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【CEDEC2021】技術トレンド、注目セッションと全体の総評(今後のゲームデザインについて)

今年度のCEDEC(Computer Entertainment Developers Conference)について、技術トレンド、注目セッション、そして全体の総評をまとめてみました。

あくまで個人的なまとめ、素人目の感想ではございますので、ご容赦ください。また、修正・ご質問等がございましたら、ご連絡いただければ幸いです。

本記事については「CEDECの歩き方」「よくあるご質問」に記載されているSNSへの掲載規定に則って作成しています。もし掲載内容に問題があるようでしたらご連絡ください。また、各セッションの詳細については、すでにゲームニュースサイト様にてその内容が公開されていますので各自でご覧ください。

結論といたしましては、近年のITトレンド技術(AI、XR)がもたらすゲーム産業への応用事例からは、新たな価値やユーザー体験(UX)の可能性を見出すことができるでしょう。

総評でもまとめさせていただきました通り、今後のゲームデザインにおいては、

・近年のITトレンド技術の理解と応用(AI、XRなど)
・プレイヤーだけに留まらない俯瞰的なゲームデザインの設計(共生)

という従来のゲームデザインの視点だけでは留まらない、より柔軟な視点での開発が求められていくでしょう。

1.CEDECとは?

そもそもCEDEC(Computer Entertainment Developers Conference)とはなにかについて、ゲーム業界の人なら語るに及ばずかと思いますが、念のため概要を記載しておきます。

■ CEDEC(Computer Entertainment Developers Conference)とは?
・一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会 (CESA) が主催する技術交流会。

・毎年開催されているイベントで、ゲーム開発者向けの交流会としては国内最大規模。

・基幹技術やエンジニアリングといった講演、企画プロデュース、ゲームデザイン、音響にビジュアルアーツ、広報や開発現場のマネジメント等、ゲーム開発のあらゆる過程・要素についての講演やパネルディスカッション等が行われる。

(参考:CEDEC - ニコニコ大百科)

現在のゲーム産業における技術的トレンドや使用ツールなどの知識を網羅的に吸収できるため、ゲームクリエイター、エンタテイメントに興味関心を持つエンジニアは極力参加するのが望ましいでしょう。

2.参加費と無料ライブセッション

図1

・レギュラーパス(学生27,500円/一般38,500円)
・ライトパス(1,650円)

レギュラーパス(学生27,500円/一般38,500円)は高いです。ライトパス(1,650円)でもある程度のトレンドは把握できます。

ですが、レギュラーパスは、すべてのセッションを閲覧できるタイムシフト配信があるため、期間中は見放題などといった恩恵もあります。また、登壇者のレベルは総じて高く、値段に見合うだけの価値はあります。

技術的なカンファレンスではありますので、個人で参加費を払うのではなく、務めている会社によっては参加費を経費で落とせる場合もあります。

なお、現在Youtubeに掲載されている無料ライブセッションは参加費を支払わなくても閲覧可能です。


3.CEDEC2021の技術トレンド――AI(自然言語処理:NLP、対話エージェント)、XR、共生

CEDEC2021の技術トレンドについては、以下の3つに集約されるでしょう。

■ AI(自然言語処理:NLP、対話エージェント)
キャラクターとの対話における研究、それに伴う音声合成技術など
■ XR
AR、MR、VR技術を用いた新しい遊びやユーザー体験(UX)の創造
■ 共生(symbiotic)
人間と機械の共生(人間拡張:Human-Augmentationなど)
XRを活用した見学者も含めた全ての人が共感・体感できるゲームの創造

その他技術トレンドについては、「クラウド(AWS、Azureなど)」「ロボティクス」「IoT (Internet of Things)」「KPIのデータ分析・機械学習」といった、近年のITトレンド技術の応用事例が顕著に表れています。

また、「チーム制作(プロジェクトマネジメント)」「WBS・制作進行ツール(Brushupなど)」など、制作チーム体制の効率化・自動化についてもより洗練された形で提示されている印象を受けました。

その他のセッション内容としてはローカライズ、サウンド、映像、デザイン、3DCG、Unity、UE5、OSSライセンス、開発技法などが見受けられました。

4.注目セッション1:ゲーム産業における対話キャラクター人工知能技術の発展

■講演者
三宅 陽一郎 氏
株式会社スクウェア・エニックス
テクノロジー推進部
リードAIリサーチャー
■ セッション概要・得られた知見
(1) 対話エージェント技術のゲーム産業における歴史
(2) 対話エージェント技術の包括的、体系的な技術の体系
(3) これからの対話エージェント技術のロードマップ
https://cedec.cesa.or.jp/2021/session/detail/s6063fde4a3354

技術トレンドでも記述した通り、今年度のCEDECでは、AI(自然言語処理)に関するセッション―特に対話エージェント―が多い印象を受けました。

ゲームAI研究の第一人者である三宅 陽一郎氏のセッションでは、ゲーム産業における対話エージェント(キャラクターAI)における歴史を振り返りつつ、プレイヤーがキャラクターとより深く対話できるAIとはなにかについて解説しています。

