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【落選供養】坊ちゃん文学賞②

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「自由」2


柔軟な思考を持つ若者が他の星の人に出会い、恋に落ちるには時間がかからない。偏見のない星々の交流を見て育った世代は、自由に異星人と恋に落ちた。だが、星の中だけで生活をしていた頃の記憶をうっすらと残している年代には、異星人との恋愛は受け入れがたいものとして攻撃の対象となった。

異星人同士の恋ははるか昔の国際結婚が異端視されたときのように拒まれ、親と子の間にトラブルを生んだ。血を守るというカビの生えた考えを振りかざした宇宙連合委員が、愛星精神をとなえ始めると、穏やかだった星間の関係がギスギスし、小競り合いが増えた。

小競り合いが戦争へとつながる懸念が出始めたとき、幻想的な雰囲気が若い恋人達に人気の辺境の星で悲劇が起こった。そこはあらゆる星の若者が集い、恋が生まれる聖地として親しまれた惑星だった。

その惑星は、若さと愛に満ち溢れた美しい星だった。

だがある日、太陽に似た役割を持つ星が突然燃え尽き急激な気温変化が起こった。逃げ遅れた多くの若者があっという間に暗闇に飲み込まれ、寒さに震えて命を落とした。

気温を保つために必要だった星が突如燃え尽きた理由として、異星間のいさかいを起こそうとした一派による陰謀説がすぐ流れた。一生を添い遂げられない恋人が自らの命を絶つために冷却装置を打ち込んだ説も有力視された。しかし、どの説も憶測の域を出ず真相はいまだにわからない。

血族を守ろうと主張して星の異なる者同士の結婚に否定的だった人々も、この悲劇には声を失った。冷静になると若い人達の恋愛感情はさほど悪いものではない、ということに多くの人が気づいた。どの星も気軽に行けるし結婚による新たな惑星との文化交流は、豊かな生活につながるメリットが多い。むやみやたらと異星人同士の結婚を反対するのは、意味がないかもしれない……。

愚かな過去の過ちを忘れず、異星間の交流で文化や科学技術を高めてきた経験を持つ人々だからこそ、若者たちの純粋な恋愛を受け入れるのに時間はかからなかった。

「星のカケラをグラスに」

とある星のバーで地球人の女性が注文をした。

星のカケラ、それはあの悲劇の惑星のカケラだった。

恋人の聖地として親しまれたあの星は冷え切り、そのまま朽ち果てるはずだった。しかし、愚かな過去が二度と起きないためのシンボルとして注目され、多くの観光客が訪れる地へと生まれ変わった。

ただ、観光地としての役割はすぐに終わった。急激な凍結は星の地質を悪化させ、多くの観光客を迎えるには危険を伴う環境だとわかったのだ。凍てついた星はひっそりと宇宙に取り残されるしかなかった。

地質学者を中心とした調査団が凍てついた星に降り立つと、足元の土はポロポロと崩れた。やはり、観光地として役割に耐えられないと証明がされたとき、ひとりの地質学者が何気なく凍った土のカケラをほんの少し、口に含んだ。

「……っ!」

横にいる同僚の声が聞こえた。

「?」

同僚は不思議そうにこちらを見つめる。

彼は彼女に恋をしていた。星の異なるその彼女を地質学者として尊敬しつつ、その輝く瞳にも強く惹かれていたが、今まで気持ちを伝えられず過ごしてきた。それが、凍土を口に含んだ瞬間、その彼女の声で「好き」と聞こえたのだ。

彼女はなにもしゃべっていない!それはわかっている!そう思いながらも口から次の言葉が転がり落ちた。

「僕も……僕も好き……」

突然の告白に驚いた表情をしていた彼女だが、彼の言葉に頬を染めコクンとうなずく。

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