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2021 Honorable Mentions〜聴き逃すのはもったいないアルバム・EP〜

前回のベストアルバムの記事、大変たくさんの方に読んで頂いてるみたいで本当に嬉しいです。
凄い数のアクセスでちょっとビックリしてます。
頑張って書いたので反応をもらえるのはありがたいですね。
今回は前回のベストアルバムには選ばなかったけど今年よく聴いたなという作品や、まだあまり知られてないけどこの機会に紹介したいなという作品などについて書いてみようと思います。
最後までベスト50の中に入れようか迷ったものもあるし、去年は別記事で書いたEP作品に関しても今年はまとめてこのような形で取り上げてみたいと思います。
中にはほとんど情報がない作品なんかもあるので詳しいことはよく分からない、けど聴いてみてとても良かった、というようなものもいくつかありますね。
今回挙げた作品で気になるものや気に入った作品が見つかったら嬉しいです。
またタイトルにリンクを貼っておくのでよかったらそちらから聴いてみてください。
それではまた長くなりますが最後までぜひお付き合いください。

Buzzy Lee 「Spoiled Love」

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LAベースのSSW、Sasha Spielbergによるソロプロジェクト、Buzzy Leeのデビューアルバム。
この人、父親はあの映画界の巨匠Steven Spielbergで、Nicolas Jaarとは大学時代の友人だそうで、JPEGMAFIAのアルバムにも参加していたりとかなり面白い経歴をお持ちなんですよね。
プロデューサーに友人でもあるNicolas Jaarを迎えた気品漂うアダルトなポップサウンドは、ゆったりとドリーミーな心地良さと同時に、ゴシックな質感のダークで不気味な空気が流れ込むような何とも不思議な響き。
Nicolas Jaarのプロダクションはいつもシンプルで音数もそれ程多くないのが印象的なんだけど、今作もピアニストでもあるSashaの演奏と深みのあるヴォーカルを際立たせる必要最低限の仕事のみ。
幼い頃から映画のサウンドスコアを聴いて育った彼女ならではの、聴いてると映像が浮かんできそうな趣ある作品ですね。

Cafuné 「Running」

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ニューヨーク・ブルックリンベースの男女デュオ、Cafunéのデビューアルバム。
大学の同級生だったNoah YooとSedona Schatの2人が長い時間をかけて完成させた今作は、ニューヨークにある自宅でほぼ2人の演奏のみで録音したものなんだそう。
親しみやすい爽やかなギターポップとひんやりと心地良いクールなドリームポップが絶妙なバランスでブレンドされたサウンドは、曲によってはThe xxみたいだしClairoみたいだしYumi Zoumaみたいにも聴こえる感じ。
男性メンバーのNoah Yoo、実はこの人Pitchforkのスタッフでもあって現在でも色々なレビューを書いてるんですよね。
様々な音楽に触れてるからこそのサウンドが個人的に非常に好みな一枚でした。

Cosha 「Mt. Pleasant」

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以前はBonzaiとして活動していたロンドンベースのシンガー、Coshaのデビューアルバム。
Bonzai時代にMura Masaの作品に参加していたので彼女の存在は知ってましたが、Coshaとしては全然知らなかったので最初に知った時は驚ましたね。
かつてのコラボレーターであるMura Masaをはじめ、Rostam BatmanglijやCoby Seyといったクセ者達がプロデューサーとして参加していて、ダンスホールのフレイヴァーを加えたR&B〜エレクトロなサウンドは夏に聴くのにピッタリな感じでした。
Mura Masaの楽曲に参加してる頃から複雑なトラックを上手く乗りこなす器用な人だなと思ってたけど、今作でも跳ねるようなダンサブルなトラックの上を軽やかに舞うように見事にものにしてるのはさすがでしたね。

DJ Seinfeld 「Mirrors」

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スウェーデン出身のDJ Seinfeldのセカンドアルバム。
2010年代の中盤くらいから盛り上がりを見せていたローファイハウスと呼ばれるシーンの1人として注目され始めた彼が、Ninja Tuneと契約してリリースしたのが今作です。
ハウス、UKガラージ、ダウンテンポ、アンビエント、様々なタイプのエレクトロサウンドの最も心地良い合流点に位置するような極上のダンスミュージック。
Aphex TwinやBurialを由来としたスタイリッシュでクールな質感がたまらなく好みでしたね。
アルバム全体からどことなく90sの懐かしい香りがすると同時に、ヴォーカルサンプルの使い方とかでちゃんと今っぽくアップデートしてる感じがセンスあるんですよね。
DJの作品ながら歌モノとしての完成度も高い、とても聴きやすいダンスミュージックの良作です。

