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脚本『彼の幸福、彼女の真実』

あらすじ

永島英二(35)は妻の美羽、息子の琥太郎と、転勤のため田舎町に引越す。荷物を整理していると、一通の茶封筒を見つける。その中には、事故で亡くなった元婚約者・水上夏子(29)壊れたブレスレットと、お揃いで買った永島のブレスレットが入っていた。永島は、未だに夏子の事を忘れる事ができないでいた。そんな時、職場の先輩・高橋から死人に会わせてくれるという霊能力者の話を聞く。半信半疑だった永島だったが、もう一度会って謝りたいという思いが強くなり、霊能力者が住まう山へと向かう。そこで、出会ったのは狐の面を付けた女性だった。

登場人物

永島英二(35)(29)サラリーマン
水上夏子(29)故人・永島の元婚約者
永島美羽(33)(27)永島の妻
永島琥太郎(5)永島の息子
瑞朽(ずいきゅう)(40代位)霊能力者
狐の面の女(30代位)瑞朽の侍女
高橋(37)永島の会社の先輩
運転手

本編

〇山道
   小雨が降り、薄い霧に覆われた緑が生い茂る山道。
   永島英二(35)、登山服にリュックを背負いながら、息も絶え絶   
   えに山道を歩いている。
永島「(荒い呼吸で)一体、どこに」
   と、突然、近くの木々が揺れる。
永島「ひっ!」
   と、驚いて立ち止まる。
   茂みの影からカラスが鳴きながら飛びだしてくる。
永島「なんだ、カラスか」
   と、ほっと息をつき不安げに道の先を眺める。
   霧の先に果てしなく山道が続く。
永島「本当に、あるのかよ……」
   と、ポケットに手を入れ、ガサリという音に気が付き、取り出す。
   ポケットから取り出したのは茶封筒。
   封筒をじっと見つめる永島。
永島「……」
   と、封筒をぎゅっと握りしめ、再びポケットにしまう。
   その手首には、アメジストのブレスレットがあり、ハート型の飾りが   
   ついている。
   永島、再び前を見て、山道を歩き出す。
   と、先程カラスが飛び出した茂みから一匹の狐が出てくる。
   永島の後姿を、狐がじっと見つめて、再び茂みへと消えていく。

〇永島家・外観
   住宅街にある一軒家。
   T:数か月前
   表札は『永島』。

〇同・リビングキッチン
   あちこちにダンボールが沢山置かれている。
   永島美羽(33)、キッチンで、ダンボールから食器類を出してい
   る。
   永島琥太郎(5)、ダンボールの箱に置いたタブレットでアニメを見
   ている。
美羽「琥太郎! 遊んでないで、手伝って!」
   琥太郎、アニメに夢中になっている。
   美羽、ちらりと琥太郎を見て立ち上がり、タブレットを取り上げる。
琥太郎「あっ」
美羽「(怒って)お母さんの言う事が聞けないの!」
琥太郎「だって……ママが静かにしなさいって」
美羽「(怒って)それは、さっき引っ越しのおじさん達がいたからでしょ! 
 もう、帰ったんだから、ほら、自分の部屋に、玩具片付けて! 早く!」
琥太郎「でも、まだっ」
美羽「(大声で)早く!」
琥太郎「……はい」
   と、傍にあったダンボールから玩具を取り出してリビングを出てい
   く。
   美羽、琥太郎を見て溜息をつき、キッチンに戻っていく。
   と、リビングにダンボールを持った永島が入ってくる。
永島「琥太郎、泣いてたけど何かあったのか?」
美羽「遊んでたから、片づけなさいって言っただけよ! ほんっと、どんく 
 さい子よね」
永島「そんな言い方ないだろ。前から思ってたんだけど、ちょっと厳しすぎ
 ないか? 琥太郎、まだ5歳だし、怒るだけじゃだめだろう」
美羽「何? 私が、悪いって言いたいの?」
永島「いや、そういう事じゃなくて」
美羽「今のうちに、躾はきっちりしないと駄目なのよ。幼稚園だって変わる
 し。前みたいに、他の子どもと比較されて笑われたくないの! 琥太郎の
 ためにもならないじゃない!」
永島「でも、なあ。もうちょっと優しくして」
美羽「(遮って)ねぇ、話してる暇あったら、あなたの荷物上に持っていっ
 てよ! 明日から、仕事に行くんでしょ? 今日中に片づけたいの!」
   と、片づけを始める。
   永島、美羽をじっと見つめて小さくため息をし、持っていたダンボー
   ルを持ってリビングを出ていく。
   美羽、片づけながら永島が出て行ったのをちらりと見る。
美羽「本当、なんなのよ!」
   と、食器のダンボールから小箱を取り出す。
   それを、じっと見る美羽。
美羽「……ムカつく」
   と、小箱を調理器具が入っている引き出しの棚に乱暴にしまう。

