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2021年上半期 個人的ベストアルバム50

さて、2021年も凄いスピード感で進み6月ももう終わり、ということで今年の半分が過ぎ去ろうとしてます。
なんだかんだで忙しい日々を送りながら、変化というものに敏感になってきたなと最近感じます。
前は気にならなかった些細な変化にも気付くようになったり、それがポジティブな変化でもネガティブな変化であっても、気になってしまうということはそれだけで神経を使うんだなと日々感じてます。
以前が大雑把な性格だったのもあるんだけど、世の中に毎日のように現れるちょっとした違和感やズレに反応しやすくなってる自分自身の変化に少し戸惑ってしまいますね。
今年の上半期も日々移ろっていく暮らしの中には音楽が当たり前のようにありました。
2021年、他を圧倒するような傑作や時代を導いていくような作品と呼べるものはまだ出てきていない気もしますが、生活に寄り添い彩りをくれるような味わい深い名作が多数生まれてるなと思いますね。
個人的によく聴いた、今後も聴いていくであろう、大切なアルバムを今回も50作品選んでみました。
まだ聴いたことのない作品や気になる作品を見つけてもらえたら嬉しいです。
それでは長くなりますがぜひ最後まで読んでみてください!


50. Bicep 「Isles」

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ロンドンベースのユニット、Bicepの新作アルバム。
緊張感のあるアグレッシヴなビートに躍動感あるトランシーなシンセと奇怪なヴォイスサンプルが絡んだ新感覚ダンスミュージック。
今回ヴォーカルが加わった楽曲がいくつかあってそれがどれも素晴らしい出来でしたね。
90sR&B経由のUKガラージ〜フットワークな「Saku」と「X」の2曲に客演してるのは、去年のYves Tumorのアルバムにも参加してたClara La San。
キレ味鋭いトラックとクールな声質が絶妙にマッチしてて、この人の今後の動向にも注目ですね。
部屋の中を一瞬にしてレイヴ会場へと変えてしまうような一枚です。

49. EXUM 「Xardinal Coffee」

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Antone Chavez Exum Jr.によるソロプロジェクト、EXUMのデビューアルバム。
NFLのプロアメフト選手として活躍し、その後音楽への情熱を捨てきれずEXUMとして活動し始めたという面白い経歴を持つ彼。
肝心のサウンドの方はというと、80sソウルやファンクをルーツにしたヒップホップサウンドといった感じで、こちらも中々個性的な仕上がりでしたね。
TV On the Radioにも近い、ブラックミュージック由来のグルーヴをもったロックのような響きもあって、一ラッパーのデビュー作としてはかなり意表を突いたサウンドだなと思いました。
終始ダークで怪しげな空気を醸し出していて、このあたりの不健康なビート感も80sのブラックミュージックと似た質感かなと思いましたね。
聴いたことない方が多いと思うのでぜひチェックしてみて欲しい作品です。

48. Iceage 「Seek Shelter」

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デンマークベースのバンド、Iceageの通算5作目となる新作アルバム。
最初に聴いた時は正直驚きましたね。
ここまでド直球にロックを鳴らすバンドだとは思ってなかったので、正直Iceageらしくない作品だなという印象でした。
Primal ScreamとかSpacemen 3みたいなサイケデリックなロックサウンドという感じもあるし、The Rolling StonesとかOasisみたいな痛快なロックンロールという感じもあるし、どちらにせよこれまでの彼らの歩んできた道とは異なる仕上がりで面白かったですよね。
ロックバンドってやっぱりカッコいいよなと改めて思わせてくれた作品でした。

47. Lia Ices 「Family Album」

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ニューヨーク、ブルックリンベースのSSW、Lia Icesの約7年振りとなるアルバム。
ゆったりと部屋の中で読書でもしながら聴きたいような、長閑なフォーク・ポップサウンド。
この作品を制作していた期間、彼女のお腹にはお子さんがいて、だからこそのこんな温かく柔らかな響きなんでしょうね。
そしてこの作品を手掛けたのはGirlsのメンバーでもあったChet “JR” Whiteなんですよね。
彼は昨年10月に40歳という若さで亡くなってしまったんだけど、この作品が彼にとって生前最後のプロデュース作だったわけですね。
自分は彼が2015年にプロデュースしたTobiass Jesso Jr.の「Goon」というアルバムが大好きなんですが、Liaのこの作品もどこか近い雰囲気を感じましたね。

46. Arooj Aftab 「Vulture Prince」

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パキスタン出身で現在ニューヨークをベースに活動しているSSW、Arooj Aftabの新作アルバム。
パキスタンという国は宗教上の理由やその他の要因で音楽に触れることに対して非常に厳しい環境なんだそうで、彼女は独学でギターを学びアメリカの音大に留学することになったんだそうです。
パキスタンの伝統音楽をベースにし、ジャズやアンビエントの要素をさり気なく織り交ぜたサウンドは、他に聴いたことのない唯一無二の美しさを放っていて、ここではないどこかへ誘われるような情感溢れる響き。
寂しげでありながらも温もりのある彼女のヴォーカルも非常に味わい深く、シンプルな演奏とのマッチングが本当に素晴らしいなと思いましたね。
このアルバムの制作中に弟さんを亡くしてしまったそうで、その悲しみや喪失感も伝わってくるような、美しくも儚い魅力を持った作品ですね。