Doss 「4 New Hit Songs」

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ニューヨークベースのプロデューサー、Dossの約7年振りとなる新作EP。
彼女はとてもミステリアスな存在で彼女自身に関する情報はほとんど無いんですが、今年突如として再始動しシングルを立て続けにリリースしました。
今作はタイトルの通りそのシングルを4作収録した簡素な作りのEP。
トランスやハウスをベースとしたエレクトロサウンドに、ハイパーポップ的な音の跳ねやシューゲイザー的な音の歪みを程良くブレンドさせた非常に完成度の高い仕上がり。
キュートで小悪魔的なヴォーカルもクセになる感じで、歌モノとしても楽しめますね。
4曲それぞれが微妙に質感やタイプの違ったトラックで、短いボリュームながら聴き応えも十分。
中でもギターの響きがエモーショナルな「Strawberry」は今年最もよく聴いた楽曲の一つですね。
Lady Gagaの楽曲のリミックスも手がけてましたが、今後トラックメイカーとしても注目したいです。

Enumclaw 「Jimbo Demo」

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ワシントン州タコマベースのバンド、EnumclawのデビューEP。
彼らのこの作品はある意味で今年1番の衝撃作でしたね。
バンドメンバーのほとんどが楽器の演奏を始めたのがここ数年というかなりの浅いキャリア。
元々はヒップホップミュージシャンを志しラッパーやDJとして活動していたメンバーもいたり、出立ちもイカついラッパーみたいだし、とにかくロックとは無縁みたいな状態の彼らですが、バンドとして成功することを目指して今作のリリースまでこぎつけたわけなんですね。
90sのローファイなインディーロック〜グランジを思わすラフで粗雑なサウンドは、90年代初頭に大量に生まれては消えていったバンドの亡霊のような。
歌も演奏もお世辞にも上手いとは言えないんだけど、まだ洗練されてないその粗っぽさや青臭さが何ともクセになるんですよね。
自分たちのことを「The Best Band Since Oasis」と自称しているメンタルの強さと根拠のないポジティブさも含めて、今後も目が離せない面白い存在です。

Equiknoxx 「Basic Tools Mixtape」

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ジャマイカのキングストンベースのデュオユニット、Equiknoxxの通算4作目となるフルレングス作品。
彼らはダンスホール・レゲエをベースにガラージやグライムといったUKのダンスミュージックを掛け合わせた、非常にアヴァンギャルドな作風のサウンドで一躍注目を集めた存在ですね。
自分は2016年の「Bird Sound Power」で彼らのことは知ったんですが、それまでヒップホップと近い印象だったダンスホールのイメージをガラッと変えられたんですよね。
太くヘビーなベースラインにチープな音色のシンセが絡み、ラフなヴォーカルが乗っかるというシンプルな作り。
にも関わらず音の組み方やダブにも近いビート感でとても先鋭的に聴こえるというか、様々なジャンルのサウンドがクロスオーバーしているごちゃごちゃな質感が斬新に感じられるんですよね。
Jamie xxのサウンドとかが近いかな。
自身の楽曲でダンスホールを取り入れていたDrakeのヴォーカルを真似てたり、面白い遊び心も含めてミックステープというタイトルがしっくりきますね。

Genesis Owusu 「Smiling with No Teeth」

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ガーナ出身で現在オーストラリアベースのGenesis Owusuのデビューアルバム。
かつてPrinceやD’Angelo、OutKastがそうしてきたように、ブラックミュージックの枠をぶち壊しその可能性を拡げるジャンルレスで何でもありなサウンドが実に痛快!
ドープでファンキーなグルーヴとパンキッシュな疾走感の混在が最高でしたね。
曲によってはファンクだし、R&Bやソウルっぽくもありパンクロックみたいな感じもあるし、良い意味でばらつきのあるサウンドの展開がとても面白いんですよね。
ラジオ局のYouTube内でSex Pistolsをカバーしてたり、彼自身パンクやロックもかなり聴いてきたんでしょうね。
最大の影響源はやはりPrinceだそうで、自由気ままに見えて実はこだわりのある音作りの作法は受け継がれてる気がします。
ちなみに本国オーストラリアの最大の音楽アワード、ARIA AwardsではAlbum of the Yearを獲得してました。