〇同・永島の部屋
   永島、ダンボールを持って部屋に入ってくる。
   部屋の中は、数個のダンボール、棚や机が置かれている。
永島、ダンボールを置き、開封し始める。
永島「えーっと……何が入ってたかなー」
   と、ダンボールから中身を見る。
   中には、ノートの束やトロフィー、車の模型などが入っている。
永島「押し入れに入れてたやつか……ん?」
   と、ダンボールの中を漁る。
   中には、雑多なガラクタに埋もれて茶封筒が入っている。
   永島、茶封筒を取り出して中身を取り出す。
   中からは、ハートの飾りがついたアメジストのブレスレットと、透明 
   な小袋に入ったバラバラのペリドットのブレスレットの残骸。
永島「これ」
   と、そっと小袋に触れる。

〇(回想)パワーストーン店
   色とりどりの石が並べられている店内。
   T:6年前
   店内を見ている永島(29)と水上夏子(29)。
   夏子、ブレスレットのコーナーに近寄り、ポップを見る。
夏子「英二、見て見て! 誕生石でオリジナルのブレスレット作れるんだっ
 て!」
永島「へえ、誕生日でそれぞれ違うんだ。夏子は8月だから、ペリドットだ
 ろ。俺は2月だから……アメジストか」
夏子「ね、せっかくだからお揃いで作らない?」
永島「えー、俺はいいよ。どうせ、つけないし」
夏子「いいじゃない。パワーストーンってお守りみたいなものなのよ? 仕
 事の成績も上がるかも」
永島「いや、でも、なんか恥ずかし」
夏子「何? 私とのお揃いは嫌なの?」
永島「え、いやそういう訳じゃ!」
夏子「誕生石は違う色なんだからいいじゃない! あ、飾りもつけられるん
 だって!」
   と、棚からハート型の飾りを二つ取る。
永島「え、ちょっと、何勝手に決めてんだよ」
夏子「すみませーん! これ付けて、ブレスレット作りたいんですけど!」
   と、店員の方へと行く。
永島「え、ちょっと? 夏子さん!? 夏子さーん」
   と、慌てて夏子を追いかける。

〇(回想)公園・道
   手をつないで歩く永島と夏子。
   二人の手首には、それぞれペリドットのブレスレットとアメジストの
   ブレスレットがつけられ、ハートの飾りが付いている。
   と、突然、車の急ブレーキ音。

〇(回想)道路(夜)
   道を慌てて走っている永島。
   先の交差点に人だかりができている。
   永島、人だかりに向かって走っていく。
永島「すみません! すみません! 通してください!」
   と、人だかりを押しのけて前へと出る。
   道路へと出た永島、はっと息を飲む。
   バンパーが凹み、停車した車の下に倒れている女性の腕。
   あたりには血だまりができ、ペリドットのパワーストーンが散らばっ
   ている。
   永島、女性に近づいてしゃがみ込む。
永島「夏子……(絶叫)夏子!」

〇元の永島家・永島の部屋
   小袋に入ったバラバラのペリドットのパワーストーンをじっと見る永
   島。
永島「どこにいっちゃたんだろうな……ハート」
琥太郎の声「パパ?」
   永島、はっとしてドアを見る。
   空いたドアから部屋をのぞいている琥太郎。
永島「どうした? 琥太郎」
琥太郎「うん……ママがね、パパ呼んできなさいって」
永島「そうか。よし、じゃあ行こうか」
   と、ブレスレットを再び茶封筒に入れ、ダンボールにしまおうとする
   も、一瞬考えて、鞄の方に入れる。

〇会社・外観
   小さなビル。

〇同・事務所・中
   狭い室内に、机が並べられ、まばらに人が座っている。
   デスクに座りパソコンを打っているスーツ姿の永島。
   高橋(37)がやってくる。
高橋「どうだ? 永島、少しは慣れたか?」
永島「ええ、まあ」
高橋「本社にいたのに、こんな田舎の事業所に転勤なんて、お前何かしたの
 か?」
永島「何もしてませんよ。ただ、人事の関係で行ってくれって頼まれたんで
 す」
高橋「お前、お人よしだからな。いいように使われちまって。ま、俺はまた
 一緒に働けてうれしいけどよ」
永島「俺も、また一緒に働けて光栄です」
高橋「うれしい事言ってくれるねぇ、この後輩は。よし! 久しぶりの再会
 という事で、今夜一杯どうだ?」
永島「今夜、ですか?」
高橋「おう、いい店があるんだ。地酒に合う料理が旨くてよ」
永島「ああ……はい、大丈夫です。行きます」
高橋「よし! じゃあ、予約入れとくは」
永島「はい」