45. Buzzy Lee 「Spoiled Love」

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LAベースのSSW、Sasha Spielbergによるソロプロジェクト、Buzzy Leeのデビューアルバム。
プロデューサーにNicolas Jaarを迎えた気品漂うアダルトなポップサウンドが心地良くて。
必要最低限に絞った引き算のプロダクションが素晴らしく美しい…。
この人、父親はあの映画界の巨匠Steven Spielbergで、Nicolas Jaarとは大学時代の友人だそうで、JPEGMAFIAのアルバムにも参加していたりとかなり面白い経歴をお持ちなんですよね。
ユニークな発想がサウンドにも映像にも表れていて目が離せない存在です。
部屋でしっとりと聴き入りたい一枚です。

44. Still Corners 「The Last Exit」

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ロンドンベースのデュオ、Still Cornersの通算5作目となるアルバム。
前2作から続く「ロード3部作」の最終章にあたる作品のようで、彼らの持ち味である旅情感溢れるドリームポップサウンドは今作でも健在でした。
アルバムジャケットや収録曲名からも分かるように砂漠の風景というのも今作のキーになっていて、砂漠の持つ荒廃感や虚無感、広大さや神秘性といったイメージが作品全体に散りばめられていますね。
女性ヴォーカルMurrayの少しやさぐれた、それでいてミステリアスな声も、楽曲をより妖しい色に染めています。
この辺りはFleetwood Mac、特にStevie Nicksからの影響を強く感じましたね。
アメリカーナ色の強いロードムービーを観ているような感覚がクセになる一枚でした。

43. Brijean 「Feelings」

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Toro y MoiやU.S. Girlsなどのバンドにパーカッショニストとして参加するBrijean MurphyとDoug Stuartによるプロジェクト、Brijeanのデビューアルバム。
涼しげでスムースなグルーヴ感のジャズ・ソウル〜ディスコ・ハウスは2年前のEPから健在で、バレアリックな心地良さはより一層磨きがかかったような印象。
ラテンなフレイバーも感じるトロピカルなパーカッションのリズムの跳ねがとにかく最高で、一瞬でリゾート地に誘ってくれる極上のサウンドなんですよね。
夏の暑さから逃れるためにこのアルバムを再生しまくっている未来がもう見えますね。
今年の夏の避暑アルバムとしてヘビロテすること確定です。

42. Jane Inc. 「Number One」

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カナダ・トロントベースのSSW、Carlyn Bezicによるプロジェクト、Jane Inc.のデビューアルバム。
彼女はU.S Girlsのツアーメンバーとして活動しながら、Ice Creamというデュオ、さらにはDarlene Shrugというグループのメンバーでも活動していて、トロント界隈のシーンではかなり名の知られた存在なんだそう。
ソロプロジェクトとして初の作品となった今作は、彼女がこれまでの活動で触れてきた奇妙で風変わりなサウンドがそのまま表出したような仕上がりに。
歪んだギターと煌びやかなシンセサイザーの音色が混ざり合い、悪趣味なネオンカラーの光を放つようななんとも奇抜なシンセロックが次から次へと展開していく様が痛快!
なんとも形容しにくいサウンドなので是非とも自分の耳で確かめて欲しいなと思います。

41. Suzanne Kraft 「About You」

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LA出身で現在アムステルダムベースのDiego Herreraによるプロジェクト、Suzanne Kraftの新作アルバム。
元々はアンビエントやニューエイジといった空間的なエレクトロサウンドを主に鳴らしていた彼ですが、今作はガラッと作風を変えてギターを中心とした音作りでとてもポップな仕上がりに。
AORのような親しみやすいメロウネスと、音の歪みが得もいわれぬ虚無感を醸し出すシューゲイズな響きが見事に融合した、まるで白昼夢のように美しい一枚。
様々な要素が組み合わさったサウンドなんだけど決して雑多な感じにはならずに、不思議なバランスで成り立っている奇妙な質感の作品なんですよね。
幅広いサウンドに精通している職人のような彼だからこそ生み出せる、様々なジャンルが程良い分量でちょうどいい塩梅で溶け合った融解点のような一枚ですね。

40. Mustafa 「When Smoke Rises」

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同郷のDrakeにその才能を認められ、James Blakeからも熱烈なラブコールを受けコラボまで果たしたトロントベースのSSW、Mustafaのデビューアルバム。
心と体に沁み渡るスモーキーで深みのあるヴォーカルと、シンプルな作りのソウル〜フォークサウンドがとにかく極上…。
今作にも参加しているJames BlakeやSamphaの声を初めて聴いた時、一瞬で心を掴まれてその世界に引き込まれるような感覚があったんだけど彼の声もそう。
濁りとか雑味とか危うさとか、ただ綺麗で美しいだけじゃない魅力がある感じ。
今後さらに大化けしそうなオーラを感じる一枚でしたね。

39. Dorothea Paas 「Anything Can’t Happen」

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カナダはトロントベースのSSW、Dorothea Paasのデビューアルバム。
彼女は地元で地道に音楽制作をしながら、近年ではU.S. Girlsなどのツアーメンバーやセッションアーティストとしても活動し、今作でようやくデビューまで漕ぎつけた遅咲きのアーティストなんですよね。
耳馴染みの良い軽やかでなおかつ大人の余裕を感じるフォークサウンドがとても心地良く響いてきます。
一聴しただけで分かるのが同じカナダ出身のSSW、Joni Mitchellからの影響ですよね。
ヴォーカルのスタイルから告白的な歌詞、楽曲のアレンジなど様々な面でJoniの良い部分を上手く自分のものにとして表現してるなという印象ですね。
こちらも聴いたことのある人が少ない作品かと思うので是非とも聴いてみて欲しいですね。

