ドラマ『ドクターX』の闘牌が意外とガチだった【第5期】
公開2周目を迎えた劇場版『ドクターX』は、大分前から宣伝がすごかった『はたらく細胞』が公開されても、3位に踏みとどまっています。
来週には何とか……。
『ドクターX』第5期(2017)
1.ストーリー
第5期は、若手に猫といろいろ新しい試みが行われたシーズンでした。
ゆとり世代の登場
第5期では、20代の若手医師の集団が登場しました。彼らは、いわゆる「ゆとり世代」になります。1987〜2004年生まれの「ゆとり世代」は、放送当時の2017年には13〜30歳でした。意外と幅が広いな。
最近は「Z世代」(1997〜2012年生まれ)について取り沙汰されることが多いですが、2017年には、この「ゆとり世代」(1987〜2004年生まれ)がよく話題にのぼっていました。作中でもふれられましたが、『ゆとりですがなにか』というテレビドラマも2016年に放送されていました。
これまでの『ドクターX』では、主人公の大門未知子(米倉涼子)は、権威主義にまみれた上の世代の医師たちに反抗する、比較的若い世代として描かれていました。しかし、番組と出演者が年を重ねたことで、さらに若い世代が出てきたわけです。
ドラマ的には、ゆとり世代の登場は功を奏していたと思います。彼らは、早々に医者の道に見切りをつけたり、職人的な外科医を志したり、上の世代と変わらず上役に媚びたりと多様なキャラとして描かれていました。権力闘争に明け暮れる年寄りばかりでなく、未知子に対するカウンターとしても機能していたんですね。
先生、死なないで………
話は飛んで、第5期の最終回(第10回)の患者は、ラスボスの内神田会長(草刈正雄)と、「身内を切るシリーズ 第3弾」となる未知子自身でした。
例によって二人とも重症化しているので、第4期の未知子のセリフを借りて、「どうして、こんなになるまで放っといたのよ!」とツッコみたくなるところです。しかし、医療関係者がバタバタ倒れていることに製作陣も危機感を抱いたのか、相棒の城之内(内田有紀)から「大門さん、あれだけ検診受けて自己管理してたのに……」というフォローが入りました。うーむ、ほなしゃーないか。
主人公が患者になると言えば、往年の名作『ブラック・ジャック』(1973〜1983連載)では、鏡を使うなどして、自分自身を手術する話がいくつかありました。
ただし、この回では、窮地におちいったところを助手のピノコに助けてもらうので、天才ブラック・ジャックでも一人で手術するのは難しいという話になっていました。
『ドクターX』でも、「私、自分で切っても失敗しないので」という感じで、自分で手術するのかなと思っていましたが、未知子が執刀医に指名したのは、第5期を通して弟子的ポジションにあった、ゆとり世代の西山医師(永山絢斗)でした。
自分の手術に先立って、未知子は内神田会長の手術を行います。未知子がオペの場で口にしたのは、第3期の回想シーンに出てくる、師匠の神原(岸部一徳)から若いころに言われた言葉でした。
「外科医の手術力は最初のトレーニングで決まる。どれほどの熱意をもって手術を学ぶか、どれほどうまい外科医の手術を見るか」
「一番大事なのは、どんなに厳しいオペでも決して患者を見捨てないこと」
これは、その場に居合わせた医師たち、特に、助手をつとめた西山に向けられた言葉でした。
師匠から弟子への魂の継承――これは熱い! 『ブラック・ジャック』で言えば、『青き未来』ですよ。
永山絢斗も、薬物問題がなければ今度の映画に出てたのかな……。
2.AI時代を医者は生き残れるのか?
■第5期ナレーション
毎回、何かしらの問題提起をしてきた『ドクターX』の冒頭ナレーションですが、第5期では完全に匙を投げてしまいました。
「本来あるべき姿を完全に見失った」って、ダメじゃん! どうすんの?、という問いに作中ではまったく答えがなかったので、ここではAIの話をします。
医療AIはどれくらい導入されているのか?