〇居酒屋(夜)
   客で賑わう居酒屋。
   テーブル席に、永島と高橋、沢山のつまみと地酒の瓶を飲み食べなが
   ら話している。
永島「そうそう、あの時、高橋さんが大慌て書類作って」
高橋「(笑って)それ言うなって。ああ、あの頃は楽しかったな」
永島「そうですね」
高橋「……そういえば。もう、5年、いや6年になるのか?」
永島「はい?」
高橋「夏子ちゃん」
永島「……」
高橋「俺、転勤になっちまったから葬式にも出られなくて、本当、悪かった
 な」
永島「……いえ」
高橋「それとさ……ずっと聞きたかったんだけど。お前、あの派遣だった子
 と結婚したって、本当か?」
永島「ああ、はい」
高橋「マジなのか。話聞いた時は、信じられなくてよ。あんなに夏子ちゃん
 の事好きだったのに……まさかと思ったが、事故の前からそういう関係だ 
 ったのか?」
永島「……1回だけでいいからって」
高橋「はい?」
永島「美羽に、今の妻に、1回だけでいいからって酒の席で言われて。俺
 も、つい出来心で、その後も、ずるずる何回かしちゃって」
高橋「浮気でバツイチになった俺が言う事じゃないけどよ。これから結婚し
 ようって男が何してたんだよ」
永島「本当、何してたんですかね……でも、あの時の俺、どうかしてて。夏
 子と喧嘩して、その後、事故に」
高橋「で、なんでその後、浮気相手と結婚しちまうんだよ。普通、考えられ
 ねぇぞ」
永島「できちゃったって言われたんですよ」
高橋「は?」
永島「子供、できたって言われたんです。3か月だって」
高橋「それで、責任取って結婚したのか?」
永島、酒をあおって頷く。
高橋「お前……仕方がないとはいえよ。夏子ちゃんと、彼女のご両親に悪い
 って思わなかったのか?」
永島「思いましたよ……だから、喪が明けてから籍だけ入れて、結婚式もし
 てません」
高橋「お前、それじゃあ、今の奥さんにも」
永島「(遮って)わかってますよ! でも、俺には、そうする事しかできな
 かったんです!」
高橋「……」
永島「美羽と何かするたびに夏子の事、思い出すんです。本当は、夏子とす
 るはずだったのに、本当はここに夏子がいるはずなのにって」
高橋「永島」
永島「俺のせいだって、罪悪感に押しつぶされそうで、本当、辛くて」
高橋「……」
永島「でも、息子が生まれて。毎日毎日、成長を見ているうちに夏子の事
 も、だんだん思い出さなくなってきて。幸せだなって思う事も、この頃、
 多くなってたんですけど」
   と、鞄から茶封筒を取り出す。
高橋「なんだそれ?」
永島「夏子の、ブレスレットです」
高橋「ブレスレット?」
永島「引っ越しの時に、荷物の中からでてきて」
高橋「……」
永島「今は、あの時に戻りたいとか、やり直したいとかは思ってないんで
 す……でも、とにかく謝りたくて。許してくれなんていえないけど、とに
 かく謝りたくて」
   と、酒を一気にあおり、涙目を腕で拭う。
   高橋、じっと永島を見る。
高橋「……なあ、もし本当に会えたらどうすんだ?」
永島「はい?」
高橋「もし、死んだ夏子ちゃんに、もう一度会えるとしたら、本当に謝りた
 いのか?」
永島「そんな事、ある訳ないじゃないですか」
高橋「だから、もしって言ってるじゃねーか……どうすんだ?」
永島「……そりゃあ、土下座して、何度でも謝りたいです」
高橋「……それ、不可能じゃないかもしれないぞ」
永島「は?」
   高橋、周りの様子をうかがって顔を近づける。
高橋「実はな、この町の近くの山奥に、霊能力者が住んでるらしい」
永島「霊、能力者? そんな、まさか」
高橋「このあたりじゃ有名な話なんだよ。山道をずっと歩いていくと、霧の
 中から突然、橋と大きな建物が現れて、そこに狐の面をかぶった女がいる
 んだと」
永島「狐の面?」
高橋「そう。で、その女に案内された場所に、その霊能力者がいて。その人
 に生前、死んだ人の持っていたものを渡せば、あの世から呼び寄せて、会
 わせてくれるんだと」
永島「いやいやいや。それ、ただの地元の迷信とかでしょ」
高橋「それが、そうとも言い切れないらしい。うちの会社の、事務の女の子
 の家族が、事故で亡くなったお祖母ちゃんに、土地の権利書の在りかを聞
 きたくて、その人の所に行ったんだと」
永島「そんな、まさか」
高橋「まあ、行った本人も初めは半信半疑だったらしいけどな? でも、実
 際行ってみたら、噂通りに建物はあるし、狐の面の女は現れて、霊能力者
 の所に案内してくれたんだってさ」
永島「で、会えたんですか?」
高橋「帰ってきたその家族は、お祖母ちゃんから聞いた隠し場所を探して、
 なんと出てきたらしい」
永島「いや、たまたまでしょ」
高橋「ほかにも、似たような話がこの町では、ちらほら聞くんだよ。な? 
 もし、本当に夏子ちゃんに会って謝りたいなら、試しに行ってみたらどう 
 だ?」
永島「……」