Harvey_dug 「Nu Grip」

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ミシシッピ州はオックスフォード出身の2人組ユニット、Harvey_dugの新作ミックステープ。
彼らに関しては詳しい情報がほとんど無いのでざっくりとした紹介にはなるんですが、Earl Sweatshirtファンにはぜひともおすすめな作品ですね。
濁ったローファイビートに粘度の高いシロップのような質感のソウルサンプルが艶かしく混じり合ったサウンドは、ここ数年のトレンドになりつつあるアブストラクトなヒップホップの流れの中に位置する感じ。
再生速度を遅くした古びたソウルのドーナツ盤の音源の上で適当にラップしたみたいな、ざらついた質感と妙なうねりがクセになる遊び心ある一枚ですね。
彼らは1年に1枚くらいの早いペースでミックステープやEPを続々とリリースしていて、意外にもどれもシーンのトレンドをしっかりと抑えた最新のサウンドを鳴らしてるんですよね。
いつかメジャーレーベルと契約するかも?な要注目なヒップホップデュオです。

Helado Negro 「Far In」

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フロリダ出身でニューヨークを拠点に活動しているRoberto Carlos Langeによるプロジェクト、Helado Negroの通算7作目となる新作アルバム。
彼の事を知ったのは前作アルバムからなんですが、エクアドルの血筋ならではの南米のスパイスがほのかに香るエレクトロ・トロピカリア〜アンビエント・フォークがとにかく斬新な響きで衝撃的だったんですよね。
名門レーベルの4ADに移籍してのリリースとなった今作でもその何とも言えない陶酔感や浮遊感が味わえるサウンドは健在で、ほのかにバレアリックな空気感が漂う浮世離れした響きはやはり極上…。
Kacy HillやBascabulla、L’Rain(ベーシストとして)などがゲストとして参加していて、彼の作り出す逃避行先の楽園のような世界観に華を添えています。
Arthur Russell〜Paul Simon〜Sun Ra〜Sufjan Stevensが一直線上にいるような、様々な要素が盛り込まれた異色の作品でした。

illuminati hotties 「Let Me Do One More」

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LAベースのSarah Tudzinによるプロジェクト、illuminati hottiesのセカンドアルバム。
以前のレーベルに不満を募らせていた彼女が自主リリースしたミックステープから約1年で早くも届けられた新作アルバムは、彼女の感情の浮き沈みをそのままサウンドに反映させたようなアップダウンの激しい一枚でした。
怒りをぶちまけ激しくシャウトするような曲から、自身の思いを弱々しく吐露するようなダウナーな曲まで、様々なタイプのパンキッシュなロックが並べられています。
メロディーがとにかくキャッチーなのが印象的で、陽気で疾走感のある冒頭の2曲は特に耳に残りましたね。
一方で、か細い声で絞り出すように歌う締めの「Growth」では一転して内省的な一面も見せていて、一つの作品の中で非常に大きなギャップがあるのも魅力的だなと。
自身のことを「tenderpunk pioneer 」と称してますが、まさに!という感じです。

India Jordan 「Watch Out!」

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ロンドンベースのプロデューサー/DJ、India Jordanの新作EP。
前作EP「For You」での衝撃のデビューから約1年の早いスパンで早くも届いた今作は、前作以上にフロアバンガーなアッパーチューンが並んだ、聴く者に落ち込む隙を与えない圧巻の展開!
再生して即沸点に達するレイヴ〜ハウスなダンスミュージックの爆発力は相変わらず強烈で、瞬時にテンションをブチ上げてあっという間に去っていく様が実に痛快ですよね。
UKガラージやジャングルなど、UKの特に90年代のダンスミュージックやカルチャーをもろに継承した感じというか、音の端々からリスペクトが感じられるサウンドなのがかえって新鮮でした。
そこに前作だとChangeやStephanie Mills、今作だとChaka Khanといった70s-80sディスコ・ソウルをサンプリングしてブラックミュージックのグルーヴを纏わせているのがセンスあるなぁと思いますね。

