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【名作椅子の背景】 vol.2 シェルチェア

こんにちは、ハスミです。
 
今回は日本人デザイナー柳宗理による「シェルチェア」を紹介していきます。
 
シェルチェアといえばアメリカのイームズ夫妻が有名ですが、
実は日本にも同じように呼ばれている椅子が存在します。
正式名は「T-3036SP-ST」といいます。
1999年に天童木工から発売されました。
 
天童木工は山形県天童市に本社をおく家具メーカーで、
その成形合板の高い技術は国内だけでなく、海外からも
高い評価を得ています。
 
そんなシェルチェアで私が気になった点が2点あります。
 
1つめは背もたれに開けられた
玉ねぎのようなシルエット。
この椅子を初めて見たときに、柳インダストリアルデザイン研究所の
シンボルマークを取り入れているのかと思いました。
 
しかし 柳インダストリアルデザイン研究所のホームページを拝見すると
そうではないということが判明しました。
 
どうやらこのカタチは、全体を構成する柔らかいカーブを
つくりだすのに必要な開口のようです。
 
そもそもシェルチェアは、はじめから整形合板で椅子をつくろうとして
企画されたものではないそうです。
柳さんが紙で手遊びする中「紙を折り曲げ、くるっと輪をつくる」という
アイディアを思いつき、それを天童木工に持ち込み、
つくりあげた椅子だそうです。
 
切り込みの仕方で実際にどう違いが出るのか、
紙を使って模型を作って比較してみました。
 
①縦線の切り込みを入れただけのもの
②Uの字になるように開口したもの

 
結果は、縦線だけだと輪っかが歪で、
また成形する際に可動できる範囲が狭いことがわかりました。
 
そして単純な楕円形でなく、玉ねぎ型になっているのは、
穴の上に切り込みを入れることで、その一部分を後ろに曲げて
腰への当たりを良くする効果を生み出すための工夫ということだそうです。
細部へのこだわりが凄まじいです…!
 
▼参考サイト:柳工業デザイン研究会
https://yanagi-design.or.jp/works_groups/1518/
 
※ 柳インダストリアルデザイン研究所のシンボルマーク
自体にはどんな意味があるのかは不明のままなので、
引き続き調べていきたいと思います。
 
2つ目は材料にサペリ材という一般の家具メーカーでは
あまり見かけない材を使用していることです。

サペリ材とはアフリカに生息している樹種で、
幹が直径1500mm、高さは30mになる巨大な樹です。
▼参考サイト:木材図鑑

サペリ材


https://wp1.fuchu.jp/~kagu/mokuzai/sapelli.htm
 
なぜ柳さんは、あまり一般的ではない
サペリ材を選んだのでしょう。
 
サペリ材には下記の特徴があるようです。
・マホガニーとチークと似ている
・リボン杢といわれる独特の表情がある
・ギターや収納家具の扉面材などに使用される
・徐々に狂いが出るので、無垢材には向かない
 
上記を踏まえて「おそらくこうなんじゃないか」という
仮説をたてました。
 
当時、世界的にマホガニーやチークなどの色の濃く、
硬い木材は大変人気で、高級な家具の材料でした。
しかし人気がゆえに過度な伐採がおこり、1970年代に
ワシントン条約で規制がかかってしまいました。
 
当然日本でも入手することは難しい状況です。
そこで、色や表情は似ているが、比較的入手のしやすいサペリ材を
使ったのではないでしょうか。
無垢材では扱いが難しい材料でも、成形合板では表面の美しさは
用途にとてもマッチしています。
 
シェルチェアの気になる座り心地は、山形県にある天童木工本社か、
浜松町駅北口から徒歩3分にある東京ショールームで試すことができます。

▼天童木工ショールーム

https://www.tendo-mokko.co.jp/info/tokyo
 
実物をみると、想像していた以上にコンパクトで、軽い椅子でした。
座り心地はしっかりとして、背中のあたりがやわらかかったので、
二度ギャップに驚かされました。
背もたれの低い椅子なので、リラックスするイージーチェアというよりも、
小スペースのダイニングに適していると感じました。
脚部と座面との接続部が、全てステンレスなので
プラスチックのカバーが付いているセブンチェアと比較すると
スッキリしていて個人的には好きです。
 
購入自体は、いくつかのサイト上でもできます。
天童木工オリジナルの七宝柄のテキスタイルが和の表情が強くひかれました。
 
もっと世界に知ってもらいたい柳宗理のシェルチェアと、天童木工でした。
 
では、また。

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