〇歩道(夜)
   永島、一人歩いている。
   ふと、立ち止まり鞄の中を探り、中から茶封筒を取り出す。
   茶封筒の中身を手のひらに出し、ペリドットのブレスレットの残骸が
   入った小袋を取り出す。

〇(回想)永島と夏子のアパート(夜)
   1LDKの小さな部屋。
永島、夏子に頭を下げる。
永島「本当、本当にごめん!」
夏子「……最低」
永島「ほんの、出来心だったんだ! お酒の勢いっていうか、つい気分が乗
 っちゃって」
夏子「……」
永島「その子の事、なんとも思ってないんだ! 俺が、好きなのは夏子だけ
 でっ、だから、今回は、そのっ」
夏子「……じゃあ、私も、英二の事好きだったら、他の男と寝ても許してく
 れるんだ」
永島「え?」
夏子「その場の雰囲気で私が他の人とエッチしても、英二の事好きだし許し
 てねって言えば、英二は平気なんだ!」
永島「は!? そんなの許すわけないだろ!」
夏子「でも、英二が言ってる事って、そういう事でしょ!」
永島「いや、これとそれとは話が違っ」
夏子「同じよ! でも、そっか……英二にとって私ってそんなもんだったん
 だね」
永島「夏子? 何言って」
夏子「もういい……大っ嫌い!」
   と、走って部屋を出ていく。
   呆然と、夏子の背中を見送る永島。

〇元の歩道(夜)
   永島、道の真ん中で立ち尽くしている。
   手には、ブレスレットの残骸の小袋。
永島「……会えるのか?」

〇永島家・外観(朝)

〇同・リビングキッチン(朝)
   朝食を食べている永島、美羽、琥太郎。
美羽「登山?」
永島「ああ……来週の土曜日に行ってこようと思って」
美羽「どうしたの? 今まで、運動とかしたことなかったじゃない。趣味も
 今まで全部インドア系だったのに……まさか、女の人と一緒じゃ」
永島「いやいや、会社の人、ほら、高橋さん! 美羽が、派遣でうちの会社
 に来てた頃にいた人」
美羽「ああ……あの、うるさい人」
永島「その人、また同じ事務所になってさ。一緒に行こうって誘われたんだ
 よ」
美羽「本当?」
永島「ほら、俺も運動不足だなって思ってたし。いい機会だと思って……
 ね?」
   と、お腹を摩る。
   美羽、永島のお腹を嫌そうに見る。
美羽「……たしかに、そのお腹どうにかしたほうがいいと思ってた」
永島「だ、だろ?」
美羽「わかった。その代わり日曜日は、買い物に付き合ってよね。色々と買
 い足したいものがあるの」
永島「あ、ああ。もちろん!」
美羽「約束だからね(琥太郎を見て)あっ、ちょっと! 何、零してるの
 よ! やだ、着替えないといけないじゃない!」
   と、横で食べ物を服に零した琥太郎の顔を、ふきんで拭きはじめる。
琥太郎「ご、ごめんなさい」
美羽「本当、何やらしてもダメなんだから!」
永島「……」
   と、怒り続ける美羽と泣きそうな琥太郎をじっと見ている。

〇山道
   霧が濃くなっていく山道。
   息も絶え絶えに歩いている永島、苦しさに立ち止まり、その場に座り
   込む。リュックから飲み物を取り出し、一気に飲み干す。
永島「はあ……どれくらい歩いたんだろ。やっぱり、ただの迷信か?」
   と、あたりの霧が薄くなってきて、道の先が見え始める。
   と、道の先に一匹の狐が座っている。
永島「狐?」
   狐、永島をじっと見て、後ろを振り向いて歩いていく。
   永島、慌てて立ちあがって、急いで狐を追いかける。
永島「待って! 待ってくれ!」
   狐、時折、永島を振り返りながら歩いていく。
   永島、走って追いかけていく。
   だんだん山が開け整備された道になる。
   と、狐、一度立ち止まり、永島を振り返ると、霧の中へと消えてい
   く。
永島「待て!」
   と、永島も霧の中へと入っていく。
   永島、急に開けた場所へと出て、驚いて立ち止まる。
   目の前には、橋とその先に大きな館が建っている。
   永島、驚き呆然と見上げる。
永島「本当に、あった」
   と、突然、鈴の音が鳴る。
   永島、はっとして、橋の先に目を向ける。
   橋の先、着物姿の狐の面の女(30代位)がいる。
   永島、緊張した面持ちで狐の面の女をじっと見つめる。
狐の面の女「こちらへ」
永島「えっ」
狐の面の女「橋のこちら側へどうぞ」
永島「あ、はい! あのっ、俺はっ」
狐の面の女「瑞朽様がお待ちです」
   と、後ろを向いて歩き出す。
   永島、慌てて後を追いかけて橋を渡る。