38. AYOCHILLMANNN 「The TrAppiEst Elevator Music Ever!」

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シカゴベースのプロデューサー、AYOCHILLMANNNとKanye Westのレーベルと契約してるラッパー、Valeeのコラボアルバム。
パキパキとしたトラップビートにゆったりとした浮遊感のあるジャジーなフレイバーが程良いアクセントでとても今の気分なサウンドでよく聴いてましたね。
シカゴのラップシーンというとChance the RapperやNoname、SabaなどのThe Social Experimentなサウンドが頭に浮かぶけど、彼はまた少し違うベクトルというか。
しっかりと現行のトラップサウンドな上で遊びを入れてる感じがなんとも洒落てますよね。
日常のBGMとしても重宝するセンス溢れる一枚です。

37. Andy Stott 「Never the Right Time」

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マンチェスターベースのプロデューサー、Andy Stottの通算8作目となる新作アルバム。
モノトーンのアートワークがそうであるように、彼のサウンドはいつだって淡々と粛々と沁み渡ってくる。
時折高ぶる温度やスッと鮮やかな色が差し込む瞬間がとにかく美しい…。
ダブ・テクノ・アンビエントが冷徹なまでに美しく溶け合う様は狂気すら感じるレベル!
実際はそれ程近くないのかもしれないんだけど、自分の中で彼の作る音楽はCocteau TwinsやThis Mortal Coil、PortisheadやGrouperなんかと同じサークル内に存在してるんですよね。
世界観とか美的感覚が同方向な気がして。
今作もそんな彼の美学が詰め込まれた素晴らしい作品でした。

36. Claud 「Super Monster」

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現在21歳のブルックリンベースのSSW、Claudのデビューアルバム。
Arlo ParksやClairoと並べて聴きたい、フレンドリーにノンストレスで耳にスーッと馴染んでくる良質インディーポップ。
良い意味で未完成な若さや青さやいなたさが歌詞やサウンドに表れていて。
Phoebe Bridgersが設立したレーベル、Saddest Factoryの第1弾アーティストがClaudなんですよね。
ジェンダーのことをいちいち音楽と絡めて語るのはあまり好きではないけど、彼女/彼みたいな存在が普通に現れる世界にいつしか変わったことは素直に嬉しいし、そういう才能をちゃんと世に送り出そうとする姿勢も気持ちがいいですよね。
素晴らしいメロディーセンスを持ったこれからが本当に楽しみなアーティストです。

35. Mdou Moctar 「Afrique Victime」

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ニジェール出身のギタリスト、Mdou Moctarの新作アルバム。
サハラ砂漠の遊牧民、トゥアレグ族の出身である彼のサウンドの特徴は、サハラ音楽をベースにしたアフリカンエスニックなビートにサイケデリックなギターの音色が絡み合う未体験のロックサウンドで、とにかく自由だなぁという印象でしたね。
アフリカ音楽特有の祝祭感というか儀式感みたいなのがとても好きなんだけど、彼の歌詞はかなりシリアスに社会問題などを取り上げててそこも興味深いなぁと。
徐々に高まってトリップしていく感覚も気持ち良いし、とにかくギターが自由に暴れまくってて最高なんですよね。
近年はロックも多様化してきていわゆるギターヒーローのような存在は中々生まれなくなってきてますが、彼には是非ともその空いた椅子に名乗りを上げて欲しいなと思いますね。

34. CFCF 「Memoryland」

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モントリオールベースのCFCFによる新作アルバム。
90s後期〜00s前期のハウス・トランス・ジャングル・パンク・ポップなどの音楽や映画、カルチャーへのリスペクトや愛、ノスタルジアが混在したダンスミュージック。
モラトリアムな青春期のほろ苦さ、危うさ、エモーションがフラッシュバックするような感覚…。
彼が今作のテーマにしている90s後期〜00s前期の頃の空気感。
まさにその時代に多感な時期を迎えてた自分のような世代の人間にとって、この作品の流れや空気や手触りは本当に胸に刺さるというか。
エモいというか。
Kero Kero BonitoのSarahをフィーチャーした終盤の「Heaven」の救いのような質感がたまらなく好きです。

33. Smerz 「Believer」

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ノルウェーベースのデュオ、Smerzの待望のデビューアルバム。
クラシカルかつアヴァンギャルドなエレクトロ〜エクスペリメンタルポップサウンドが凄まじい中毒性。
静と動、清と濁、明と暗。
耽美な世界観をキープしつつその佇まいをゆらゆらと変化させながらコントラストを描いていく様が本当に美しい…。
前2作のEPは自分にとって北欧の音楽シーンに再注目するきっかけとして本当に重要な作品で、Erika de Casierも彼女たちとの繋がりから知ったんですよね。
90sR&B感が色濃く出ていた前作までのカラーの方が好みではあるけど、既に自分達にしか出せないオーラを放ってて最高です。

32. Wolf Alice 「Blue Weekend」

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UKの4人組バンド、Wolf Aliceの通算3作目となる新作アルバム。
個人的に愚直にクオリティーの高い作品を作り続けている職人バンドのようなイメージを持っている彼ら。
派手さは無いものの、一つ一つの音にこだわりを持って鳴らした熟練のロックサウンドは今作でも健在で、バンド一人一人の個性がぶつかり合ったアンサンブルとしての完成度はこれまでで最も高いレベルなのかなと思いましたね。
神秘的なドリームポップもあれば、ラウドなパンクロックもあり、アコースティックなフォークロックにピアノが基調のバラードまであるという充実振り!
これだけ幅の広い作風なのに散らかっていないのは、やはり紅一点ヴォーカルEllieの巧さでしょうね。
今年屈指の高い評価を得ている作品なのも納得の一枚ですね。

