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2023年春・ゴールデン街

飲むわけでも吸うわけでもない私にとってゴールデン街はなくてはならない場所というわけではない。だがすぐ傍に誰かが生きていて、呑んで、喋って、笑っている。その気配が感じられることで、たとえ束の間であったとしても孤独が息をひそめる。その心地好さがわかる程には私も孤独が滲みついたようだ。

大道さんは時間をとめたいと仰るが、時間がとまったことのある私には、とまった時間を、見えない情景を繋ぎ合わせたくて写真を撮る、パズルのピースのようなものだ。ただ、シャッターを切った瞬間、自分が何を見つめていたのかだけは、写真を見ることで思い出すことができることもある。相互補完的だ。

事故で記憶のない頃、狂ったように写真ばかり撮っていた。当時はまだデジタルもなくフィルム(実は暗室作業ができる)。食費を現像代に充て自分が何を見つめていたのかを確かめていた。ゴールデン街で数枚だけ撮った写真を見て、ふとそのことを思い出した。そんなふうに生きていたことすら忘れていた。

恩師は優しく、情け深く、人の痛みというものをよく存じておられる。寂しがりやだがそのことを人には悟られまいとしていて、皆ほんとうは知っているけれどそのことには触れない。私のような者の行く末を案じながらも、君は大丈夫絶対に決まる、それまでの間をどうするかだけだ、と鼓舞してもくださる。