今回の日本代表の右サイドと、偽サイドバックについて。

はじめに

日本代表のサイドは、サイドハーフとサイドバックの2人で構成される。

前者は攻撃的な選手で、ウイングとも言える。例を挙げるならばロシアW杯での原口や乾。
後者はその後ろに立つ守備的な選手で、酒井宏樹や長友が当てはまる。

さて、今回の日韓戦とモンゴル戦では、そのサイドの右側に大きな変化があった。

監督の森保一が、ある"実験"をしたのだ。(たぶん)


日本代表の右サイドについて

日本代表の右サイドハーフと右サイドバックは、それぞれ2通りに分けられる。

右サイドハーフ
1、堂安タイプ (中央に切り込んでいく↖︎)
2、伊東タイプ (縦に突破する↑)

右サイドバック
A、酒井・室屋タイプ (サイドを駆け上がる↑)
B、山根・松原タイプ (中央に侵入する↖︎)

これらの組み合わせ方は4通りある。高校数学を思い出して不快になるかもしれないが、1A、1B、2A、2Bの4通りだ。
どれを選ぶかで、攻撃方法を変えられる。

これまでは、1A(堂安+酒井・室屋)が定番だった。
この組み合わせでは、サイドハーフの堂安が中央に侵入していき、サイドバックの酒井・室屋はサイドを駆け上がってクロスを上げる。

また、2A(伊東+酒井・室屋)も見られた。ただこれだと、2人ともサイドでのプレーを得意とするため役割が被ってしまう。特に伊東と室屋のコンビはチグハグだった。

しかし今回、森保一は実験をした。2B(伊東+山根・松原)を試したのだ。もっとも、積極的に試そうとしたと言うよりかは、堂安や酒井を招集できなかったため試さざるを得なかった感があるが。

この組み合わせでは、サイドハーフの伊東がサイドに張り、サイドバックの山根・松原が機を見て中央に侵入していく。この山根と松原の動きは「偽サイドバック」と呼ばれるものだが、それについては後述する。

これが思いのほか上手くいった。クラブチームならではの難易度の高い戦術かと思われたが、代表チームがあっさり成功させてしまった。

偽サイドバックについて

ところで、長らく酒井宏樹や長友らスタンダードなサイドバックを見てきた人々は、奇妙に感じられただろう。「なんでサイドバックがあんな所にいるの?」と。

あれこそが、偽サイドバックという戦術なのだ。サイドバックが、攻撃時には中央のボランチやインサイドハーフの位置まで侵入していく。従来のサイドバックっぽくないので、"偽"が付いたのだと思う。

酒井や長友が従来のスタンダードなサイドバックの一方で、山根や松原は偽サイドバックと言える。
"サイド"バックながら、中央の最前線まで走り込んだり、ボランチの位置に入ってパスを出したりできる。山根は前者で、松原は後者が得意な印象を受ける。

ちなみに… 常日頃からサッカーを観ている人なら言われるまでもないかと思うが、これは今時のサイドバックに見られる傾向だ。近い将来、どちらが"偽"なのか分からなくなる日が訪れるかもしれない。

なお、一言で偽サイドバックと言っても選手によって動き方が微妙に変わってくるので、「○○は偽サイドバックではない」という意見もあるかもしれない。最近ではマンチェスター・シティのジョアン・カンセロが、さらに変則的な動きをしていたりする。
ただ、いずれにせよ"サイドバックが中央に侵入する"という変則的な点は共通しているので、ここでは一つに括っておく。

おわりに 〜偽サイドバックを使えば安泰か〜

今回、日本代表の攻撃は抜群の破壊力を見せつけた。上手くいきすぎなくらい上手くいった。その背景には、この偽サイドバック戦術があると思う。変則的な戦術がぶっつけ本番で成功したことは、非常に大きかった。
韓国やモンゴルはさぞかし驚いたことだろう。ヨーロッパの試合を観て偽サイドバックの存在を認識していても、いざ試合でやられると対処が難しい。これまで培ってきた常識が揺らぐので、頭が混乱するはずだ。しかも実践したのが日本代表選手なだけあって、クオリティも高かった。あのような試合になったことは、不思議ではない。

かと言って、「今後も偽サイドバックをやっていれば安泰」とはいかないと思う。今回は相手があまり強くなかったし、ベストメンバーでもなかったし、何より、この変則的な戦術にも対処法はある。(対処法がなければ、横浜F・マリノスは昨季もJ1を制覇できたはず)
今後は、衝撃的な内容になった日韓戦とモンゴル戦を観てアジア各国が偽サイドバック対策を練ってくるだろう。それに伴い、いずれは壁にぶつかると思われる。サッカーはそう甘くない。だから難しいし、面白い。

そのようなわけで、僕はあくまでも「選択肢が増えただけ」くらいに捉えている。
そもそも、日本の右サイドバックの主力は酒井宏樹だ。スタンダードなサイドバックである彼を起用すれば、偽サイドバック戦術は使えなくなる。(もっとも彼の能力は非常に高いし、偽サイドバック対策をしてきた国を返り討ちにすることもできそうだが)

今回の結果だけで森保一が酒井宏樹をレギュラーの座から下ろすことは、まず無いだろう。しばらく偽サイドバックはプランBに位置づけられると思われる。

とはいえ、これまでは「サイドバック=サイドを上下動する」しか選択肢がなかったところに、「偽サイドバック」という変則的な選択肢が追加されたことは素晴らしいことだ。これだけで戦い方が大幅に広がったし、対策も練りにくくなったと思う。

あとは、森保一が酒井宏樹の控えに誰を選ぶか。これまではタイプの同じ室屋を選んできたが、強力なプランBとなる可能性に期待して、偽サイドバック型の山根や松原が選ばれることを、僕は望む。

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