31. Bachelor 「Doomin’ Sun」

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それぞれがソロのSSWとして素晴らしい作品を作り続けているJay SomとPalehoundの2人によるコラボユニット、Bachelorのデビューアルバム。
お互いのファンだったこともあり直ぐに意気投合し楽曲制作の流れになったという2人。
元々メロディーメイカーとして非常に優れた才能の持ち主である2人が組んだということで、まぁ良くならない訳がないという感じなんだけど、近年の女性SSWの充実振りを見事に形にした作品でしたね。
The PixesやThe Breedersとも通じる、程良くポップな部分も残したオルタナティブなロックサウンドがとてもちょうどいい具合なんですよね。
ちょうどいいってよく分からないかもしれないけど聴いてみたら分かる気がする。
とにかくちょうどいいんですよこのアルバム。
何度も聴きたくなる魅力を持った作品ですね。

30. Rochelle Jordan 「Play With the Changes」

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トロントベースのSSW、Rochelle Jordanの新作アルバム。
Childish GambinoやJessie Wareなどと共演した経験も持つ彼女ですが、約7年振りにシーンへとカムバックしてきました。
ハウスや2ステップ、UKガラージを巧みにブレンドした先鋭的なR&Bサウンドのキレ味が抜群で、Kelelaなどが推し進めてきた10sのプログレッシヴなR&Bの系譜に位置するような響きですね。
ヴォーカルの質感も含めてAaliyahやBrandyからの影響を強く感じる非常にスムーズでクールなスタイルで、様々なタイプのビートをしなやかに乗りこなしていく感じが見事でしたね。
R&Bとダンスミュージックの融合は昔から様々なベクトルでされてきていて凡庸になりがちなサウンドなんだけど、彼女のアプローチの仕方はしっかりとツボを抑えながらピリッとスパイスを効かす感じで、だからこそ同業のアーティスト達からも支持を集めてるんだと思いましたね。

29. SPIRIT OF THE BEEHIVE 「ENTERTAINMENT, DEATH」

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フィラデルフィアベースのバンド、SPIRIT OF THE BEEHIVEの通算4作目となる新作アルバム。
元々4人組バンドでしたが今作からスリーピースとなり、さらには名門Saddle Creekに移籍してのリリースと環境や体制がガラッと変わって制作された今作。
一体何を聴いているのか分からなくなるほどに多種多様な響きがごちゃごちゃに混在したカオスな質感の仕上がりで、そのサイケデリックなサウンドの先に待つ得もいわれぬ陶酔感というか没入感みたいな感覚がなんともクセになって何度も繰り返して聴いてしまうんですよね。
前にFrank Oceanが自身のラジオ番組で彼らの楽曲をセレクトして流してましたが、確かにサウンドの方向性とかジャンルレスな感じは近いかもしれないですね。
今年屈指のヘンテコアルバムです。

28. Patrick Paige II 「If I Fail Are We Still Cool?」

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The Internetのベーシスト、Patrick Paige IIの通算2作目となる新作アルバム。
70sソウル・ファンク由来のメロウなグルーヴと現行のドープなトラップビートが同居した、程良くノれて程良くチルい絶妙な仕上がり。
SydやSteve Lacy、Sabaなどの仲間達の他にも今作には多数のLAの若手ラッパーが参加してて、The Internetの時もそうなんだけどとてもファミリー感が強く出てる作品という印象なんですよね。
その辺がとてもブラックミュージック的というか、昔の大所帯のファンク・ソウルのバンドみたいな雰囲気で好きなポイントですね。
これから夏に向けて再生する回数がどんどん増えていくであろう一枚です。

27. Parannoul 「To See the Next Part of the Dream」

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韓国のシューゲイザープロジェクト、Parannoulの新作アルバム。
この作品との出会いは中々衝撃的でしたね。
子供と大人の狭間で揺れる青春時代の衝動や葛藤、苦悩を歪んだギターの轟音で描いたバンドサウンドが実にエモーショナル。
モヤモヤとざらついた美しく心地の悪い響きは、影響源の「リリイ・シュシュのすべて」の世界観とリンクするかのよう。
決して明るいとは言えない鬱屈した10代の日常と心情の揺れを描いたあの映画を観終えた時の、何とも言えないやり切れなさというか残響というか。
このアルバムに終始流れている空気もまさにそんな感じで。
先の見えないこの世の中を生きる自分達の心の中で鳴っている音は、もしかしたらこのアルバムで鳴り響くギターのディストーションのようにノイズにまみれたサウンドなのかもしれないなんて思ったり。

26. Genesis Owusu 「Smiling with No Teeth」

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ガーナ出身で現在オーストラリアベースのGenesis Owusuのデビューアルバム。
かつてPrinceやD’Angelo、OutKastがそうしてきたように、ブラックミュージックの枠をぶち壊しその可能性を拡げるジャンルレスで何でもありなサウンドが実に痛快!
ドープでファンキーなグルーヴとパンキッシュな疾走感の混在が最高でしたね。
曲によってはファンクだし、R&Bやソウルっぽくもありパンクロックみたいな感じもあるし、良い意味でばらつきのあるサウンドの展開がとても面白いんですよね。
最大の影響源はやはりPrinceだそうで、自由気ままに見えて実はこだわりのある音作りの作法は受け継がれてる気がします。