Indigo De Souza 「Any Shape You Take」

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ノースカロライナ州はアシュヴィル出身のSSW、Indigo De Souzaのセカンドアルバム。
Bin IverやWaxahatcheeなどを手がけてきたBrad Cookをプロデューサーに迎えたとても聴きやすいインディーポップ・ロックサウンドが楽しめる一枚。
そう思って聴き進めていると突如として激しいノイズや叫び声に包まれ、またすぐに爽やかなギターロックサウンドへと何事も無かったかのように戻っていく。
喜びも怒りも悲しみも嘆きも、あらゆる感情をダイレクトにサウンドやヴォーカルに反映させたような、美しさと危うさを同時に孕んだ響きが生々しくて魅力的なアーティストだなと思いましたね。
一聴するとポップで心地良く、90sのインディーロックの雰囲気もあるメロディックなロックとしてよく出来た作品だなと思うんだけど、歌詞やビデオなどで見せる個性的かつリアリティーある表現力はちょっと普通じゃないですね。
Saddle Creekが契約したのも納得の面白い存在感を放つSSWです。

Indigo Sparke 「Echo」

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オーストラリアベースのSSW、Indigo Sparkeのデビューアルバム。
Big ThiefのAdrianne Lenkerが制作に携わった生々しくみずみずしいフォークサウンドがひたすらに美しい…。
ほぼギターとヴォーカルのみの雑味の無いシンプルな響きが乾いた体と心にスーッと染み渡っていく感覚。
Adrianne Lenkerもそうなんだけど、ヴォーカルでファルセットを使うことが多くて、それによって楽曲により一層儚さだったり切なさがプラスされるんですよね。
音数が少ない分声の存在感が凄く大きいので、距離感が近いというか、すぐ側で演奏しているかのような温かみや臨場感が感じられるのも魅力ですね。
Adrianne以外にもBig ThiefのメンバーやNick Hakimなどが演奏で参加してるのも聴きどころの一つです。

Isaiah Rashad 「The House Is Burning」

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テネシー州出身のラッパー、Isaiah Rashadの通算3作目となるアルバム。
彼はKendrick LamarやSZAなどが所属しているレーベル、Top Dawg Entertainmentの一員ですよね。
前作アルバムリリース以降、ドラッグやアルコールの依存症に苦しんでいたようでリハビリ施設に入所までしてたみたいです。
今作は彼がそこからなんとか立ち直りシーンへと復帰する過程を描いた一枚となってます。
自分自身と向き合い弱さも隠すことなくさらけ出したセンシティブな内容のリリックは本当にリアル。
人生のドン底を味わった人間だからこそ書ける生々しさがありますよね。
彼のサウンドって独特の煙たさとか妖しいメロウなグルーヴ感があってそれがめちゃくちゃ心地良いんだけど、そのスロー・リヴァーブな質感はやっぱりサウスヒップホップが由来なんだと思いますね。
Three 6 Mafiaをサンプリングしてたり、南部出身者ならではのサウスなヴァイブスがとても好みでした。

John Glacier 「SHILOH: Lost For Words」

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イーストロンドンベースのアーティスト、John Glacierのデビューアルバム。
彼女はFrank Oceanとのコラボでも知られるVegyn主催のレーベル、PLZ Make It Ruinsに所属していて、これまでにはDean Bluntの別名義、Babyfatherの楽曲にも参加してましたね。
今作はVegynと約1年をかけて共同で制作し完成させた待望のデビュー作。
先鋭的なエレクトロサウンドにクールなヒップホップビートをブレンドさせそこにアンビエントな要素も加えた、Vegynらしい様々なサウンドの融解点のような響き。
彼女のラップは冷たい温度感ながら、自身の内面についてや政治的なものだったり結構熱い内容のものが多く、そのギャップも面白かったですね。
彼女も参加していたVegynのEPも素晴らしかったですが、彼らには今後も音楽シーンに違和感を与え続ける存在でいて欲しいなと思います。

