不運さんストーカー説

「どうしていつもこうなんだ」を抱えて

 それは例えば1000円払って食った、初めて行った店のラーメンがとても微妙な味だったり、暑いのが嫌なので雨が降り始めてから出ようと思っていたら雨の予報のくせにいつまでも雨が降らず、諦めて外出したら帰る直前に土砂降りになったり、ICカードをチャージしようと思ったら券売機が5000円を読み込んでくれず、このお札じゃ駄目なのかと隣の券売機で試してみたら一瞬でチャージが完了したり。

 そんな挨拶感覚でやってくるそんな不運や間の悪い出来事にもめげずに日々を頑張って生きている僕を、僕はもうちょっと褒めてあげてもいいんじゃないだろうか。そう思った。因みに上の出来事はすべて今日(執筆当時7月30日(木))に起こっている。

 以上、日記要素でした。……流石にもう少し詳しく書くか。


1.傲慢を認めて ~微妙なラーメン屋編~

 家の近くに最近ラーメン屋が出来た。早速行ってみたのだが、どうやらあまり売れていないようだった。ピカピカの店内、キラキラの調理器具、そして客は僕一人。その光景がなんだか、無性に哀しく、寂しく感じた。それはきっと傲慢に近い同情だったり謎に湧いてくる罪悪感だったりといった無意識下の感情から生まれる思いであって、どこまでも自己満足でしかなくて。僕はそんな思いを抱いてしまう僕自身があまり好きではないのだけど、それでも見知らぬ人生を生きる他人の為に悲しんだり幸せを願ったりすることが出来る自分が案外嫌いじゃなかったりする。


 さて、そんな哀しいラーメン屋。お味の方はどうかというと。


 や、割と美味い。うん。結構いける。

 スープは結構ニンニクが強めで割と独特な味、胡椒とか唐辛子とか以外の……なんだろ、スターアニス? よくわからんけどなんかちょっと甘辛い感じのものが入ってた気がする。麺も中細麺でスープにいい感じに絡んでたけど、相性はあんまりよくないなあ、と思った。メンマは普通。チャーシューはまあまあ。

 これ、もしかしたら僕が行った時間帯がまずかったんじゃないだろうか、と思った。近いうちに――今度は昼に行ってみようと思う。僕の傲慢が叩き潰されるもよし、ラーメン屋に足繁く通って常連彼氏面するもよし。常連彼氏面ってなんだよ。


 ともかく、勇気を出して行ってみたラーメン屋が思ったより美味かったということで僕は新規開拓に味をしめた。というわけで今日はバイト通勤の道すがらにあるラーメン屋に突撃してきた。

 ……びっみょー。いや、庶民舌の僕が言うのもなんだけども。

 なんというか、全てが中途半端だった。そのスープは味、香り、舌触りの全てにおいてこれといった強みを見出すことが出来ず、ステ振りをミスって器用貧乏になってしまったような印象を受けた。麺は少し縮れている太麺で、これは、うん。普通。可もなく不可もなしって感じ。そもそもスープがめっちゃ美味いってわけでもないので普通の麺に平均値スープが絡んでザ・平凡という感じ。そりゃあ自分でチルド麺とかカップ麺作るよりはずっと美味いと思ったけど。

 んで何よりチャーシュー。看板に「トロトロです!」って書いてる割に別にそんなトロトロじゃなかった。おい看板詐欺だろ。まずくはないけどさ。健康に悪い脂身だらけのチャーシューとか期待したら全然普通で「?」ってなった。

 しかも行きはガッツリ太陽出てたのにいざ店出たら大雨だし。くそ。


2.強欲を抱いて ~嫌がらせの天才・雨雲くん編~

 というわけでこの出来事は1の前後に起こっている。そもそもは朝、僕が曇り時々雨の天気予報を見たことから始まった。

 降水確率60%と書かれた画面を尻目に窓を見てみれば、ガッツリ元気な太陽がセミをオーケストラにして見事な輝きを見せていた。

 窓を開けてみる。ファッキンホット(くそあつい)。すぐに閉めた。

 おい朝っぱらから嘘こいてんじゃないよと雨雲レーダーを見てみると、どうやら11時半頃から雨が降るっぽい。行こうと思っていたラーメン屋は自分の家からおおよそ30分ほどかかるのでそれくらいに出れば丁度いいだろうとのんびりと過ごしていた。

