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ドラマ『ドクターX』の闘牌が意外とガチだった【第1期】

この記事は、2013年11月25日に書いた、以下のブログをアップデートしたものです。
主な追加内容は、「12月公開の劇場版に備えて、これから滝に打たれる覚悟で全シリーズレビューするよ」という宣言と、麻雀マンガファンには『打天使』で知られる、かどたひろし先生が手がけたマンガ版『ドクターX』のレビューになります。


0.はじめに

自分語りが無駄に長くなってしまったので、ドラマ『ドクターX〜外科医・大門未知子〜』(第1期)の麻雀シーンについて見たい人は、このパートは飛ばしてください😌

寄らば大樹の陰

上に貼った『ドクターX』の11年前の記事は、私のブログでは一番アクセス数が多かった記事でした。これは、人気ドラマである『ドクターX』の麻雀シーンについて書かれたものが、他にはあまりなかったからでしょう。やっぱ、検索で引っかかりやすい、人気のあるヒトやモノの名前をつけた記事が強いんだよな。

ちなみに、アクセス数が多かったツートップのもう片方は、人気マンガ『ジョジョの奇妙な冒険』の「第6部 ストーンオーシャン」をネタにした以下の記事でした。2021年のアニメ化以降、目に見えてアクセス数が伸びましたね。

このnoteで一番アクセス数が多いのも、麻雀界のスーパースターの名を冠した以下の記事になります。

『ドクターX』は、毎回、「この女、群れを嫌い、権威を嫌い、束縛を嫌い……」というナレーションから始まります。しかし、その『ドクターX』の記事を書くことで、ドラマのメッセージとは真逆の「寄らば大樹の陰」という教訓を得たのでした。
とはいえ、そういうのばっか書いてるわけにもいかないんだけど。

今度はいたしますっ!

さて、先月、2012年に放送を開始した『ドクターX』のラストを飾る劇場版が、12月に公開されることが発表されました。映画で完結すること自体は昨年から話題になっており、そのときからどうしようかと迷っていましたが、長年の恩返しをするためにいよいよ覚悟を決めました。

11年前の記事は、主人公の口ぐせを借りて、「第2期以降のレビューは――、いたしません」という言葉で締めくくっていました。

しかし、今度はいたしますっ!
映画公開までに、第2期から第7期までとドラマスペシャル1本のレビューをいたしますよ!

1.ドラマ『ドクターX』の闘牌が意外とガチだった

第1期のみ「私、失敗しないので。」ではなく、脚本家の前作『ハケンの品格』を強調

第1期DVDを観ていたら

元記事は、2013年11月の『ドクターX』第2期放送中に、第1期(2012)のDVDを観ていて、余計なことに気づいたので書いてみたものです。

ドラマ『ドクターX』では、ほぼ毎回、麻雀シーンが出てきます。
主人公・大門未知子は、ギャンブル好きだがいたって弱いという設定で、仲間のフリーランスの医師らと麻雀を打っては負けて、借金を増やすことになります。ほとんどの場合、切る牌に悩んだあげくに大物手に振り込むというパターンで、天才外科医の冴えない一面を見せるコミカルなシーンとして描かれています。
また、時折、「患者を(手術で)切る」ことと「牌を切る」ことを掛けたやり取りも見られます。
登場する手役は、後の方にまとめましたが、純チャン三色に役満と大物手ばかりです。

『ドクターX』の麻雀シーンは、はっきり言って、闘牌と言えるほどたいしたものではなく、「そうよね。一般ドラマの麻雀シーンならこんなものよね。ポンチーが激しい品の無い麻雀は見ていられないものね。ホホホ」という感じでほほえましく見ていたのですが、第6話ではそんな麻雀シーンの様相が変わります。

第1期 第6話 麻雀シーン

知り合いの豆腐屋のおっちゃんのアドバイスを受けながら、麻雀を打つ未知子

珍しいことに、デデーン、と⑨筒待ちの役満・国士無双をアガります。

未知子の手牌と捨て牌から、豆腐屋のおっちゃんのアドバイスは、「中ではなく発を切れ」というものだったことがわかります。

そんなのどっちだっていいだろうと思いきや、

何と、国士に振り込んだ下家が、中単騎のメンホン七対子チートイツをテンパっているではありませんか! 豆腐屋のおっちゃん、有能😍

つまり、このシーンは、麻雀マンガではおなじみの「他家の当たり牌をカンよく止めて、自らの大物手を成就させる」シーンだったわけです。

しかし、驚いたことに、「かーっ! 中を切ってくれたら、こっちのアガリだったのによ!」みたいな状況を説明するセリフはなく、それどころか、下家の手牌のアップもありませんでした。
そのため、麻雀がわかる視聴者の中でも、下家のテンパイに気づいた人はあまりいなかったのではないでしょうか。

