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モバイルオーダーカフェ

こんにちは、コーイチです。
 創業からわずか6年で8000店を超え、中国において2019年まで首位だった「スターバックス」の店舗数を抜いた、今最も勢いのあるカフェチェーンである「瑞幸珈琲(Luckin Coffee)」を見ていき、このような店舗は日本でも流行りそうか考えてみたいと思います。

1.急スピードの成長

(出典:Pandaily youtubeより)

 「瑞幸珈琲」は、カーシェアリングサービス「CAR Inc」(神州優車)などを起業した、ジェニー・チエン氏が2017年に設立しました。
 アプリでしか注文できず、デリバリーでの営業が基本という大きな特徴があります。
 2018年の1月に1号店を開店すると、すぐさま拡大路線に入り、1年で中国21都市、2000店舗まで数を増やしました。  
 1999年に中国展開を開始したスターバックスが20年かけて約4000店舗(2018年時点、市場シェア51%)を開いたことを考えても、「瑞幸珈琲」がとてつもないスピードで拡大したことがわかります。

 急激に多額の資金調達を続けてきた「瑞幸珈琲」ですが、2018年12月の決算発表で驚きの実態が判明しました。
 売上の60億円に対し、140億円の純損失が計上されていたのです。その際にCEOはインタビューで「こんなものでは終わりません。もっともっとお金を使い、あと1年で2500店舗を開きます。それによってスターバックスの4000店舗を抜かします。」と答えました。

 その後、2019年5月には、設立からわずか18カ月という最短記録でナスダック上場を果たしました。
 そして同年8月に、上場後初の決算を発表し、純損失は103億円にまで拡大との報道が出ました。
 ジェニー・チエンは「上場後、3年から5年は戦略的な赤字を出し続ける」と公言して拡大戦略を維持しました。
 2020年には、不正会計による上場廃止やコロナ禍という逆風が吹いたものの、2022年には黒字に戻し、再び勢いが出てきています。
 驚異的な出店ペースで、創業2年でスターバックスの店舗数を抜いた「瑞幸珈琲」に対し、「スターバックス」は2025年までに9000店舗にする計画を打ち出しています。

2.「瑞幸珈琲」の特徴

(出典:PK Tan youtubeより)

 「瑞幸珈琲」がここまで急成長したのは、下記の5つの特徴があるからと言われています。

〇モバイルオーダー
 「瑞幸珈琲」では、スマートフォンから事前注文をし、それから店舗に取りにいくという購入スタイルが基本となっています。今では中国の多くの店舗が導入しており、日本でもモバイルオーダーは利用できますが、「瑞幸珈琲」が創業した2017年当時は、中国でもまだ新鮮な購入体験でした。
 注文時にスマホ決済で会計も済んでいるので、長い行列に並ぶことも、ドリンクができるのを待つこともなく、店舗ではスマホの画面を見せるだけでコーヒーを受け取れます。
 中国では、オフィスでコーヒーを飲むという人が圧倒的に多く、出勤時や休み時間に店舗に行き、テイクアウト注文をするということが、忙しいビジネスマンに人気を博しました。

〇コーヒーの品質
 「瑞幸珈琲」はモバイルオーダーとテイクアウトを基本にしているため、スターバックスのような客席空間を用意する必要がなく、新規出店時の初期投資を抑えることができる上に、人件費も抑えることができます。
 その浮いた分をすべてコーヒー豆の品質に使い。当初から世界的なバリスタを監修に迎えるなどして、おいしいコーヒーを提供することに注力をしました。
 どうせオフィスで飲むのだから、客席はなくてもよく、なにより並ばなくていいし美味しいという理由で、固定ファンが生まれていきました。

〇クーポン戦略
 特に大きな武器となったのが、「買一送一」(1杯買うと1杯無料)のクーポンでした。
 自分で2杯を飲む人は多くなく、オフィスに持っていき、同僚にコーヒーをプレゼントする。
 その同僚は味と価格に驚き、連鎖反応が起き、新規顧客を獲得していきました。
 SNSの「WeChat」ミニプログラムという利便性の高い仕組みがあったため、「瑞幸珈琲」の顧客は全員がオンライン会員になっています。
 「WeChat」は、「瑞幸珈琲」にマーケティングデータを提供をし、より精密なクーポン戦略やプロモーションを行っているようです。

