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こんな静かな雨の夜は、徹底的に孤独であり、この世界にはそもそも私以外誰も存在しないのではないかとさえ思えてくる。おそらくこの心境こそ、私が「在る」ことの無根拠性であり、それゆえ「出逢わないでもあり得たものが逢ふ」ことの驚くべき奇跡というものが、沁みじみと感じられるのかもしれない。

私はほんとうに誰かに出逢えているのだろうか。私の眼前に姿を現すとき人は確かにそこに在るが、ひとたび視界から姿を消せば、それは白昼夢や幻想のようにも思えてくる。実在とはいかにして担保されうるのだろうか。今この瞬間にも、誰かがほんとうにこの同じ世界に存在しているのだと信じられる何か。

連日の雨で息苦しく、葛湯を飲んで深呼吸。今ここに私が在ること、そして在り続けているということ、それ自体がすでにして世界の必然ではない。存在の無根拠性を引き受けるなら、おそらく九鬼はその上で尚各々に「在る」者同士が出逢うことについて驚嘆し、それが殆ど奇跡であると感受したのであろう。