見出し画像

幾何ブラウン運動と片対数回帰直線の相性を考察したい【全文無料】

久しぶりの分析手法に関する記事(メモ)です。
(全文無料範囲です。良かったら投げ銭ください)


やりたいこと

幾何ブラウン運動を推定モデルに組み込みたい。「ドリフト項に対して片対数回帰直線」「ウィーナー過程に対してヒストリカルボラティリティでの正規分布」を割り当てたとする。その際の「対数正規分布と片対数回帰直線の対称性」と「その際の妥当なバンド幅」について考察したい。

以前ボリンジャーバンドを出発点として、BSモデルに基づいたバンドを作る試みを行い、さらに片対数回帰直線を用いることを考察した。片対数回帰直線は、ブラック・ショールズモデルの式において$${\mu}$$で表現される株価のトレンドを表現するために株価$${S}$$を対数変換した$${\ln(S)}$$に対して回帰直線を引くことを目的として利用していた。


幾何ブラウン運動

幾何ブラウン運動での株価$${ S }$$は以下の式で表現される。
   $${ dS/S = \mu dt + \sigma dW }$$
伊藤の公式から
   $${ S = S_o \exp \{ (\mu - 1/2 \sigma^2) t +\sigma dW \} }$$
ミッドバンド$${S_{mid}}$$を考えると
   $${ S_{mid} = \exp \{ \ln(S_o) + (\mu - 1/2 \sigma^2) t \} }$$
$${ A = (\mu - 1/2 \sigma^2) }$$、$${ B = \ln(S_o) }$$とおくと
   $${ \ln(S_{mid}) = A t + B }$$
したがって、ミッドバンド$${S_{mid}}$$の対数変換$${ \ln(S_{mid}) }$$は線形の式で表すことができる。

参考:https://www.monte-carlo-note.com/2018/09/Ito-Formula.html


片対数回帰直線

上記の$${ f(t) = A t + B }$$を最小二乗法による回帰直線として算出する場合を考える。
対数変換 $${ s_i=\ln(S_i) }$$ を施した各データ$${ (t_i, s_i) }$$は回帰関数 $${ f(t) }$$と正規分布 $${ \N(0,\sigma^2) }$$ に従う誤差 $${ \epsilon }$$ を用いて以下のようになる。
   $${ s_i = f(t_i) + \epsilon }$$
データ $${ (t, s)_{i=\{1,2,…,n\}}​ }$$ の $${ t }$$と$${ s }$$の関係を尤もらしく表す回帰関数とするため、次の二乗誤差を最小とするような関数が尤もらしい回帰関数であるとする。
   $${ J = \sum_{i=1}^n  ( s_i - f(t_i) )^2 }$$
このとき、分散の定義から $${ \sigma^2 }$$ は $${ \sigma^2 = J/n }$$で、$${ \epsilon = \sigma dW }$$となる。
したがって、株価$${ S }$$は以下の式で表現できる。
   $${ S_i = \exp( A t + B + \epsilon ) = \exp(B)  \exp (A t + \sigma dW) }$$

参考:https://zenn.dev/kazh/articles/00001_least_squares_01


バンド幅

日次データ$${ n }$$日分から算出した場合に、日次変化率の分散が$${ \sigma^2 }$$であったとする。
このとき、$${ n }$$日間変化率の標準偏差は$${ \sqrt{n}\sigma }$$となる。

1ヶ月を20日として、過去1ヶ月分の日次データセットを持って回帰直線を算出することを考える。
データセットの最古日から見た場合、1ヶ月後(20日後)に当たる今日の標準偏差は$${ \sqrt{20}\sigma = 2\sqrt{5}\sigma }$$となる。
この標準偏差はデータセットの最大最小の間の偏差を示すものであるとも言えそうであるし、ミッドバンドからの偏差を示すものであるとも言えそうである。ミッドバンドは必ず最大最小の間に存在するため、それらの偏差の中央に位置するとここでは仮定する。

このことからボリンジャーバンドのようなバンド分析を考えた場合、バンド幅として日次変化率の標準偏差$${\sigma}$$に対して$${ \pm\sqrt{5} }$$倍、$${ \pm2\sqrt{5} }$$倍が目安となると考えられる。
すなわち、バンドを形成する$${ S_{\pm\sigma}、S_{\pm2\sigma} }$$は
  $${ \ln(S_{\pm\sigma}) = A t + B \pm \sqrt{5} \sigma }$$
  $${ \ln(S_{\pm2\sigma}) = A t + B \pm 2\sqrt{5} \sigma }$$
であるから
  $${ S_{\pm\sigma} = \exp(A t + B \pm \sqrt{5} \sigma) }$$
  $${ S_{\pm2\sigma} = \exp(A t + B \pm 2\sqrt{5} \sigma) }$$
となる。

参考:https://www.boj.or.jp/finsys/c_aft/basic_seminar/data/rel170322b23.pdf


ボラティリティ

ボラティリティ$${\sigma}$$を算出する際に終値のみを使った場合よりも正確に市場変動を捉えられる方法として、HL(高値安値)法やHLC法が提案されている。

参考文献より引用

ここでは、始値も追加してOHLCでサンプル数を確保して概算する方法を以下にて検討した。

参考:https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=35886?site=nli


まとめ

幾何ブラウン運動と片対数正規直線の対称性について数式から考察した。1ヶ月を20日とし1ヶ月分の日次サンプルを持って回帰直線を算出する場合、ボリンジャーバンドのバンド幅としてヒストリカルボラティリティ$${\sigma}$$の$${ \pm\sqrt{5} }$$倍、$${ \pm2\sqrt{5} }$$倍が目安となる。

ここから先は

0字

¥ 100

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?