【#シロクマ文芸部】雪の女王と北風
冬の色へと村を塗り替える雪が舞い降り始めた日、ワクワクした気持ちで男の子は空に顔を向けていました。
「あ!」
男の子が急にしゃがみ込んだので、仲良しの女の子が駆け寄りました。
「カイ、どうしたの?」
「目になにか刺さった。ゲルダ、取って」
ゲルダが目をのぞき込もうとすると、カイが胸を押さえ座り込みました。すると、空から氷のソリに乗った美しい女性が降りてきました。
真っ白なフワフワの雪のファーと薄い氷のドレスをまとった雪の女王でした。
「私の氷のカケラを拾ったのはこの坊やね」
目から入った氷のカケラが心臓に刺さったカイは、妖しく笑う女王のソリに喜んで乗り込みました。
「カイ!行かないで!」
「うるさい!」
泣いてすがるゲルダをカイは突き飛ばし雪の女王と共に空高く飛び去りました。
泣いているゲルダに気づいて大人達が集まりましたが、雪の女王に連れ去らわれたと聞くと「もうダメだ」と諦めてしまいました。大人は長く生きた分だけ女王の怖さを知っていたからです。
しかし、ゲルダはまだ常識を知らない子どもでした。
「私は諦めない!」
そう叫ぶとソリが飛んでいった方向へ走り出しました。橋を渡っているとき北風がビュォ~と吹いたのでゲルダは川へ落ちかかりましたが、体がフワリと浮き岸へトスンと運ばれました。
「ありがとう。北風さん」
「なにを急いでいるんだい」
北風に聞かれたゲルダはカイのことを話しました。「女王の息は冷たすぎる」とつぶやいた北風は、黙って自分の背にゲルダを乗せビュゥビュゥビュゥゥ~と雪の女王を追いかけたのです。
雪の女王のソリは優雅に雪をふりまきながら走っていたので北風はすぐに追いつきました。
「おや、お前も可愛らしい人形を見つけたのかい?」
女王は北風に乗っているゲルダを見て言いました。
「お前、男の子を人形代わりにするのか?」
「そう、私は自分だけの人形が欲しかったのさ」
「男の子をよく見てみろ」
女王が見ると心臓の凍ったカイは全身が青黒く凍えていました。
「おかしいわね。私のファーで包んでいるのに」
「お前の雪のファーは人間には冷たすぎるんだ」
青黒く凍えているカイを見たゲルダは、思わず北風の背中から女王のソリに飛び乗りカイを抱きしめました。温かなゲルダの涙がカイに触れた途端、カイの頬はバラ色に戻りワァァンと泣き出しました。
「熱い熱い!お前達は熱すぎる!」
驚いた雪の女王が2人を放り出したので、北風が弱めの風で2人を村の外れにストンと下ろしました。
「せっかく可愛い人形を見つけたと思ったのに」
ゲルダの涙で火傷した跡を女王がさすっていると、北風が優しく冷たい息を吹きかけました。
「人形がいなくても俺がいるじゃないか」
「え?」
驚いて雪の女王が振り向くと、北風は次の村へと飛び去っていました。
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
雪の女王が慌てて北風を追いかけます。
その年は北風も雪も優しく、過ごしやすい冬となりました。
先週のコメント欄で童話っぽい雰囲気が好きと言われたため、12月のシロクマ文芸部は童話の二次創作で活動しようと思います。
はそやmからのクリスマスプレゼントと思ってご笑納ください。
来週のお題も童話につながるものだといいなぁ。
お願いしますね!小牧幸助部長!
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