〇瑞朽の館・廊下
   長い板の廊下。静かで、人の気配がない。
   狐の面の女が歩いていき、離れて後ろを永島が歩く。
   永島、周りをきょろきょろと見て歩く。
   廊下の横の庭園には、所々に狐がおり、じっと永島の事を見ている。
   永島、怖くなり前を歩く狐の面の女の傍に行く。
永島「あの、死んだ人に会わせてもらえるって、本当ですか?」
狐の面の女「……」
永島「俺、どうしても会いたい人がいて」
狐の面の女「……」
永島「……あの」
   と、突然、狐の面の女が止まる。
   永島、驚いて立ち止まる。
   狐の面の女、永島の方を見る。
狐の面の女「こちらへどうぞ」
永島「……」
   と、恐る恐る狐の面の女が案内する部屋へと入っていく。

〇同・大広間
   広い和室。薄暗く、窓からの明かりしかない。
   永島、恐る恐る中へと入っていく。
   と、大広間の上座の奥に、人が座っている。
   永島、驚いて立ち止まる。
   上座には、着物姿で顔を黒い布で隠し、片膝をたてて座っている瑞朽
   (40代位)。
永島「……」
瑞朽「よくぞこられた」
永島「!?」
瑞朽「どうぞ、お座りなさい」
永島「……はい」
   と、数歩前に進んで、瑞朽とだいぶ離れた場所に、向かい合って座   
   る。
   瑞朽、小さく笑う。
瑞朽「そう、硬くならずとも好い。なにも取って食いはしません」
永島「……あのっ、俺、会いたい人が」
瑞朽「わかっております。夏子、でしたか?」
永島「なんで」
瑞朽「何か、彼女の身に着けていたものを持っておりますか?」
永島「あ、はい!」
   と、ポケットからブレスレットの残骸の小袋を出す。
瑞朽「その者に」
永島「えっ?」
   と、横を見ると、いつの間にか狐の面の女が立っている。
   驚く永島。
   狐の面の女、永島の手から残骸の小袋を取る。
永島「あっ」
   狐の面の女、少しじっと小袋を見てから瑞朽へと残骸の小袋を渡す。
瑞朽「これはまた……死の間際までつけていましたか」
   と、小袋から残骸を手のひらに開ける。
瑞朽「可哀そうに。驚いただろうね」
   と、指先でペリドットのパワーストーンをなでる。
瑞朽「覚悟はできてますか?」
永島「え?」
瑞朽「もしかしたら、あなたが望んでいる結果になるとは限りませんよ?」
永島「どういう、意味ですか?」
瑞朽「そのままの意味です。会えば真実を知ることになるかもしれない」
永島「真実?」
瑞朽「亡くなった者から知った事柄は、本来は知る由もないもの。知ってし
 まえば、あなたと周りの運命を良くも悪くも大きく変えてしまうかもしれ 
 ません。それでも、会いたいですか?」
永島「俺は、ただ、彼女に謝りたいんです。だから、会います」
瑞朽「……さようですか。なら、もう言う事はありません」
   と、立ち上がる。
永島「えっ」
   と、瞬きをした瞬間。瑞朽が永島の目の前にいる。
永島「!?」
瑞朽「力を抜きなさい」
   と、しゃがんで永島の顔に手を掲げる。
瑞朽「目をつむって、彼女の姿を思い浮かべなさい」
   永島、戸惑いつつ目をつむる。
瑞朽「あなたの運命が変わらない事を祈っています」
   と、永島の顔の前に掲げていた手を、横に払う。
   目をつむっている永島、顔に当たる風圧に肩を揺らし、後ろに倒れか
   り、思わず手を床に付こうとする。