25. Indigo Sparke 「Echo」

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オーストラリアベースのSSW、Indigo Sparkeのデビューアルバム。
Adrianne Lenkerが制作に携わった生々しくみずみずしいフォークサウンドがひたすらに美しい…。
ほぼギターとヴォーカルのみの雑味の無いシンプルな響きが乾いた体と心にスーッと染み渡っていく感覚。
Adrianne Lenkerと共に音作りに参加してるAndrew Sarlo。
この人近年の良作にかなり関わってて、Big ThiefやBon Iver、Nick Hakim、Puma Blue、Hand Habits、Wilsenなどなど。
シンプルな音で立体感を生み出すプロダクションがいつも見事で、今後も彼には注目しておきたいですね。
今年最も癒しをくれる1枚になりそうです。

24. Crumb 「Ice Melt」

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NYベースのバンド、Crumbの新作アルバム。
チルいムードと微睡むようなメロウネスがドロドロに溶け合った質感は相変わらず極上で、前作よりも楽曲のバリエーションやアレンジの幅がさらに広がったなという印象。
この人達のサウンド、終始独特の揺れというかゆらめきというか、不穏でサイケデリックな音のざらつきみたいな不思議な質感が漂ってて、それがとても中毒性を帯びてる感じで好きなんですよね。
今回FoxygenのJonathan Radoが制作に参加していて、最近だとWeyes BloodやWhitneyなどの作品を手がけてましたけど音に深みを出すのが上手い人ですよね。
外部のプロデューサーと組むことで彼らの音の引き出しもより増えたような印象でした。
今年の夏も遠くには出掛けられなそうだし、この作品を聴きながらダラダラ過ごす休みも悪くないかな。

23. St. Vincent 「Daddy’s Home」

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St. Vincentの通算6作目となる新作アルバム。
デジタルロックを打ち出していた前作から一転、1973年のNYのダウンタウンをコンセプトにした時点で最高な作品になるだろうなと思ってたけど、オルガンやシタール・ギター、ドラムの鳴りが本当に当時の空気感や香りを纏っていて感動…。
コンセプト的には1973年のNYだけど、David BowieやRoxy Musicみたいなイギリスのグラムロックな雰囲気もあるし、その当時のソウルやファンクから影響を受けた頃のBowieとかPrince、Blondieみたいなヴァイブスも感じましたね。
それを甦らせるプロデュース能力がホント凄いなと思います。
クラシカルな上品さとけばけばしいドラッギーな質感の混在が絶妙。
作品毎に形態やサウンドを自由自在に変える彼女のクリエイティヴィティには脱帽ですね。

22. Jazmine Sullivan 「Heaux Tales」

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今年1発目にどハマりしたのがJazmine Sullivanのこちらの作品。
14曲収録ではあるけど本人的にはEPとしてリリースした作品みたいですね。
浮気、セックス、金、差別、見栄。
女性の内なる心情の機微をソウルフルに、ダイナミックに歌で表現し、ヒップホップやエレクトロを程良くブレンドさせつつ王道のR&Bサウンドに着地させた圧巻の完成度はさすがでした。
まぁでもとにかくヴォーカルの凄さですよね、この人は。
音域とか抑揚とか、細かなフレーズの動きとか、単純な歌唱力だけでなくテクニカルな部分も含めて今最も優れたヴォーカリストの1人が彼女でしょうね。
Brandyとかもそうなんだけど、声の使い方や動かし方が本当に巧みなんですよね。
同じ系譜にいるH.E.R.とのデュエットも素敵でした。

21. Topaz Jones 「Don’t Go Tellin’ Your Momma」

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ニュージャージー州出身のTopaz Jonesの新作アルバムも素晴らしい完成度でしたね。
ソウルやファンクが艶かしく絡んで生み出されたグルーヴが、一足早く夏を連れてくるかのような陽気で心地良いバイブス。
Childish Gambinoとも通じる、黒人としての葛藤や問題提起をラップと歌を交えた巧みなフロウで伝える表現力もお見事でしたね。
このアルバムをベースに制作された映像作品もあってこちらも面白かったですね。
昨今の人種差別や黒人の生活の問題や実情を、AtoZの形でピックアップしていく構成で、サンダンス映画祭で賞も獲得してるんですよね。
色々な楽しみ方が出来る一枚です。

20. Small Black 「Cheap Dreams」

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Small Blackの約5年振りの新作アルバム。
Washed OutやToro y Moiと共にチルウェイヴの流行のきっかけを作った彼らだけど、今作からGeorge Clantonのレーベル、100% Electronicaに移籍ということでさらに期待が高まってましたが、案の定素晴らしい作品を届けてくれました。
レーベルカラーとも近い浮世離れした80sシンセポップ由来のキラキラとしてサウンド。
80年代の終わりから90年代の始まりにかけて、こういったいわゆるブルーアイドソウル〜ポップスみたいなサウンドが流行したけど、そのリバイバルのような彼らの楽曲を聴くと少し前まで感じていた古臭さはあまり気にならないのが面白いなぁと思いますね。
懐かしい部分は残して上手くアップデートしている感じが見事です。

19. 大和那南(Nana Yamato) 「夜明け前(Before Sunrise)」

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現在20歳の日本人SSW、大和那南のデビューアルバム。
世界的にも有名な原宿のレコードショップ、BIG LOVEとParquet Courtsのメンバー、Andrew Savage主宰のニューヨークのレーベル、Dull Toolsから同時に全世界リリースという中々の大型新人っぷり。
日本人が海外進出する時にやりがちな、海外向けのよそ行き仕様なホンモノ感を出すわけではなく、あくまで彼女のやりたいDIY感強めのインディーポップに仕上げているのは好印象で、簡素で素材感溢れるシンプルなサウンドがとても面白い作品でしたね。
日本語と英語の響きの違いもあまり気にならないレベルでボソッと歌う彼女のヴォーカルもクセになるんですよね。
今後が楽しみな存在です。