闘牌と脚本のリンク

『ドクターX』の麻雀指導を担当している七字幸久さんは、Vシネマ『真・雀鬼』シリーズの脚本や麻雀演出も手がけたことがある人なので、ちょっと本気出してみた、って感じなんでしょうかね。ともかく、第6話の麻雀シーンは、なにげに、これまでの『ドクターX』のそれとは一線を画すものだったのでした。
もっとも、これ以降は、あいかわらずのへっぽこ闘牌が続いています。

本人のWikipediaにはなぜか載っていませんが、七字さんは最新の第7期(2021)まで一貫して麻雀指導を担当しています。ところで、「七字」というペンネーム(?)は、麻雀には字牌が7種類あるところからきてるんですかね。

阿佐田哲也/浜田正則・嶺岸信明『麻雀放浪記』第10巻(2020)

さて、闘牌が説明不足だったという話とはややずれますが、闘牌と脚本のリンクについて考えてみます。
第1期(2012)の時点では、このリンクがあまりうまくいっていなかった例となるのが、第7話です。第7話には、未知子の師匠である神原が、役満・九蓮宝燈をアガるシーンが出てきます。
九蓮宝燈というのは特別な役満で、めったにアガれないことから、「アガった者は運を使い果たして死ぬ」という伝承があります。生と死を題材とする医療ドラマでは、ネタとして使いたくなるところだと思いますが、第1期の時点では特に言及されませんでした。
しかし、第3期(2014)の第10話では、まったく同様に神原が九蓮宝燈をアガり、そのラストで彼が病に倒れるシーンが描かれます。つまり、第3期では、闘牌と脚本の歯車が、これまでになくがっちりと噛み合っているわけです。このようにドラマ全体が徐々にこなれてくるさまを味わえることこそが、まさにシリーズを通してドラマを鑑賞する愉しみだと言えます。でも、全部観るのは大変なんだよ😢

第1期 麻雀シーンまとめ

『ドクターX』はツモアガリを封印しているッッッ!
……のかどうかはわかりませんが、第1期は見てのとおり、ロンアガリばかりでした。
しかし、改めて見ると、役満のオンパレードだな。そりゃ、借金まみれにもなるわ。

「点数」は和了者が子だった場合の点数

2.『勝負師の条件』の国士理論

国士理論とは

さらに言うなら、⑨筒待ちの国士無双をアガったときの『ドクターX』のこの捨て牌は、麻雀マンガ『勝負師の条件』の主人公・桂木の国士理論にも則っています。

山根(土井)泰昭/嶺岸信明『勝負師の条件』第1巻(1988)

桂木さんなら、当たり牌の⑨筒をビタ止めして、「⑧筒が早くでたのは⑨筒が無いからだ―」

と言ってくれたはず。

こういった描写を見ると、麻雀マンガの戦術書としての側面に、改めて目を開かされます。

『勝負師の条件』の時代

V林田『麻雀漫画50年史』(2024)を大雑把にグラフ化したもの
※下段のマンガは竹書房以外から出版された作品

『勝負師の条件』全3巻が出版された1988〜90年は、麻雀マンガにとっては過渡期に当たっていました。1980年代に全自動卓が普及したことで、積み込み等のイカサマ技が通用しなくなったという現実を反映して、麻雀マンガもまた質的に変化しつつあったんですね。
V林田さんの大著『麻雀漫画50年史』では、『勝負師の条件』は、この過渡期の代表作として挙げられています。なお、原作の土井泰昭先生も、当時は最高位戦所属の麻雀プロであり、2001年にはプロ協会を創設することになります。

このような麻雀自体の変化と、麻雀プロが闘牌原作を担当するという麻雀漫画の変化から、このころより本格派麻雀漫画は「イカサマなしでの強さ」を志向するようになった。
(中略)
実際に巷の麻雀プレイヤーのレベルが向上していたかどうかはともかくとして、「イカサマをしなくても(イカサマをする奴より)強いキャラ」というのが麻雀漫画では主流になったのだ。

