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だって彼の唇ほど甘くて美味しいものを私は知らない

道ならぬ恋。

友達に、散々とめられた。散々説教された。誰かが不幸になることなどやめるように言われた。絶対に誰かが傷付く。それはあんたか相手側か分からないけれど、絶対に誰かが泣くハメになる。そんなことはやめな。あんな奴はやめな。理解出来ない。後悔しても知らないよ。そう言われ続けた。

素直な私ならそこで止めたのだろうけれど、意地になっていった。ムキになっていった。だって恋してしまったのだ。自分の意志ではない。恋に落ちてしまったのだ。仕方あるまい。

けれど彼のどこが好きなのか言葉に出来なかった。彼の魅力は?何?

考えて考えて考え抜いて出した答え。それは彼の唇の甘さだった。

厚みがあって柔らかくてとろける唇。その唇から紡ぎ出される言葉。彼の知性。それらが私を刺激した。

人間は、私たちは、言葉を使って意思疎通する。会話する。けれど彼と私が行っていたのはもっと深く繊細なものだ。言葉を使って意識を交換していた。だから彼の言っていること、彼の考え、彼の世界が私にはよく理解出来たしそれはお互いにそうだったと思っている。多分。思い過ごしではないはず。私たちには私たちにしか分かり得ない世界があった。そこには、二人の世界が存在した。その中で、私は唇も体もハートも、くっついて溶けてしまえばいいと思った。そうすれば言葉さえいらない。本当に、好きな人と、一つに。

本当のことはなかなか目に見えない。肝心なことが伝わらないのと同じで、本当のことはなかなか目に見えない。けれど彼の言葉はすべて本当のことだった。頭がおかしいと言われるかもしれないけれど、彼の言葉は全て、本当のことだった。

だって彼の唇ほど甘くて美味しいものを私は知らない。

恋は盲目。

明日のこと?そんなの誰にも分からない。

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