18. Sun June 「Somewhere」

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テキサスベースの5人組バンド、Sun Juneのセカンドアルバム。
澄んだ空気の自然の中を散策しているような、清々しくゆったりとした時間が流れるドリームポップ〜フォークサウンド。
前作もその年のベストリストに選んだ記憶があるんだけど、今作はよりマイナスイオン成分が増したような印象ですね。
ギターの柔らかな揺らぎと包容力のあるヴォーカルの温もりに包まれて、聴いてるとすぐに脱力してしまう。
このアルバムを再生すると、もう何もしたくないという選択しか頭になくなるので、部屋でゆっくり過ごす時や眠りに就く前などに聴くのがオススメですね。
本当に心も体も癒される一枚です。

17. Dry Cleaning 「New Long Leg」

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サウスロンドンベースのバンド、Dry Cleaningのデビューアルバム。
80sポストパンク〜ニューウェイヴ発90sオルタナロック経由な、シンプルさと複雑さが混在したサウンドがとにかくクール。
冷めたように言葉を吐き捨てるスポークンワーズなヴォーカルスタイルも相まって退廃的な美しさが滲み出てる。
よく挙げられてるSonic YouthやGang of Fourの音感触にも確かに近いし、The Strokesみたいな潔さも感じるし、最近のUK発のIDLESとかFountains D.C.みたいな若手バンドとも共鳴してる感もあるし、様々な脈略で語るべきことが多いバンドですよね。
今後さらにビッグになっていくであろうことを予感させる素晴らしい完成度のデビュー作でした。

16. Lost Girls 「Menneskekollektivet」

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ノルウェーベースのアーティスト、Jenny Hvalとその長年の共演者でもあるミュージシャン、Håvard Voldenによるプロジェクト、Lost Girlsのデビューアルバム。
2018年に一度EPをリリースしてるんだけどそれ以来の作品ですね。
タイトルの「Menneskekollektivet」はノルウェー語で人間の集合体を意味するんだとか。
Jenny Hvalの諸作で聴かせるアヴァンギャルドでダークなエレクトロポップサウンドはそのままに、シンセのループやドラムマシーン、ギターのレイヤーによってより複雑に、より混沌とした響きになってるなという印象でしたね。
クラブライクなビート感ある楽曲もあったり、アンビエントなトラック上でポエトリーリーディングをするような曲もあったり、非常に実験的な内容の一枚でした。

15. Renée Reed 「Renée Reed」

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ルイジアナ州出身のSSW、Renée Reedのデビューアルバム。
ほぼ全編に渡って弾き語りで構成されたドリーミーなフォークサウンドが、田舎の田園風景や郷愁を春めいた風の匂いと共に運んでくるかのような。
自分のサウンドを「dream-fi folk from the cajun prairies」「ケイジャンプレイリー(ルイジアナにある伝統的な自然)生まれのドリーミーなフォーク」と称しているのも納得。
60年代のフレンチポップのようなレトロでローファイな感じもたまらなく好みですね。
これ2021年リリースの作品なの?と聴いてて不思議に感じてしまうくらいに隠れた名盤みたいなオーラを既に放ってるというか。
Joni Mitchellからの影響はもちろん感じるし、Jessica PrattやCate Le Bonあたりが好きな人にもぜひ聴いて欲しい一枚ですね。

14. Karima Walker 「Waking the Dreaming Body」

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アリゾナ州をベースに活動しているSSW、Karima Walkerの2作目となるアルバム。
シンセサイザーの浮遊感ある音色が空間を漂い、アコースティックギターの優しい調べが側に寄り添うアンビエント・フォークサウンド。
タイトルの通り夢をテーマにした楽曲が多く、音の感触は極めて曖昧でボヤーっとした響き。
夢と現実の狭間のようなモヤモヤとした彩度の低い描写と、環境音楽にも近い自然の音の揺らぎ、そして必要最低限のヴォーカルの情報量。
じっくり聴き込むというよりは、BGMとして聴き流すことを前提に作られたような雰囲気さえ感じましたね。
睡眠導入剤としてこれ以上ない作品ですね。

13. Lana Del Rey 「Chemtrails Over the Country Club」

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Lana Del Reyの約1年半振りの新作アルバムはもう流石の一言でしたね。
アメリカ中西部の雄大な自然を思わすような長閑なカントリー・フォーク調の楽曲が立ち並び、これまでで最もミニマリズムを追求したシンプルな構成はまるで古典映画を観ているかのような感覚。
幻のように儚いのにハッとする程に生々しい…。
アルバムジャケットにもあるように様々な女性達への賛美をテーマにした楽曲も多く、ゲストにWeyes BloodとZella Dayを迎えたJoni Mitchellの「For Free」のカバーで作品を締めくくっていて、Lanaがこの世代の女性SSWの代表としてこれからも進んでいくという心意気が感じられたような印象を受けましたね。
前作に引き続きJack Antonoffをプロデューサーとして迎えていて、彼らの相性の良さを再認識させられた作品となりました。
早くも今年中に新作アルバムが用意されてるというニュースもありますが、アーティストとして完全に覚醒状態に入っていることを確信出来る素晴らしい内容のアルバムでした。

12. Good Morning TV 「Small Talk」

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フランスベースのバンド、Good Morning TVのデビューアルバム。
とろけるようにチルいドリームポップと、ラフで粗っぽいギターロックが絶妙にちょうど良いバランスで共存したサウンドがとにかく好みでした。
Men I TrustやTennis、Crumbあたりが好きな人にはドンピシャだと思いますね。
Soccer MommyやJay Som、Barrieなどなど、ここ数年はもうずっと女性がヴォーカルのSSWやバンドに心を奪われ続けてるけど、このバンドもそのお気に入りリストに一瞬で入ってきましたね。
全ての響きがことごとくツボをついてくる感じ。
程良くアンニュイな感じがまたたまらない…。
雨の日のお供としても最高に活躍してくれそうな一枚です。