julie 「pushing daisies」

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LAベースの3人組バンド、juleeの新作EP。
今年密かに盛り上がりを見せていたシューゲイザー・グランジなどの90sのオルタナティブロック回帰の動き。
先程挙げたEnumclawもそうだし、メジャーシーンだとWillowなんかも90年代ロックにインスパイアされた楽曲を発表してましたが、このjuleeもその流れとして語りたいバンドの一組ですね。
歪んだギターの轟音がヘビーなロックサウンドの上をどこか冷めたような歌声で乗りこなす感じがとにかくクールですね。
アーティスト写真を見る限りめちゃくちゃ若いんだけど、それと同時にもの凄く陰気なオーラも放ってました。
DIIVのライブでオープニングアクトも務めていたみたいで、これからさらに大きな成長を見せてくれそうな気がしますね。
まだあまり知られていないと思うので要注目です。

Kero Kero Bonito 「Civilisation」

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サウスロンドンで結成された3人組ポップユニット、Kero Kero Bonitoの新作アルバム。
今回のアルバムは2019年と2021年にそれぞれリリースした「Civilisation I」と「Civilisation II」の2作のEPを一つにまとめてパッケージングしたものですね。
J-POPからの影響を強く受けたエレクトロポップサウンドの耳馴染みの良さは相変わらずで、今作はそこにKate BushやDavid Sylvian、Peter Gabrielといったイギリスの80sポップからインスパイアされたというアーティスティックな質感を加えた、これまでより少し大人っぽい仕上がりなのが印象的でした。
やっぱりヴォーカルのSarah Bonitoのキュートでコケティッシュな歌声は唯一無二で、彼女の声が響くだけで一瞬でKero Kero Bonitoワールドに連れ込まれるんですよね。
彼女がゲスト参加したCFCFの新作アルバムもよく聴きましたね。
アンビエントハウスなグルーヴが心地良い今作のラストトラック「Well Rested」は、今までにないテイストが最高にクールな今作のハイライトですね。

Lightning Bug 「A Color of the Sky」

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ブルックリンベースの5人組バンド、Lightning Bugの通算3作目となる新作アルバム。
Fat Possum Recordsに移籍して初となるアルバムの今作は、メンバーも3人から5人に増え新たな体制で制作されました。
ヴォーカルでメインソングライターでもあるAudrey Kangの透明感のある歌声がとにかく美しいのが印象的で、Weyes Bloodを思わせる神秘的な響きが心の奥底までじんわりと沁みてきますね。
基本的には穏やかでゆったりしたフォークロックなサウンドなんだけど、時折シューゲイザーっぽい没入感のある響きやとろけるようなドリームポップな質感が顔を出すのがセンスを感じましたね。
Mazzy StarやCocteau Twins、Slowdiveあたりのバンドが好きな方にはたまらないサウンドなんじゃないかなと思います。
落ち着いた彩度のカラーで描かれた、派手さは無いけど味わい深い一枚ですね。

MIKE 「Disco!」

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ニューヨークベースのラッパー、MIKEの新作アルバム。
彼はここ数年毎年のようにアルバムやミックステープをリリースしていて、しかもそのほとんどを自身でプロデュースしているという、今最も多作で才能に溢れているラッパーの1人ですよね。
今作も彼のプロデューサーとしての名義、dj blackpowerの全曲セルフプロデュース作品で、70s〜80sのソウル・ディスコの楽曲をサンプリングしそれをコラージュさせたビートがメロウでソウルフルな世界観を作り上げています。
サンプリングの質感としてはヴェイパーウェイヴとも近いような粗っぽい敢えて粗雑にしたようなローファイな質感なのが特徴ですね。
去年の個人的なベスト作の一つ、KeiyaAのアルバムもdj blackpowerプロデュースの作品でしたが、音の配置とか貼り付け方とかが独特なんですよね。
Earl Sweatshirtあたりとも近いサウンドではあるんだけど、微妙にそのアプローチの仕方が違っているのが面白いなと思います。