〇多地域展開
 中国の都市は、経済力や人口などの指標を基準にした6つの階級で分けられています。
 一番上が、一線都市、次に新一線都市、二線都市、三線都市、四線都市、五線都市となります。
 一線都市とは、北京、上海、深圳、広州の4都市、新一線都市は成都、杭州、武漢などの15都市、二線都市は昆明、瀋陽など30都市。この二線都市までが大都市と呼ばれます。
 三線都市以下は、大半の日本人が名前も聞いたことがない地方都市で、五線都市まで含めると337都市になります。
 大都市の消費行動や購買力は他国の大都市に近く、三線以下の地方都市は、購買力だけでなく、消費行動も異なるため、進出をするには大都市とは異なる戦略が必要になります。
 そのため、多くの外資系チェーンは、大都市中心に展開をすることになり、スターバックスの店舗も86.6%が大都市にあります。
 一方、「瑞幸珈琲」は大都市が76.1%であり、地方都市にも23.9%出店をしています。
 20元/1杯という客単価であるため、購買力が弱い地方市場でもそれなりに需要を掘り起こすことができるからといえます。

〇巧妙な出店戦略
 スターバックスはブランドイメージもよく、ショッピングモールからの出店依頼が多いですが、一方で、学生街が空白地帯になっています。
 中国の大学生たちは、原則学生寮に住み、自由になるお金をあまり持っていないため、大都市の中でも学生街は安くておいしい飲食店が集中しています。
 結果的に学生はスターバックスを飲むことに躊躇し、「瑞幸珈琲」やさらに低価格のコンビニコーヒーを利用することになっています。 
 
 「瑞幸珈琲」は、スターバックスが出店をためらう地域をねらって店を出すことで、市場を獲得しています。
 一線都市ではオフィス街に特化をし、新一線、二線都市では学生街に重点を置き、地方都市では商業地というように、戦略を都市の規模に合わせて変えています。
 これも、高品質、低価格、スタンド店という特性により多面展開が可能になっているからできることといえます。

3.急転落からの復活

(出典:Amin Hsu youtubeより)

 2020年の急転落から「瑞幸珈琲」が復活を遂げたのは、上記の戦略以外に、下記のような理由があったからと言われています。
〇顧客との関係性の再構築
 
「瑞幸珈琲」はアプリによる注文方式や持ち帰り中心の店舗の運営方式などから、「機械的なサービス」という印象を受けていました。
 そのような印象を覆すために、「瑞幸珈琲」は各店舗のSNSコミュニティを作り上げ、ブランドイメージの改善を図りました。
 企業コミュニティを運営することによるデジタルマーケティング「Private traffic」(私域流量)※を着実に実践しました。
※「Private traffic」(私域流量):顧客とのコミュニケーションをプールに集中させることで、ブランドが何も支払わずにトラフィックを完全にコントロールできるようにするマーケティング手法のこと。

〇デリバリーサービス
 
中国のデリバリーサービスは通常、店側が専用の配達員を雇うことはほとんどなく、配達業者に登録している配達員に依頼して配送してもらうシステムが一般的です。
 しかし、「瑞幸珈琲」は専用の配達員を採用しており、配達員は「瑞幸珈琲」の配達のみを行うようにし、配達のスピードUPに繋げました。

〇新メニューの投入
 「コーヒーのミルクティー化」ともいえる商品の「中国化」を推進し、2021年以降新商品の販売が続いていて、より甘く、より飲みやすい商品が多くなりました。
 特に椰子の果汁を加えた「フレッシュココナッツコーヒー」はミルクティーのような飲み心地の人気商品で、現在の主力商品となっています。

