置しており、対岸に高層マンションが立ち並んでいるため、そのコントラストも見どころの一つとなっています。
また、上海でも屈指のアートスポット・M50(中国現代アートの集積地)にも近い立地となります。
M50は2001年にオープンし、ファインアート、ファッションデザイン、建築、家具、映画・アニメーション、ジュエリー、美術教育などを扱っています。
2.社会的な空間
(出典:New China TV youtubeより)
「1000 Trees(WEST)」は高さ約60m、地下3階・地上9階建ての大型複合商業施設で、打ち放しコンクリートの「ツリーポッド柱」は地上から建物の上部までそびえ立ち、第1期エリアと第2期エリア合わせて1000本となり、アイコニックな建築的外観を形成しています。
各柱の上部には、落葉樹や常緑樹のほか、低木やハンギングプラントなどを組み合わせたプランターが設置され、合計で1,000本以上の樹木と25万本の植物が建物に配置されています。
柱には自動散水装置が埋め込まれており、70種類以上の樹木を一年中豊かに保つことができるようになっています。
また、建物の外壁は雁行しており、上階に行くにつれて一段、また一段と後退することによって、緑の植物に覆われた都会のオアシスが、周囲の環境に溶け込んで「緑の山」のような視覚的効果を生んでいます。
この施設の構造は、コンクリート製の柱を川に対して45度の角度でグリッド状に配置し構築されることで、川の景色が見えるようにしています。
立方体の要素は「ピクセル」としてイメージされ、建物のスケールを視覚的に崩し、通りにおける高層ビルが繰り返す風景に変化を生みます。
ヘザーウィックは、グリッドと多数のプランターが、166の店舗を含むこの開発の重厚感を打ち消すのに役立つと述べています。
また、「1000 Trees」は、都市を社会的な空間にするという考えからインスピレーションを得ており、典型的な商業施設の巨大なスケールをヒューマンスケールの多数のスペースに分解することで、この住宅密集地に住み、働く人々にとって、変革のきっかけになると考えていると言います。
3.ショッピングとアート
(出典:Tijana Mila youtubeより)
「1000 Trees」は、12 の旗艦店、91 のショップ、63 の飲食店からなる 62,706 平方メートルの売場面積を有しています。
地下1階にはフードコートとスーパーマーケット、地上5階にはショップ、上層4階にはレストランが配置されています。
ショッピングモール内の各フロアには、若者にも人気のあるアーティスト作品が展示されていて、外観だけではなく、ショッピングモールと美術館が融合したかのような不思議な空間が広がっており、出店している店舗もおしゃれなカフェからインテリアショップ、ファッションブランド、雑貨やスポーツショップにわたり、とりわけ国内でも人気があり、知名度のある話題のショップが集まっています。
これらのアートは、フランスのストリートアーティスト、ポール・デジオの監修によるアート作品となります。
エレベーターシャフトに設置された高さ40mの壁画をはじめ、16人のアーティストに制作を依頼しており、M50のアート地区と調和するように、通りに面した外壁面もストリートアートで覆われています。
このように、ショッピングモール内だけではなく、外観や周りにもSNS映えするスポットが多く、流行に敏感な若者から周辺に居住する中高年層も訪れる人気の撮影スポットとなっています。
また、地元の音楽や舞台芸術を支援するため、書店を併設したアートシアターレストランも設置される予定となっています。
4.歴史と自然と人間
(出典:C+P studio youtubeより)
このプロジェクトでは、歴史的な阜豊製粉所や旧包装倉庫など、上海の遺産も保存し、地元の文化に敬意を表しています。
1960年代に上海製粉工場となった富豊粉廠は、中国の「粉絲王」と呼ばれた栄 宗慶・徳勝兄弟が所有していました。
栄 徳勝の息子の栄 毅仁は、1993年から1998年まで中国副総裁を務め、1978年に中国国際信託投資公司(CITIC)を設立しました。
この敷地の歴史を強調するために、かつての小麦粉工場にあった4つの建物が保存され、新しい複合施設に組み込まれる予定となっています。
工場にあった鐘楼は、観光用のエレベーターに改造され、この塔は錆びた板で包まれ、その歴史を際立たせています。
その他の歴史的建造物には、アートギャラリーやレストランが入る予定となっています。
(出典:axismag.jpより)
「コンクリートマンモスではなく、人間と自然が調和した温かく生きた建築物を目指した」と、プロジェクトのマーケティング総責任者である黄景生は語っています。
プロジェクトに使用された1,000本以上の木は、毎年21トンの二酸化炭素を吸収し、2,000人分以上の酸素を作り出すことができると言われており、「1000 Trees」が地形を一変させ、ヒューマンスケールの場所が多数現れ、そこに住み、働く人々の生活を縁取るものになればという想いで作られました。
現在、第二段階(EAST)が進行中で、2023年にはブティックホテルとオフィスビルと、900メートルに及ぶ川沿いのパブリックスペースや12,000平方メートルのランドスケープパークなど、より多くの造園が行われ、ジョギングコースや彫刻庭園、屋外イベントスペースなどが設けられる予定ということです。
5.最後に
(出典:ArchDaily youtubeより)
景観、歴史、ウェルビーイング、ショッピング、コミュニティー、アートなどが複合し、木々に覆われた山のような姿の「1000 Trees」。
自然の美しさと芸術・伝統を調和させ、四季の移ろいを感じさせ、木々や葉のしずかな佇まいで「緑の呼吸スペース」を提供するこの場所は、訪れる人々に忘れる事の出来ない体験をもたらします。
樹木が順調に育つのか、メンテナンスはどうするのかなど気になる点もありますが、考え方とこの建物デザインは素晴らしいと思います。
一方、東京、国立競技場の敷地内に明治神宮外苑内の高層ビルや商業施設の建設を可能にする再開発計画が進行しています。
(出典:東京都市計画神宮外苑地区地区計画より)
再開発のエリアは、明治天皇を記念して建てられた明治神宮の東に位置する神宮外苑地域の約66haに及びます。
1926年に日本初の景観保全地域に指定された神宮外苑は、東京都心に密集した山ノートループラインエリア内の珍しい緑の宝石である自然景観で有名で、公園はまた、秋に金色のトンネルに変わる大きなイチョウの木の列で有名です。
民間コンソーシアムが提案する再開発計画は、2036年に完了する予定で、この計画には、野球場とラグビースタジアムの両方の移転と再建、およびオフィスなどの商業施設を備えた高層ビルの建築が含まれます。
このプロジェクトに対応するために、3.4haの公園用地が失われます。
再開発の提案によると、開発者は、1920年代に公園が作られたときに最初に植えられた樹齢100年近くの木を含め、現在計画の赤い点線の領域内にある約1900本から約900本の木を伐採する予定ということです。
その代わりに、緑の喪失を補うために979本の新しい木を植えることを提案していますが、これらが完全に成熟するまでには何年もかかります。
都心部でこれだけのまとまった土地は、非常に少ないので、事業的に再開発することは理解できますが、1000本近くの木を伐採するような開発は、考え直してほしいものです。
「1000 Trees」の考え方を踏襲し、新しいランドマークとなるような、環境にも景観にも優しい再開発が必要ではないでしょうか?
今回も最後まで読んでいただきありがとうございました。
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