 ――11時30分。着替え、歯磨き、その他準備を終えて家を出ると、頭上には太陽がこれまた元気に輝いていた。天気予報、大ハズレ。だけどそもそも夏というのは暑いものだ。だから暑くて当然だ、雨に期待するんじゃあない。そう自分に言い聞かせ、張り付くような湿った熱気とともにラーメン屋にへと向かった。


 さて、紆余曲折あり微妙なラーメンを完食。さあ行こうかとリュックを手にとり出口を見れば、なんだかすごい音がした。嫌な予感を覚えながらお代を払って扉を開けると、案の定というか、予想通りというか。鬼のような豪雨がそこには待っていた。

 あちこちでアスファルトを強く叩きつける音が聞こえる中、静かにリュックを開いて折りたたみ傘を取り出した。

「なんで今降るんだよ、おかしいだろ」

「朝に感じた不安を的中させてくるのをやめろ」

 マスクで口元が覆われていること、雨音と水を鳴らす車の走行音で聞こえやしないことをいいことに、一人呪詛を吐きながらバス停まで歩き、0円で来た道を200円以上かけて帰った。なんというか、萎えた。

 おい聞こえてるかtenki.jp。ゆるさねーからなおまえ。

3.憤怒を抑えて ~鎮静の深呼吸編~

 

 1と2を乗りこなせばバイトである。通勤代が出るのでバスに乗ること自体は問題なかったのだが、元々少なかったICカードの残高に予定外のダメージが入ってしまったのでバイト先の近くにある駅でお金をチャージしてから出勤することにした。……のだが。

 通勤ラッシュの時間でもないはずなのになぜか謎に混雑しており、5分とか10分くらい待たされた。ようやく券売機に並んでICカードを挿入。5000円分のチャージボタンを押して5千円札を入れた。

 戻ってくる。

 裏表を逆にしてみた。

 戻ってきた。

 入れる方向を反対にしてみた。

 戻ってきた。

 最後に、最初に入れた面のまま入れる方向だけ逆にした。

 当然のように戻ってきた。


 ……どうしよう? と後ろをチラ見すれば、そこには僕の処理を待っているスーツ姿のおっちゃん。入らないものは仕方がないよなととりけしボタンを押し、諸々を回収してからチャージせずにバイトへと向かった。


 バイト先でもやべー客が5人くらい来てとてもしんどかったのだが、これは割といつもの話なので割愛。


 帰り際にもう一度駅へ。今度は券売機がすべて空いていた。退勤ラッシュの時間帯なんですけどおかしいっすね。なんで?

 ともかく、今度はどうだと昼と同じ券売機でチャレンジしてみるが、やっぱり入らない。やっぱりお札が悪いのかもしれない、銀行で交換してもらおうかしらと思いながらも目線は隣の券売機へ。ダメもと作戦、決行。

 これで駄目なら潔く諦めよう(この時点ですでに潔くはなかった)と決めてICカードを挿入、同じ手順で5千円札を入れた。

『領収書の有無を選択して下さい』

 …………あれぇ? 入りましたよ?

 その駅には10個近く券売機があり、見た目だってどれも同じものだった。つまり僕はそれらの中からピンポイントで何故か自分の5千円札が読み取られない券売機を選択していたわけだ。10%以下の確率を、僕は無事に引き当てた。

「……………」

 すぅぅぅぅ、はぁぁぁぁ。

 すぅぅぅぅ、はぁぁぁぁ。

 落ち着け僕。怒るな。こんなくだらない事でキレるな。そう自分に言い聞かせて駅を出た。バイトで蓄積したストレスに先の出来事が重なって久しぶりにキレるのをなんとか抑えて、なだめて。なんとか帰途についた。胸にとどまった靄をどうやって払ってやろうかと、バスの中でそんなことばかり考えていたら目的のバス停を乗り過ごしかけた。その後はしばらく、自分のせいで乗り過ごしかけたのを無視して券売機を逆恨みしていた。


結局何も変わらないまま生が続くわけで

 つい最近誕生日を迎えた際に「不運が少しくらいマシになりますように」という願いをこめていたのだが、どうやら今年もハードラックとダンスすることになるらしい。モテモテですね。くそ。もしかして不運さんってヤンデレとかストーカーの類なのだろうか。

 お祓いに行くべきなのだろうか。しかし僕は実はクリスチャンだ。たとえ不敬虔であろうと他宗教にすがるわけにはいかない。結局、どうにもならない。何も変わらないまま同じように人生が続く。それはとても辛いことだ。ゆえに僕を助けなくてもいい、せめて不運のやっつけ方を教えてくれる人がいないかどうか。ちょっと探してみたいと思った。以上。

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