第5話では、「ヒポクラテス」という名の医療AIが登場しました。このAIが患者に下した診断は間違っており、正しい病因を突き止めた未知子によって、患者は命を取り止めます。
これにかぎらず、『ドクターX』では、最新技術に対してうさんくさい目が向けられることが多いです。未知子以外の医者が最新の医療機器で手術に臨むも、マシントラブルで手術は失敗、未知子のフォローで事なきを得るというストーリー展開が何度も繰り返されています。
2015年には、野村総研から「日本の労働人口の49%が人工知能やロボット等で代替可能に」という報告が出ていました。この報告では、AIによって49%の仕事が代替可能となるのは10〜20年後とされており、それなりのインパクトを与えはしたものの、第5期放送当時の2017年にはまだまだ現実味に乏しかったはずです。「AIの脅威」がはっきりと意識づけられるには、2022年のChatGPTの登場を待たねばなりませんでした。
なので、『ドクターX』でも、「AIはまだまだ人間の経験と勘にはかなわない」とたかをくくっていられたわけです。
2017年から7年経って、現実では医療AIの導入はどれくらい進んでいるのかと言えば、上に貼った「日経リサーチ」の2023年7月の記事によれば、全然進んでいません。
現在は足踏み状態ですが、「日本の医師1人当たりの外来患者数がOECD平均の2.3倍」という話もあるので、AIを使って医療がより効率的になればと思います。
AI時代を医者は生き残れるのか?
2017年当時の『ドクターX』では、AIはわりと軽視されていたわけですが、AIの導入がさらに進んでも医者の地位は安泰と言えるのでしょうか?
上に貼ったヒューマンサイエンス社の記事内の表が見やすかったので、そこから引用します。
前述の「日本の労働人口の49%が人工知能やロボット等で代替可能に」(2015)によれば、医者は、AIに取って代わられる可能性が低い職業の筆頭でした。安泰だったわ。
その一方、医療関係では、「医療事務」や「診療情報管理」は危ういとされていました。まあ、事務やデータ処理はどこもそうですよね。
最近の野村総研の資料を見ても、医者はAIとうまく共存していけそうなんで、ふとっしーも当分は安心ということになります。
3.麻雀シーンまとめ
第5期の麻雀シーンの見どころは、何と言っても、第10話の猫麻雀になります。倍満・役満が乱れ飛ぶ『ドクターX』の大味な麻雀シーンに、そろそろマンネリ感をおぼえていましたが、この「猫をメンツに加える」という奇策にはさすがに驚きました。
2015年に単行本化された『無法者』
猫麻雀について語る前に、まずは犬麻雀の話をしなければなりません。
2015年に、1980年代に連載された『無法者』という麻雀マンガが、「未来の麻雀」という同人レーベルから初めて単行本化されました。刊行したのは『麻雀漫画50年史』を著したV林田さんのサークルなので、まともな作品であるはずがなく、「犬が麻雀を打つシリアス劇画」という一風変わったものでした。これが「未来の麻雀」なの?
作品の紹介は、以下の「Black徒然草」さんの解説が、書き手が麻雀に詳しくないだけに、かえってわかりやすいんじゃないかと思いました。
私はこの『無法者』は読んでいません。すみません。でも、原作者の来賀友志先生の作品はけっこう読んでいるので、大体わかります。やっぱり師匠は死ぬんだなとか。
さて、前述のとおり、この『無法者』は2015年に単行本化され、話題になりました。そして、『ドクターX』の第5期は2017年に放送されています。つまり、「そっちが犬なら、こっちは猫だ!」と『無法者』に影響された可能性が十分にありそうなのが、第10話の猫麻雀の回です。
猫の手も借りたい(第10話)
メンツが足りなかったのか、第10話冒頭の麻雀は、神原さんの飼い猫であるベンケーシーがメンツに入っていました。ちなみに、元ネタは1960年代のアメリカの医療ドラマ『ベン・ケーシー』ですね。
昔の天鳳民は、ひどい牌を打ったときはよく「飼っている猫が勝手にマウスをクリックした」などと言い訳したものですが、いやあ、こんなことって本当にあるんですね。
残念ながら、ベンケーシーには、『無法者』のジョーのような華麗な牌さばきはできないようでした。神原さんがベンケーシーの代わりにツモり、一牌ツモるごとに、手牌の右端の牌を指して「これを切ってもいいか?」と尋ね、ベンケーシーが返事をしたら切っていくというやり方で打っていきます。
最終的に、ベンケーシーは国士無双の十三面待ちをテンパイしますが、未知子のアガリによって役満成就は阻止されます。ここまできたら、アガらせてやれよ。
第3期以降の『ドクターX』の麻雀シーンは、ダブル役満が平気で出るようになってきており、正直、このまま際限のないインフレが続くのかと危惧していました。しかし、今回の猫麻雀を見るかぎり、まだまだ闘牌にも期待できそうだぞと決意を新たにすることができました。
というわけで、2018年にMリーグが開始されてから初の放送となる第6期(2019)のレビューに続きます。