〇消費者の信頼
 ナスダック上場廃止や粉飾決算などは会社経営の視点や投資家目線からは大打撃ですが、多くの消費者にとっては、「瑞幸珈琲」から離れる理由となりませんでした。
 若いサラリーマンや学生などにとって、「瑞幸珈琲」は安価にコーヒーを楽しめる確固としたブランドになっていました。

4.中国のコーヒー文化

(出典:WORLD TODAY youtubeより)

 中国では、長い歴史の中でお茶が普段の飲み物として愛されてきましたが、ここ数年はコーヒー文化も着実に定着しつつあります。
 上海市でこのほど発表された「2023年中国都市コーヒー発展報告書」では、中国コーヒー産業の潜在的市場規模は1兆元(1元=約20円)に達するとの試算が示されました。
 急成長期を迎えた中国のコーヒー市場は、世界的に見ても新たな市場機会の中心になりつつあります。
  国内では「瑞幸珈琲(Luckin Coffee)」「Seesaw Coffee」「Manner Coffee」など自国ブランドのコーヒーチェーン店が台頭し、異業種コラボも進んでいます。

 店舗も北京、上海などの大都市から各地方都市の中心市街地へと普及し、近年大流行したミルクティーに取って代わる勢いを見せ、一部の人々から大衆、流行から日常の飲み物へと変化を遂げています。
  生活関連サービス大手の「美団」がまとめたコーヒー専門店に関するリポートによると、中国本土のコーヒーショップは22年5月時点で11万7300店で、「美団」のフードデリバリーデータでは、今年1~2月の地方主要都市・中小都市のコーヒーのデリバリー注文は前年同期比約2倍となり、大都市の伸び率(72・1%)を上回りました。
 深化を続ける中国のコーヒー市場は、大都市のホワイトカラー層から地方都市、農村部まで着実に浸透しつつあります。
 「2023年中国都市コーヒー発展報告書」は、中国のコーヒー産業規模が2025年に3693億元になると予測しており、消費の観点から見ても、コーヒー消費新興国である中国のコーヒー豆消費量は年平均伸び率が12・5%とコーヒー消費が成熟した国々に比べ急速に伸びています。
 先進国との差も縮まり続けており、非常に高い将来性を秘めています。

5.最後に

(出典:luckin coffee youtubeより)

 日本の喫茶店は、信用調査会社「東京商工リサーチ」の調べによると、2021年の喫茶店の休廃業と倒産を合わせた数は161件で過去最高を更新しています。
 コロナ禍で在宅勤務が増えたうえ、コーヒー豆の高騰などが響いたからと、同社では分析しています。
 ただ、コロナ禍の始まった2020年から喫茶店の休廃業が急増したわけではなく、2015年に110件と大台に乗り、毎年記録を更新しているのが現状です。

 大手チェーン店や個人店など全ての喫茶店を網羅した統計は少ないですが、厚生省が2021年10月に発行した「生活衛生関係営業の生産性向上を図るためのガイドライン・マニュアル作成事業」の「喫茶店営業編」では「喫茶店数は2008年度の約29万件をピークに減少に転じ、現在は約20万件と大きく減った」としています。

 「スターバックス」「ドトール」「コメダ珈琲店」の業界トップ3で、4割以上の店舗数を占めており、「地元の喫茶店・カフェ」は約2割あります。
 「地元の喫茶店・カフェ」は根強い人気のあることがわかります。
 「スターバックス」など大型チェーンが日本に登場したのは1980年から90年代にかけてですが、以来規模の面では大手による業界の寡占化が進んでいます。
 一方で、コンビニ店頭での挽き立てコーヒーの販売拡大など、従来型喫茶店の競争相手はますます多様化しています。

 大半の大手チェーンはテイクアウトもしていますが、「瑞幸珈琲(Luckin Coffee)」のように、テイクアウトに割り切った大手カフェチェーンは日本ではまだないように思います。
 日本でもオフィス街や学校近く、駅や病院などの公共施設にこのような美味しいコーヒーが安く飲める店舗もあったらいいのになと思います。

 今回も最後まで読んでいただきありがとうございました。
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