〇苔の森
   永島の手が濡れた岩に付く。
永島「えっ?」
   と、驚いてつむっていた目を開ける。
   永島、眩しさに目を細め、徐々に驚きに目を見開く。
   目の前には、青々と生い茂った木々と苔生す岩場。
   岩間には川が流れ、せせらぎの音が聞こえる。
永島「ここは……」
   と、周囲を見回し、はっとする。
   苔の岩場の中に、背を向けて佇んでいる女性の姿。
   永島、その女性をじっと見つめ、立ち上がる。
永島「……夏子?」
   と、背を向けた女性が振り向くと、夏子。
   永島、夏子の顔をじっと見つめる。
永島「夏子……夏子、なのか?」
   夏子、永島の顔を見て小さく微笑む。
夏子「英二」
永島「夏子」
   と、夏子に近づこうと足を出す。
夏子「駄目よ」
   永島、足を止める。
夏子「あなたから近づいちゃ駄目。終わっちゃうから」
永島「えっ?」
夏子、小さく微笑んで英二に少し近づいてくる。
夏子「英二、老けたね。元気だった?」
永島「……」
夏子「私は、どお? 変わってないでしょ?」
永島「……」
夏子「英二?」
永島「(呟き)ごめん」
夏子「……」
   永島、その場に土下座をする。
永島「(大声)ごめん! あの時、俺が浮気なんてしなきゃ……夏子は、死
 なずにすんだのに」
夏子「……」
永島「俺……俺、本当に夏子にひどい事した! あの頃、夏子、仕事で忙し
 そうだったの、分かってたくせに! 一緒に家にいても、仕事の話ばっか 
 りで、恋人らしい事、何一つできないのが嫌だったんだ!」
夏子「……」
永島「だから、美羽に甘えられて、誘いに惑わされて……本当にごめん。俺
 が、俺が何もかも悪かった! 夏子は何も悪くない!」
夏子「……英二」
永島「お前が死んだ後、俺、美羽と結婚した……子供ができて責任取った感
 じだけど、死んだ後も、お前を裏切った……本当、本当ごめん! ごめ 
 ん、夏子」
   と、土下座をしたまま泣きだす。
   夏子、じっと永島を無表情で見つめる。
   泣き続ける永島。
夏子「……英二」
永島「……」
夏子「顔を上げて」
   永島、泣きながら、顔を上げる。
   夏子、永島のすぐそばに立っている。
永島「本当……ごめっ」
夏子「(遮って)英二」
永島「……」
   夏子、しゃがんで永島の視線に合わせてほほ笑む。
夏子「今、幸せ?」
永島「えっ?」
夏子「英二は、今、幸せなの?」
永島「……」
夏子「幸せじゃないの?」
永島「……」
   と、しばらく考えて首を横に振る。
永島「息子は、琥太郎は……可愛くて。でも、そう思うのもなんだか、申し
 訳なくて」
夏子「私のせいにしないでよ」
   と、すっと立ち上がる。
夏子「私ね。今、幸せなのよ? 英二がこうして会いに来てくれたんだも
 の。ずっと、私の事。覚えててくれたんでしょ? それだけで、私は十 
 分、幸せよ」
   と、永島を見てほほ笑む。
永島「夏子、俺は」
   と、夏子が永島に両手を見せる。
   その両手には、治ったペリドットのブレスレット。
永島「夏子、それっ」
夏子「ありがとう、大切に持っててくれて」
永島「ごめん、ハートの飾りだけは、見つからなくて」
夏子「仕方ないわ……彼女が、持ってるんだもの」
永島「彼女?」
   夏子、意味ありげにほほ笑む。
永島「……夏子?」
夏子「英二も、つけててくれたのね?」
永島「あっ……」
   と、自分の手首を見る。そこには、アメジストのブレスレット。
夏子「英二。これからは、自分を責めないで。でも、時々で良いから、私の
 事、思い出してほしい。このブレスレットを着けてくれている限り、私達 
 はずっと繋がっているわ」
永島「夏子」
夏子「だから、あなたも息子さんの事、ちゃんと愛してあげて」
   と、永島の手をつかむ。
夏子「私も、その方が嬉しいわ」
永島、夏子の手を握り返し、立ち上がる。
永島「本当に、ごめん。ごめん」
   と、涙を流しながら夏子の手をぎゅっと握る。
   夏子、永島を見て微笑み、そっと手を放す。
永島「……夏子?」
夏子「そろそろ、時間みたいだわ」
永島「そんなっ、まだ、話したいことが!」
夏子「元気でね。息子さんを大切にして」
永島「待って、俺は、まだっ」
   と、突然、夏子が永島に顔を近づける。
永島「!」
   夏子、永島の唇にキスをし、そっと離れていく。
夏子「じゃあね」
   と、微笑んで、そっと離れていく。
永島「夏子! 夏子!」
   と、離れていく夏子に手を伸ばすが、足が動かない。
永島「夏子! 俺は、まだお前の事がっ」

〇瑞朽の館・大広間(夕)
   寝ている汗だくの永島、はっと目を覚ます。
   上から永島をのぞき込む瑞朽。
瑞朽「会えましたか?」
   永島、呆然と瑞朽を見返し額の汗を手でふき取る。
永島「ここは」
瑞朽「私の館です。起きられますか?」
永島「はい……大丈夫です」
   と、体を起こす。
瑞朽「お役に立てたようでよかったです」
   と、立ち上がってその場を立ち去る。
永島「あのっ、お代は」
瑞朽「結構ですよ。金儲けでやっているわけではないので」
永島「えっ、あ、あのっ!」
瑞朽「まだ、何か?」
永島「あの……夏子は」
   瑞朽、永島を見てから、永島の後ろをじっと見つめる。
   その様子をじっと見る永島。
瑞朽「早くお帰りなさい、夜の山道は霧が濃くなります。(狐の面の女に)
 送っておやり」
   と、言って大広間を出ていく。
永島「あっ、あの!」
   永島、去っていく瑞朽の後姿をじっと見つめる。
   永島の後ろには、狐の面の女が立っている。

〇同・廊下(夕)
   狐の面の女が前を進み、離れて後ろを歩く永島。
   永島、窓の外の景色をじっと見つめる。
   夕日に照らされた庭園には、狐の姿はない。
   永島、景色をじっと眺めている。
   前を歩く狐の面の女、振り向かずに歩き続ける。

