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父の思い出

小学3年生の夏、海水浴遠足の前日微熱が出た。心配性の母は「明日の海水浴は欠席やな」と言った。田舎の小学生にとって年に1度の海水浴遠足は凄く楽しみに待っていた行事だった。泳げない母の代わりに海水浴に付添で行く父が落ち込んでいる私に「明日は海に入らず見学だけなら遠足に行っていいぞ」と言った。次の朝、母は心配そうに父と私を見送った。
海に着くと意外にも父は「お母さんには内緒だぞ」と言って海に入ることを許してくれた。私は驚きと嬉しさで心がいっぱいになった。その日の海は荒れており波が高かった。父や友達と楽しく泳いでいると突然ひときわ大きい波が現れた。恐怖と驚きが私を襲った直後に大波にのまれた。海の中でパニックになった私はどこが上か下かも分からずただもがいていた。急に私の体が力強い腕で引っ張られ水面に引き上げられた。父の顔が見えた。
家に帰り濡れた水着を見た母は少し怒っていたが、父が私を大波から救い出した時自分の眼鏡をなくした話を満足そうに聞いていた。


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