カタール代表の手法の問題点と、日本代表の「欧州化」の是非

昨年のアジアカップ決勝とその後のカタール上げ

昨年のアジアカップ。負傷者続出の中で決勝まで勝ち上がった日本代表は、決勝でカタール代表に完敗した。

欧州のメソッドで育成年代から強化されてきたカタールの選手たちのシステマチックなサッカーは、日本のサッカーマニア界隈から絶賛された。対照的に森保ジャパンのサッカーは同界隈から「和式」と揶揄され、酷評された。懐かしい思い出である。

カタールの強み4つ

思うに、あのカタール代表の見事なサッカーを実現させた要素は4つある。

1、育成年代から叩き込んだ欧州メソッド
2、欧州から連れてきた指揮官
3、代表選手の大半を1つのクラブチームのメンバーで固めたこと
4、足りない部分を補う帰化選手

カタールの手法を絶賛していた方々は、口を揃えて1と2ばかりピックアップしていた覚えがある。3と4は申し訳程度に言及するだけだった。

U-23カタール代表が露呈した弱点

しかし、昨日のU-23アジアカップで、U-23カタール代表が「3と4抜きでは限界がある」ことを証明してしまったように思える。
U-23カタール代表は「サウジアラビアにもシリアにも勝てず、絶対に勝たなければいけなかった日本戦でも45分間にも渡る数的優位の時間帯を活かせずに疑惑の判定に助けられてようやく引き分けた」、そんなチームだった。
昨日の試合を見ていて、カタールを「強い」と思った人はいるだろうか。皆「本当にこれが、"今日勝たなければオリンピックに出場できない"チームなのか?」と思ったのではないだろうか。チーム全体の完成度がとにかく低かった。
だが、そんなU-23カタール代表は、育成年代の強化方法も指揮官も、フル代表のカタールと同じである。アジアカップ決勝に出場したメンバーも3人いた。一方で、選手たちの所属クラブに統一性はなく、フル代表の「ほぼ全員アルサッド」なんてことは無かった。確か、帰化選手もいなかったと思う。
すなわち、フル代表とU-23代表の明確な共通点は1と2で、明確な相違点は3と4と言える。

このことから考えられるのは、3と4すなわち「同じクラブの選手たちで代表チームを構成し」「足りない部分を帰化選手で補うこと」こそが非常に重要だということと、「欧州メソッドで選手を若いうちから育成し、監督も欧州流にすれば、日本代表もカタールのようになれる」などという発想は短絡的だったということだ。

※余談になるが、僕自身は以前から、冒頭に書いた「カタール上げ」の風潮に疑問を抱いていた。
「同じチーム(アルサッド)の選手でメンバーを固めりゃ強いでしょ。クラブチームみたいなもんなんだから。足りない部分は帰化選手で補ってるし。」と感じていたのだ。念のために書いておくが、これは後出しジャンケンではない。当時からツイッターでその旨をしつこく書いてきた。アジアカップ当時から僕のツイッターをフォローしてくれていた人ならご存知だろう。

クラブチームの手法を代表チームに導入する難しさ

僕は欧州メソッド自体には好意的な立場をとっている。それは、今季のJリーグで「横浜F・マリノスに優勝してほしい」。天皇杯で「ヴィッセル神戸に成果を出してほしい」。鹿島アントラーズの欧州化宣言を「良い決断」と書いていたことからも明らかだろう。
だが、練習期間が限られる代表チームに、欧州のクラブチームのサッカーを導入するのは相当難しいのではないか?と思う。
マリノスやヴィッセルを見ればお分かりいただけるのではないだろうか。毎日練習できる上に足りない部分を自由に補強できるクラブチームでさえ、あれだけ苦労したのだ。ましてや代表チームとなると………

日本がカタールを真似するには、それこそ横浜F・マリノスをそのまま日本代表にする必要があると思う。外国人選手には帰化してもらい、それでも物足りない部分には他チームから選手を連れてくるのだ。それでようやく、1.2.3.4全ての要素が満たされる。
だが、そんなことが許されるだろうか。カタールは2022年に自国開催のワールドカップを控えているからなりふり構っていられないのだろうが、それにしても露骨すぎると思う。あのやり方を日本が真似したら、それはもはや日本代表ではないように思えてしまう。応援する人も激減するだろうし、JFAもスポンサーも真っ青だ。

まとめ

カタール代表の欧州流強化メソッドは非常に優れているし、日本代表もそれは少しずつ真似していってほしい。しかし、3(代表のクラブチーム化)は実現できないし、それ無しでは2(欧州流の戦術の導入)にも限界があると思う。
我々は、3(代表のクラブチーム化)抜きで代表チームが欧州クラブのようなサッカーをすることは非常に難しいことを、今回のカタール代表から学ばなければならない。

カタール代表のやり方こそ絶対正義で、日本代表のやり方は完全悪だと決めつけるかのような極端な論調は間違っているのではないか。
クラブチーム化もできないのに欧州クラブ並みの難解な戦術を導入しても、昨日のカタールのように消化不良を起こして機能不全に陥るだけだと思う。
今後日本代表がさらなる高みを目指す上で、欧州のシステマチックな戦術はおそらく必要だ。しかし、どこまで深く導入して良いものか。異なるクラブから集められた日本を代表する選手たちで短期間でチームを作り上げるためには、ある程度の妥協が必要だろう。代表チームは練習期間が短い。短期間で植え付けられるような戦術にはあまり意味がないし、かと言って複雑な戦術は短期間では植え付けられない。選手も監督もコーチも、超人ではないのだ。犠牲にしなければならないものは、どうしてもある。
ゆえに、代表チームにクラブチーム並みの戦術や成熟度を要求するのは、ナンセンスである。どうしてもカタールのようになってほしいのなら、カタールのやり方を1〜4まで全て真似することまで求めるべきだと思う。

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