〇同・外(夕)
   橋の前へと進む永島。
   それを見守る狐の面の女。
   永島、橋の手前まで来て立ち止まり、後ろを振り向く。
永島「あの」
狐の面の女「……」
永島「瑞朽様に、お伝えください。今日、来て良かったと」
   と、笑みを浮かべてお辞儀をし、霧が濃くなる橋の向こうへ、歩いて
   いく。
   それを、じっと見送る狐の面の女。
   と、狐の面の女の後ろから瑞朽が現れる。
瑞朽「よかったのかい?」
狐の面の女「……はい」
   と、狐の面を外す。現れたのは夏子。
夏子「もう、忘れないでしょうから」
瑞朽「お前は優しい子だね」
   夏子、微笑みを浮かべて、橋の向こうをじっと見る。
夏子「彼女、気付くかしら」
   と、笑みを深める。
   どこからか鈴の音が鳴り、霧の包まれ、瑞朽と夏子の姿消えていく。

〇永島家・リビングキッチン(夜)
   キッチンで食事を作っている美羽、はっと顔を上げる。
   周囲を見回す美羽。
   コンロでは、鍋が煮えている。
   リビングでテレビを見ている琥太郎。
   美羽、作業の手を止めて、棚を開ける。
   棚の中には、小箱が入っている。
   美羽、じっと小箱を見つめる。
   グツグツと煮えている鍋。
   美羽、棚から小箱を手に取って、蓋を開ける。
   小箱の中には、赤黒く染まったハートの飾り。
   美羽、それを同じように笑みを浮かべて見つめる。
美羽「大丈夫……大丈夫よ」
   と、そこにチャイム音が鳴る。
   美羽、はっとして小箱の蓋を閉める。
琥太郎「パパだ!」
   と、玄関へと走っていく。
美羽、小箱を棚へと戻し、鍋の火を止め、キッチンを出ていく。

〇同・玄関・中(夜)
   永島、入ってくる。
   リビングから、琥太郎が走ってくる。
琥太郎「おかえりなさーい」
永島「ただいま、琥太郎」
   と、走ってきた琥太郎を抱きとめ、力強く抱きしめる。
琥太郎「パパ、痛いよ」
永島「ああ、ごめんごめん」
   と、琥太郎を離し、頭をなでる。
   リビングから美羽が来る。
美羽「おかえりなさい」
永島「ああ……ただいま」
   と、気まずげに笑みを浮かべる。
   美羽、頭をなでている永島の手を見る。
   袖の間から、ちらりと見えるアメジストのブレスレット。
美羽「!」
   永島、顔を上げて美羽を見る。
永島「ごめん、遅くなって」
美羽「……登山、どうだった?」
永島「ああ、うん。ちょっと疲れたよ。でも、行ってよかった」
美羽「そう……」
琥太郎「パパ! 今日は、カレーだって!」
永島「おお、そうか。楽しみだな」
美羽「もう少しかかるから、先に琥太郎とお風呂入ってくれる?」
永島「ああ、分かった。琥太郎、先に風呂入ろう。パパ、鞄置いてくるか
 ら、待ってろ」
琥太郎「うん!」
   と、リビングへと走っていく。
永島「荷物置いてくる」
   と、琥太郎を微笑ましそうに見送ってから2階へと上がっていく。
美羽「……」
   と、無表情で永島の後姿を見る。

〇同・脱衣所(夜)
   風呂場から楽し気な永島と琥太郎の声が聞こえてくる。
   美羽、じっと風呂場の扉を見つめて、そっと永島の脱いだ衣服の所に
   行く。
   美羽、永島の服を手に取って、その中から隠すように置いてあるアメ   
   ジストのブレスレットを見つける。
美羽「……まだ持ってたなんて」

〇(回想)永島・夏子のアパート(夜)
   アパートの近くで、見上げている美羽(27)。
   お腹にそっと、手を添える。
   と、乱暴に扉が開く音が聞こえ、誰かが階段を降りてくる。
   美羽、とっさに身を隠す。
   アパートから、夏子が泣きながら走っていく。
   美羽、じっと夏子を見つめて、後をついていく。

