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【名作椅子の背景】 vol.1 J6

こんにちは、ハスミです。

今回J6という椅子についてまとめました。
お付き合いいただけたら嬉しいです。

この椅子は、1944年にデンマークの
FDBモブラー社から発表されました。
設計したのはボーエ・モーエンセン。

彼は、「デンマーク近代家具の父」と言われる
コーア・クリントの弟子であり、古典を参考にする
「リデザイン」という手法を学びました。

このJ6も、イギリスで誕生したウィンザーチェアを
参考にしてリデザインされています。
8本のスポークと一体になったアームによる
シルエットが特徴的です。

しかし、なぜ現代の家具産地として有名な
デンマークで、イギリスのウィンザーチェアを
参考にしたのでしょう?
気になったので調べてみました。
その理由は「コストカット」にあったようです。

当時デンマークには伝統的な家具はなく、
イギリスやフランスなどで流行していた
装飾的で高価な家具か、
品質が粗く安い家具が一般的でした。

そんな中、FDBモブラーは、普通の家庭でも
「丈夫で、美しく、機能的」な家具を安価に
提供するという目標を掲げ、当時30歳の若く、
無名だったモーエンセンを企画デザインの
初代責任者に迎え入れました。
同じようにモーエンセンも「家具は人びとを
幸せにする」と信じていたので、両者が良い関係を築けたのは当然だったのでしょう。

先述のとおり、モーエンセンは丈夫で安価な
家具をつくるために、イギリスのウィンザーチェを
参考にしました。

ウィンザーチェアの発祥は、17世紀後半頃と
いわれています。
当時は地主階級の住戸などで使われ、
徐々に中流階級に広まっていったようです。

J6がウィンザーチェアを参考とした点は
大きく3つあります。

まずは、分業による生産体制。
分業性には下記のメリットがあります。

①短い時間で技術を習得できる

②一つの作業に集中できるので、
 技術力・生産効率が向上する

③必要な設備機器の重複を抑えて、
 初期投資や固定費の削減できる

デンマークのチームワーク意識の高い国民性には、
分業制があっていたのかもしれません。

次に自国の材料を用いて生産される点です。
当時デンマークで主に使用されていた材は、
マホガニーやチークなどの高級な樹種でした。
しかも海外から取り寄せていたため、
十分な量を確保することはできず、
資源は不足していました。
そこでモーエンセンは、今では一般的な材ですが、
当時は反りや腐りやすいという理由から、
家具の利用には避けられていたビーチ材(ブナ)に注目しました。
ビーチ材は硬く、粘りのある材なので、
現代では曲木の家具などによく使われます。
これによって原価を抑えることと、
材料の確保を実現し、運搬費のコストカットにも
成功したのです。

そして3つ目は細いスポークによる背もたれです。
この形状は座り心地を追求した結果、
誕生しました。
人の身体は、まっすぐな椅子などでは
長時間座ることができません。
そのため、木材を削るなどして
身体の当たりを良くする工夫がとられましたが、
材料のロスと手間がかかるものでした。
(現代の曲木や成形合板などの、大量生産に
 適した技術は確立していなかったのです。)
そこで、面で支えるのではなく、細いスポークの
本数や角度、位置などを調整することで
身体を支える方法が生まれました。

この方法は木を曲げるための特殊な技術を
必要としません。
さらに似た形状の部材で構成されているので、
工程もシンプルに抑えることができます。

モーエンセンはこの椅子を戦時下の物資不足で、
ソファの購入が難しかった当時の一般市民が
編み物や読書を楽しむためにデザインしています。

そのためには安定感とリラックスできる姿勢を
取れることが必要になってきますが、J6は
それをしっかり実現しているのです。

先日、実際に代官山にある家具屋さん
【グリニッチ】で販売している
J6の後継モデルJ52に座ってきました。
座面高さが450mmなので、日本人には
少し高い印象を持っていましたが、
160cm台後半の私でも座ることができました。
スポークが柔らかく背中を支えてくれ、
アームに手を置きリラックスした姿勢を
とることができました。
アームや座面の先端などの人の身体に触れる場所に
絶妙にR加工がされており、モーエンセンの心配りを感じました。
スポークが風を通すため、冬は寒いかも
しれませんが夏は蒸れずに長時間座ることが
できそうです。
重さは無垢材を使っているので程々ありましたが、
用途から動かす頻度は低いと考えられるので、
日常使いでは問題ないかと思います。

お値段は税込92,400円(2021年3月時点)。
気軽に買える価格ではありませんが、
材料や座り心地、用途を考えると
かなりお手頃な値段に感じました。

安くて、座り心地も追求した椅子。
北欧家具の現代の人気の基礎を
築いた椅子と言えるでしょう。

先人達の工夫を学び、実際に制作していくことで
自国の資源不足や、家具のコスト問題に
見事な解決策を出したモーエンセン。
私も素晴らしい先人達の作品から学び、
自分の力にしていきたいと思います。

今回はこんな感じでJ6という椅子の紹介でした。

では、また。

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