今日の敗北 ~唐揚げ編~

 所属している学部、所属しているサークル。そのどちらにおいてもトップクラスの貧弱さを誇っているのが僕だ。同じ人間のみならず、動物、虫、挙句の果てには無機物にまで敗北をするその姿は、もはや敗北のプロといっても過言ではない。このコーナーでは、そんな僕の敗北体験について短文で綴っていく。


 2019年11月16日土曜日。20時30分にバイトを終えた僕は、バスに乗って今日の夕飯について考えていた。味噌汁にしようか、うどんにしようか。焼きそばを買ってもいいかもしれない。散々悩んだ挙げ句、出た答えは「疲れたしご飯作るのが面倒なのでなか卯で済ませる」だった。

 最寄りのバス停で下車したあと、足はまっすぐ目的地へ。自動ドアが開いた時のチャイムを耳に挟みながら、親子丼の大盛りと唐揚げ5個(合計710円)を購入した。元気のない店員の「少々お待ち下さいやせ(ませではない)」を聞きながら、僕はTwitterを開いた。

 その世界にはいつだって火種と話題が転がっている。やれフェミニストについて考えるイベントがあっただの、大野雄大がノーアウト満塁を抑えただの、沢尻エリカがまた逮捕されただのと、興味のない情報までが氾濫して押し寄せてくる。それらを目に流しながら、僕は今日のクソ客について思いを巡らせていた。

 ターゲットが来たのはおおよそ10分後。まずはあまり揚げたてっぽくない唐揚げの1つ目にかぶりつく。うん、まあまあ美味い。庶民舌の僕にはこれくらいがちょうどいい。余裕で3つほど平らげたあと、親子丼に手をつける。

 大盛りといえども所詮は鶏肉と卵、玉ねぎが乗ったただの白飯。僕の敵ではなかった。温かいお茶で口の中をリセットしたあと、4つ目も当然のようにクリア。そのままの勢いで5つ目の唐揚げを口に入れ、歯を下ろしたその時だった。


 ザリ。


 口内で小さく、嫌な音がした。それと同時に小さな、小さな刺激。なんだ?と妙に思いつつも、まあ衣の音だろうと気にせずに喉奥へと流し込み、店員に頼んでいた冷たいお茶を口に含んだその瞬間。ビリッという刺激が僕を襲った。先程ザリという音がした部分から、神経が痛みを発している。

 そう、犯人は最後の唐揚げ。彼は噛み砕かれるその瞬間、抵抗として僕の舌を傷つけていたのである。それも思ったより結構深く。お陰でその部分が何かに触れるたび、微妙に痛くてしょうがない。店員への「ご馳走様でした」は、捨て台詞だった。

 「やわらかい」と銘打っている唐揚げにさえ傷をつけられた。紛うことなき僕の敗北だ。家へ足を進めながら、僕はずっと口を閉じたままだった。口を開けば、冷気が舌を襲っただろうから。


 ああ、今日も僕は敗北した。許すまじ、やわらか鶏もも肉の唐あげ。

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