11. Floating Points, Pharoah Sanders & The London Symphony Orchestra 「Promises」

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Floating Pointsと伝説的なサックスプレイヤー、Pharoah Sandersによるコラボアルバム。
ロンドン交響楽団も交えた空間的でアンビエントな演奏が織りなす神秘的で崇高な組曲を、Pharoahの人間味あるサックスの音色を中心に据えながら組み立てていく様が実に巧み!
同じフレーズのループが徐々に熱を帯びていく展開も見事…。
この2組の組み合わせを最初に聞いた時は想像がつかなかったんだけど、実際聴いてみると驚く程に調和していて、現実世界と空想世界の中間点に存在する音楽のような不思議なサウンドな印象でしたね。
もっとサックスを前面に持ってくる音作りも可能だったはずなんだけど、引き算というか引きの美学というか、鳴っていない時の残響すら計算しているかのような音の構築がとにかく圧巻!
それでも頭や耳に強烈に残るのはサックスの艶かしい音色で、そこが彼の凄さなのかなと思いましたね。

10. Hildegard 「Hildegard」

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昨年の個人的なベストアルバムの一つだったHelena Delandと、同郷モントリオールのOuriによるプロジェクト、Hildegardのデビューアルバム。
8日間のセッションで生み出された、SmerzやTirzahとも共鳴するような実験的なエレクトロポップサウンドがとにかくクール!
Helena Delandのアルバムは去年最もよく聴いた作品の一つで今でもずっと聴き続けてるけど、今回のコラボ作ではガラッと印象を変えてかなりアヴァンギャルドに攻めたサウンドに挑戦してるんですよね。
トランスやR&Bなど曲毎に違ったベクトルで、Ouriとの化学反応が様々な形で表れてます。
やっぱりこの人の音楽センスはヤバいです。

9. The Weather Station 「Ignorance」

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カナダはトロントベースのバンド、The Weather Stationの新作アルバム。
女優としてのキャリアもあるヴォーカルのTamara Lindermanが中心の彼らのサウンドは、レイト80s期のFleetwood MacやTalk Talkあたりの残像がちらつく、洒脱でコンテンポラリーなアートポップサウンドといった佇まい。
クールで落ち着いた響きをジャズを絡めた巧みなアレンジメントで徐々に高揚させていく展開が見事でしたね。
ストリングスやサックスの華麗な音色がサウンドに華やかな彩りを加えてるんだけど、さらに上品なアクセントとして効いてるのがTamaraの声ですね。
彼女のアダルトで妖艶なヴォーカルの響きがサウンドをより洗練された仕上がりにグレードアップさせてる印象でした。

8. Dean Blunt 「Black Metal 2」

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2014年リリースのカルト的奇作から7年振りの続編となるDean Bluntの新作アルバム。
捉え所のないジャンルレスな異形のエクスペリメンタルサウンド、Dr. Dreみたいなアートワーク、ボソボソ呟くようなヴォーカル。
どこを取っても人を食ったようなカオスな質感が相変わらずブッ飛んでて最高でしたね。
前作の「Black Metal」は彼には珍しくギターを多用し、フォークロックのような楽曲もいくつかありましたが今作もその路線は踏襲してましたね。
終始薄気味悪い得体の知れない響きが鳴り続けてるんだけど、不思議と不快ではなくむしろ心地良くトリップしていくような感覚というか。
彼の音楽シーンでの立ち位置もそうだけど、一部の人にしか理解されないカルトヒーローのような、大衆性を完全に拒んだ仕上がりが物凄く潔くて好きですね。
凄まじい中毒性を持った傑作アルバムです。

7. Arlo Parks 「Collapsed in Sunbeams」

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ロンドン出身のSSW、Arlo Parksの待望のデビューアルバムは鮮烈でしたね。
先行曲が出る度に期待感を高めていたけど、まさかここまで上手くまとめてくるとは…。
10sの音楽を聴いて育った世代だからこそ鳴らせる、多様なジャンルのブレンド具合とその自然さがマジでセンス良すぎですよね。
彼女自身、影響を受けたアーティストとしてFrank OceanやPortishead、Radiohead辺りを挙げてて、彼らの音作りのメソッドや手の加え方は確かに受け継いでる感じありましたね。
アルバムにも参加している同世代の仲間であり友人でもあるClairoと共に、20sの音楽シーンの中心に躍り出ることを確信出来るような圧巻の完成度でした。

6. Loraine James 「Reflection」

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ロンドンベースのプロデューサー、Loraine Jamesの新作アルバム。
トリッキーかつアブノーマルなビートに、UKドリル〜R&Bを驚くほどシームレスにマッチさせた圧巻のサウンドプロダクション!
最新鋭のキレッキレのビート集としてもクールな歌モノとしても凄まじい完成度…。
聴けば聴くほどどうやったらこういう作りのトラックが完成するのか不思議でしょうがないんですよね。
不規則なリズムと多種多様な音色の組み合わせのセンスはさすがHyperdubという感じですね。
Laurel HaloやJessy Lanzaといったレーベルメイトのエレクトロ勢とも並べて聴きたいような、さらにはKelelaやDawn Richardといった先鋭的なR&Bアーティストとも共鳴するような。
聴くたびに驚きをくれる斬新な一枚ですね。