〇(回想)道路(夜)
   泣きながら走ってくる夏子。横の車道を車が走っていく。
   夏子、徐々に走る速度を落とし、とぼとぼと歩き出す。
美羽の声「夏子さん」
   夏子、はっとして後ろを向く。
   後ろには、追いかけてきた美羽。
   夏子、戸惑った様に美羽を見る。
夏子「あの……どなた、ですか?」
   美羽、じっと夏子を睨みつける。
美羽「別れて」
夏子「え?」
美羽「彼と、別れて」
夏子「あなた……まさか」
美羽「私、彼の子供、妊娠してるの」
夏子「!」
美羽「もうすぐ妊娠3か月。私生むからさ。ねえ、別れてよ」
夏子「そんな」
   と、手首にあるペリドットのブレスレットを無意識に手で触る。
   美羽、それをじっと見て睨みつける。
美羽「それ」
夏子「えっ?」
美羽「そのブレスレット……彼、絶対外さなかった。私を抱いてる時も、ず
 っと、つけたままだった」
夏子「……」
美羽「あんたさえ……あんたさえ、いなければっ!」
   と、夏子を突き飛ばそうと手を伸ばす。
   夏子、とっさに庇う様に腕を前に出す。
   美羽の手が、夏子の手首についているペリドットのブレスレットに引   
   っかかり、糸が切れてぺリドットのパワーストーンが弾け飛ぶ。
   車道に倒れる夏子。
   美羽、目を見開いて夏子を見下ろす。
   と、そこに猛スピードで来る車のライトが照らされる。
   はっと、車の方を見る夏子。
   鳴り響く車のクラクション音。
   目を見開く夏子。
   美羽が呆然とする中、ブレーキ音と人がぶつかる音が響く。
   道路に飛び散る血。
   車の下敷きになった夏子の腕は、血まみれ。
   美羽、腰を抜かして地面に座り込む。
運転手の声「大丈夫ですか!?」
   と、車を降りてくる。
   美羽、はっとして運転手を見る。
運転手、車の下敷きになっている夏子を見ている。
運転手「うそ……やべぇ、マジ、どうしよ。きゅ、救急車!」
   と、スマホで電話をかけ始める。
   美羽、運転手を見て、そっと立ち上がる。
   と、足元に、ブレスレットに付いていた血まみれのハートの飾りが目
   に入る。
美羽「……」
   と、じっとハートの飾りを見て、手を伸ばして拾い上げる。
   周りに野次馬が集まり始める。
   美羽、周りを気にしながら、そっと足早にその場を離れる。
   その後ろ、野次馬をかき分けて夏子の傍による永島の姿。
永島の声「すみません、すみません通してください!」
   振り向かずに歩き続ける美羽。
   その顔が、嬉しそうにニヤリと笑みを浮かべる。

〇元の永島家・脱衣所(夜)
   美羽、ブレスレットを見て、唇をかむ。
美羽「本当、ムカつく」
   と、アメジストのブレスレットを手に取って、その場を離れる。

〇同・リビングキッチン(夜)
   美羽、キッチンに戻ってくる。
   棚を開けて、中から小箱を取り出す。
美羽「ムカつくっ! ムカつく!」
   と、ゴミ箱に、小箱とアメジストのブレスレットを捨てようと腕を振
   り上げる。
   と、そこで、鈴の音が聞こえる。
   美羽、驚いてはっと顔を上げ、後ろを振り向く。
   と、後ろには、夏子の姿。
美羽「!」
夏子「あった」
   と、手にはアメジストのブレスレットを持ち、愛おし気に見つめる。
   その手首につけられたペリドットのブレスレットには、赤黒いハート
   の飾り。
   美羽、ハッとして自分の手を見ると、手に持っていたアメジストのブ
   レスレットと小箱がない。
   夏子、美羽を睨みつける。
美羽「いつまでもウザいのよ! さっさと、消えなさいよ!」
   夏子、愛おし気に見つめていたアメジストのブレスレットから目を離 
   し、美羽の方をじっと見つめる。
夏子「……いいえ」
美羽「!」
   と、夏子、美羽のすぐ目の前に来て、狐の様な笑みを浮かべる。
   夏子、美羽の瞳をじっと見つめる。
夏子「永遠に、私の物よ」
   と、笑みを深めて、数歩後ろに下がり、狐の面を顔につける。
夏子「(甲高く)コン!」
   と、鈴の音が鳴り、静かに消えていく。
   美羽、夏子が消えた場所を呆然と見つめて、その場に崩れ落ちる。
美羽「……」

〇同・永島の部屋(夜)
   パジャマ姿の永島と琥太郎がベッドに並んで寝ている。
琥太郎「ママ、どうしたんだろうね? カレーも食べないで。今日は、パパ
 と一緒に寝ていいって」
永島「どうしたんだろうな?」
   と、手首のアメジストのブレスレットを見る。
   琥太郎、ブレスレットに気が付く。
琥太郎「綺麗だねー」
永島「ん? そうか?」
琥太郎「うん! それ、何?」
永島「これか? これは……パパの大切な人との大切な思い出だ」
琥太郎「大切な人?」
永島「ああ」
   と、琥太郎を見て優し気に微笑み、頭を撫でる。
   琥太郎、嬉しそうに笑い、眠そうに欠伸をする。
   永島、琥太郎を見て幸せそうに笑う。
永島「(呟き)夏子……俺、幸せになるよ」
   と、微笑みを浮かべる。
   琥太郎、眠り始める。
琥太郎「おやすみ、パパ」
永島「ああ、おやすみ」
   と、笑みを浮かべて、部屋の電気を消す。

                         終


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