キャラクターへの対話を通じて、物語世界とプレイヤーとの関係を構築するためには、どういったキャラクター設計が必要なのかを知るための示唆を含んでるセッションでした。

5.注目セッション2:冴えるヒロインの作りかた ~自然言語処理AIによるキャラクター性の抽出と反映への事例紹介~

■講演者
頼 展韜 氏
株式会社バンダイナムコ研究所
技術開発本部先端技術部AI課
係長

石原 健司 氏
株式会社バンダイナムコ研究所
技術開発本部先端技術部AI課
■ セッション概要・得られた知見
自然言語処理AIのトレンドとゲーム業界におけるアプリケーションを紹介。
・AIがどのようにセリフ制作の現場をサポートできるか
・キャラクターセリフ生成AIのできること・できないこと
https://cedec.cesa.or.jp/2021/session/detail/s6050864b7d609

こちらも対話エージェントに関するセッションです。バンダイナムコ研究所が開発している「ミライ小町」を通じ、よりキャラクターらしい対話エージェントの開発について具体的に解説しています。

キャラクターのための自然言語処理における対話エージェントでは、通常の対話エージェントに求められている機能性や正確性よりも、よりキャラクターらしい対話や面白さ、独自性を生み出すことに焦点・価値が置かれています。セッション中では、フィラー(あー、えー、などのつなぎ言葉)・呼称・役割語(語尾)・内容などを自然言語処理に取り入れることにより、キャラクターらしいキャラクター(冴えるヒロイン)を設計するためにはどうすればいいかを知ることができます。

今後こうしたAI技術を通じた新しいキャラクター像・ユーザー体験(UX)の創造がより盛んになっていくでしょう。

6.注目セッション3:XRで実現する共生のゲームデザイン(symbiotic game design)

■ 講演者
本山 博文 氏
㈱バンダイナムコ研究所
イノベーション戦略本部 プロデュース部 事業化推進課
クリエイティブディレクター

高橋 徹雄 氏
(株)バンダイナムコアミューズメントラボ
開発本部 企画部 企画2課
課長

岩田 永司 氏
㈱バンダイナムコ研究所
エンジニア
■ セッション概要・得られた知見
共生のゲームデザインの手法、そしてインクルーシブ社会においてゲーム開発者が担える役割を紹介し、ゲーム開発者として、ゲームに閉じない新たな知見や世界観を得られる視点を、先行例を交えて説明した。
https://cedec.cesa.or.jp/2021/session/detail/s6061fdbeb1555

また、今年は「共生」というテーマが感じられました。

たとえば、同社が開発・運営する「屋内・冒険の島 ドコドコ」では、バーチャルキャラクターとのコミュニケーションを主体としたアクティビティにおいては、アクティビティの中心価値はシナリオやキャラクターの設定ではなく、あくまで子供とキャラクターの関係性を作ることの重要性を述べています。

セッション中でも語られている通り、こうした「価値創出のためにキャラクターの捉え方を当初の案から変えていく」という動きは、今後独創的なサービスにつながる可能性を示唆しているでしょう。

また、GDC 2019で公開された「PAC IN TOWN」にて、「高い位置にあるアイテムを小さい子供が取れない」という問題が発生し、それに対して、子供がゲームをクリアできるよう、親が子供を持ち上げてゲームをクリアした事例が紹介されました。

このように「プレイヤー(デバイス装着者)とそれ以外(傍観者やオペレーター)が体験を共有できない」状況から、近くにいる人すべてを巻き込み相互作用させる、いわば「共生的関係」を生み出す試みについては、今後のゲームデザインにおいて重要な視点となっていくでしょう。

7.その他:CEDEC2021で興味深かったセッション

 ■ Human Augmentation:人間拡張がもたらす未来
暦本純一 氏:東京大学情報学環教授、ソニーCSLフェロー・副所長

人間の能力をテクノロジーによって増強・拡張させる技術である人間拡張(Human Augmentation)について紹介。人間の働き方や交流の仕方も含めた社会全体の構造や変化の未来を、先行例を交えて紹介し、他人の経験・感覚を技術を通して共有できるIoA(Internet of Abilities)について解説した。

https://cedec.cesa.or.jp/2021/session/detail/s60bd7c7532434
■ キャラクター経済圏とIPクリエーションの視点から望む、ニューノーマル時代におけるメディアミックスの新パラダイム
中村彰 氏:憲立命館大学、イシイジロウ 氏:ストーリーテリング、中山淳雄 氏:Re entertainment代表 慶応大学/立命館大学客員研究員

「キャラクター経済圏」「IPクリエーション」「トランスメディア・ストーリーテリング」という概念を軸に、日本のゲーム企業がこれからの時代にグローバルなメディアミックスを展開する上でどのような戦略をとるべきかについて、それぞれの知見を示しつつディスカッションを行った。

https://cedec.cesa.or.jp/2021/session/detail/s605d5a3d7ab9c

8.総評

■ ゲーム市場の発展と技術発展

近年のゲーム産業は、社会情勢における巣ごもり需要、生活様式の変化がプラスに働き、業界全体で売上を伸ばしています。

また、近年のITトレンド技術(AI、XR)がもたらすゲーム産業への応用事例については、技術トレンド、注目セッションに記載した通り、新たな価値やユーザー体験(UX)の可能性を見出すことができるでしょう。

■ 今後のゲームデザイナーにおいて重要な視点

すでに本文中でも記載している通り、今後のゲームデザインにおいては、

・近年のITトレンド技術の理解と応用(AI、XR)
・プレイヤーだけに留まらない俯瞰的なゲームデザインの設計(共生)

という従来のゲームデザインの視点だけでは留まらない、より柔軟な視点での開発が求められていくでしょう。

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