5. Japanese Breakfast 「Jubilee」

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韓国生まれでアメリカはオレゴン州で育ったMichelle Zaunerによるソロプロジェクト、Japanese Breakfastの新作アルバム。
母親との別れと向き合い少しずつ前へと進み出した彼女のポジティブなエネルギーに溢れた、雨上がりの路面のようにキラキラと輝く至高のポップミュージック!
去年CryingのRyan Gallowayと組んでBUMPER名義でまさに「pop songs 2020」という作品をリリースしてましたが、彼女の持つポップセンスが今作でさらに花開いたような印象ですね。
底抜けに明るいわけじゃない、葛藤や寂しさなどの感情の動きや揺れを隠さず描いてる感じが好きなんですよね。
キラーチューンの「Be Sweet」はもちろん、スムーズなグルーヴがたまらない「Slide Tackle」や、メロウなアジアンポップス「Posing in Bondage」など聴きごたえも抜群の傑作でした。

4. Cassandra Jenkins 「An Overview on Phenomenal Nature」

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ニューヨーク・ブルックリンベースのSSW、Cassandra Jenkinsの新作アルバム。
穏やかで柔和なフォークサウンドと洗練されたモダンなアンビエントサウンドが見事なバランスで混ざり合って。
緑や風の爽やかな自然の空気の中に都会的な香りを仄かに香らせるセンス…。
この辺りは去年のTaylor Swiftの「folklore」にも参加していたプロデューサー、Josh Kaufmanによる手腕も大きいのかなと思いますね。
どこまでも優雅で軽やかなサックスの音色と、壮大でありながら素朴な質感も持ち合わせたアコースティックな響き。
自分はDestroyerの「Kaputt」や、Weyes Bloodのサウンドが頭に浮かびましたね。
ここではないどこかの得も言われぬ美しさ。
喪失とそこからの再起をテーマにした歌詞もこの時代に寄り添うかのように心に沁みてくる。
傑作です。

3. Madlib 「Sound Ancestors」

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Madlib個人名義としては意外にも初となるフルアルバム。
とは言え実質的にはFour Tetとのコラボ作という側面もあるのだけど、2人の音の魔術師の共演ということで予想通りの傑作に仕上がってましたね。
Madlibらしいオールドスクールなソウルネタ使いのドープなヒップホップをベースとしながら、Four Tetのアレンジやエディットによって良い意味でマイルドに、そしてソリッドに仕上げられていて、音の配置の仕方がやはりこれまでのMadlibのそれとは違うなという印象でしたね。
簡単に言うと滑らかというか、Madlibのサウンドの味でもあった音の表面のざらつきのようなものが均されている感じというか。
この2人が組む意味がきちんと感じられるサウンドに着地しているのが流石だなと思いましたね。
何度聴いても音の実体を掴めない感じというか、ん?今の何?みたいな感じがあって繰り返し聴いてしまう不思議な魅力のアルバムでした。

2. Erika de Casier 「Sensational」

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今年最も楽しみなリリースの一つだったErika de Casierの新作アルバムは期待通りの素晴らしさでしたね。
レイト90s〜アーリー00sのR&Bをベースに、北欧のエレクトロやボサノヴァを絶妙な配合でブレンドしたサウンドは相変わらず至高…。
アンニュイなヴォーカルも相まって雨の季節や夜の時間に完璧にマッチする極上の仕上がり。
個人的に10年代のベスト作の一つに選ぶくらい好きな前作を聴いた時、SadeやCafé Del Marのコンピのようなエキゾチックなチル感がとてもツボだったんだけど、今作はCraig Davidみたいな2ステップ/R&B風な楽曲もあって幅が広がった印象でしたね。
今作から名門レーベル、4ADに移籍してのリリースでしたが、変にコマーシャライズされてなくて安心しましたね。
これから夏に向けて涼を求めて聴きまくることになりそうです。

1. Mach-Hommy 「Pray For Haiti」

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Earl Sweatshirtとのコラボレイターで、最近ではDrakeやJay-Zがお気に入りとして紹介していたニュージャージーベースのラッパー、Mach-Hommyの新作アルバム。
ソウルやジャズからのサンプルヘビーなサウンドと、淡々と自身の思いを語るようなコンシャスなラップスタイルがとにかくドープ!
今までに聴いたことのないタイプのクレイジーなビートや、どこから見つけてきたの?と首を傾げたくなるようなサンプリングネタのチョイスなど、かなり斬新で前衛的なサウンドメイクだなという印象。
タイトルの「Pray For Haiti」にもあるように、自身のルーツであるハイチに対する思いを綴った歌詞の内容も聴きごたえあるし、低音ヴォイスでクールにラップをこなす感じがめちゃくちゃイケてるなぁと。
Earl Sweatshirtの「Some Rap Songs」以降、アブストラクトなヒップホップサウンドが一つの潮流として大きなものになりつつあるけど、その一つの到達点であり完成形のようなアルバムだなと思いましたね。


というわけでいかがでしたでしょうか?
選んでいて思ったのは年々女性アーティストの作品をより多く選ぶようになってるなと。
ジャンル関係なく女性アーティストに勢いを感じますよね。
ちなみにですが、いつもだと6月が終わってから記事を書くようにしてたんだけど、今年は6月の最終週にとんでもないリリースラッシュが控えてまして、それらの作品はじっくり聴いてからにしようと思い少し早めに書いてみました。
今年の後半は恐らく凄い作品がゴロゴロリリースされる気がするので、楽しみに待っていたいと思います。
そして、またライブに参加出来るようになるように、この状況が落ち着くことを心から願ってます。最後まで読んで頂いてありがとうございました!


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