V林田『麻雀漫画50年史』(2024) 195〜196ページ
山根(土井)泰昭/嶺岸信明『勝負師の条件』第3巻(1990)

3.マンガ版『ドクターX』を読んでみた

2013年に出版されたマンガ版『ドクターX』全2巻は、前年に放送された第1期のコミカライズでした。最近では時代劇マンガを多く手がけている、かどたひろし先生が作画を担当しています。
そのかどた先生が2000年代に描いていた麻雀マンガが、『麻雀創世記 打天使』です。

『麻雀創世記 打天使』とは

『麻雀漫画50年史』では、かどた先生は以下のように紹介されています。

00年代の近麻系列で不思議な存在感を見せたのが、85年にデビューしたベテラン漫画家・かどたひろしである。かどたは01年に青年を主人公にした作品『純』の連載を開始するのだが、ほどなくしてタイトルを『麻雀創世記 打天使』と変え、『純』のヒロインであった水無月夏の母親・水無月冬子が主人公の話へと切り替えると、これが当たるのであった。(後略)

V林田『麻雀漫画50年史』(2024) 499ページ

それにしても、『麻雀放浪記』の影響か、「麻雀〇〇記」とか「麻雀〇〇伝」とかタイトルにつけるのが当時の流行りだったとはいえ、「麻雀創世記」はスゴいな。
内容は、「神は一日目に字牌と数牌を造った」とかそういう話ではなく、和服の美女がヤクザの代打ちをする話になります。

『打天使』の魅力は、主人公である未亡人の色気と派手な闘牌の2点に尽きると思います。相手の手牌を強引に読み切ったり、流れを変える打牌をしたりとこの時代らしい闘牌もありますが、とにかくカンすりゃカンドラが乗って手が高くなるというわかりやすい派手さが印象に残ります。実戦の教科書にはならない、演出で押し切るタイプの麻雀マンガですね。

かどたひろし『麻雀創世記 打天使』第2巻(2002)

『打天使』の単行本は4巻で打ち切りになりましたが、その後に『打天使 完結編』が3巻出ており、外伝の『威打天』と合わせて、全8巻のシリーズとなっています。現在では、いずれも電子書籍で読むことができます。
『威打天』の主人公の「絶対に生牌ションパイでアガる男」と、ライバルの「絶対にラス牌でアガる男」の対決は、昔テレビでやってた『ほこ×たて』みたいで面白かったです。

また、『打天使』は、2008年から2009年にかけて、全3作でVシネマ化されています。パッケージ画像を見ても、確かにめっちゃVシネ向きの題材でしたね。
レビューは低評価ばかりでしたが、乗りかかった船で3作ともU-NEXTで観てみました。ヒロインに魅力がなく、点棒状況等がわかりづらかったりもしますが、ラスボス役の高樹マリアだけは雰囲気があってよかったと思います。あと、EDテーマが長くてキツいよ😣

マンガ版『ドクターX』はどうだったか?

さて、気の強いねーちゃんの主人公が麻雀を打ち、お色気シーンもあるとなれば、『ドクターX』は、事実上、『続・打天使』と言っても過言ではありません。そうなると、マンガ版『ドクターX』も、麻雀シーンに無駄に凝っているのではないかという期待が高まります。

だがしかし――

マンガ版は、1時間のドラマの各エピソードを50ページ弱に詰め込んだ、きわめてダイジェスト感の強いものでした。そのため、ドラマでは毎回出てきた麻雀シーンもほとんどが省かれています。

そんな中、唯一、ちゃんと闘牌が描かれていたのは、やはり第6話でした。

TVドラマ原作/かどたひろし『Doctor-X 外科医・大門未知子』第2巻(2013)

しかし、マンガ版でも、どうして中ではなく発を切った方がいいのかは説明されずじまいでした。そんなところまで原作準拠でどうする! しかも、未知子の捨て牌(最後のコマ)も第一打⑧筒がわかりにくいよ!😭
というわけで、第6話は制作側としても闘牌に凝った回という認識があったことを確認する一方で、麻雀マンガとしては『ドクターX』には特に見どころがないことも判明したのでした。そりゃそうか。

第2期のレビューに続きます。

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