MUNYA 「Voyage to Mars」

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モントリオールベースのJosie Boivinによるソロプロジェクト、MUNYAのデビューアルバム。
これまでシングルやそれをまとめたEPを数多くリリースしてきてましたが、そのどれもがハイクオリティで外さないんですよね。
そんな彼女の待望のフルアルバムデビュー作は、甘いフレンチトーストにさらにハニーシュガーをまぶしたような極上のスウィートポップスが堪能出来る一枚ですね。
Men I Trust好きにはたまらない、ほんのりレトロなフレンチポップ〜ドリームポップなサウンドがとろけるような質感。
フランス系のカナダ人の彼女ならではの、フランス語混じりの英語で歌うヴォーカルも独特の味があっていいんですよね。
ディスコティックなグルーヴ感のある曲もあったり、ただ甘いだけじゃないクールな部分もあるのが洗練されてるなと思いますね。
Smashing Pumpkinsの「Tonight Tonight」のリメイクも個性が出てて良いテイクです。

Navy Blue 「Navy’s Reprise」

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LAベースのラッパー、Navy Blueの通算3作目となる新作アルバム。
彼はSage Elsessorとして有名なスケートボーダーでもあって、様々なブランドのモデルも務めるなどファッション業界からも注目を集める存在。
Frank Oceanの「Blonde」にも彼の名前がクレジットされるなど、Odd Future周辺のアーティストと親しいようで、その影響からかラッパーとしても活動を開始するようになったみたいですね。
去年2作のアルバムをリリースし、今作は早くも3作目となるアルバムで、先程取り上げたMIKEと同様かなり早いペースで楽曲を量産してるんですよね。
サウンド的には共演もしていたEarl Sweatshirtとも近いジャジーでソウルフルなアブストラクトなヒップホップサウンドで、小洒落たバーで流れていそうなローファイな質感もある非常に洗練された響き。
彼のラップするリリックはかなりパーソナルな自叙伝のような内容で、家族との関係や自身が抱えるトラウマなど痛みや苦悩を綴ったものが多いのが印象的ですね。
ラッパーとしても素晴らしい才能を開花させた、今後が益々楽しみなアーティストです。

NINA 「Classics」

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ロンドンのミステリアスなプロジェクト、NINAの新作アルバム。
これは今回取り上げる作品の中でもとりわけ謎に包まれた作品で、彼らに関する情報は限りなく0に近い状態のため、こちらでも調べようがないというのが正直なところです。
これまでも何作かEPなどをリリースしてるみたいなんですが、分かっているのはこの作品がDean Blunt主宰のレーベル、WORLD MUSICからリリースされているという事。
そしてDean Bluntがプロデューサーとして関わっているという事。
以上です。
今年リリースされた「BLACK METAL 2」も素晴らしい作品でしたが、今作もDean Bluntらしいざらついた質感のエクスペリメンタルポップサウンドで、終始怪しげで不可思議な時間が流れていきます。
女性ヴォーカルの淡々とした低体温な響きが作品により一層のミステリアスな雰囲気を与えてますね。
Dean BluntやMica Levi、Tirzahなんかが好きな方にはぜひチェックして欲しい作品です。

Nite Jewel 「No Sun」

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LAベースのSSW、Ramona Gonzalezによるプロジェクト、Nite Jewelの通算5作目となる新作アルバム。
4年振りとなる今作は、Cole M.G.N.との12年の結婚生活を終わりにし、それにより生まれた時間で自分と向き合い見つめ直し、より自分の音楽に対する思いを深めて完成させた、彼女にとって決意の作品です。
離婚してからUCLAに通い音楽学の博士号を取得したみたいで、これまでとはまた違った観点から制作に臨んだ作品でもあるんですよね。
自身が感じた悲しみや痛み、喪失感をミニマルなプロダクションと大人の色気を携えたエレクトロ〜R&Bサウンドで表現した、しっとりと美しい洗練された響き。
アルバムのタイトルはカバーもしているSun Raの「When There Is No Sun」からきていて、色や光を失ってから徐々にそれを取り戻していく彼女の心情とも重なる秀逸なチョイスですよね。
Solange「When I GetHome」から影響を受けたようで、確かに音の配置や選び方が近いなと思いましたね。

Parannoul 「To See the Next Part of the Dream」

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韓国のシューゲイザープロジェクト、Parannoulの新作アルバム。
この作品との出会いは中々衝撃的でしたね。
子供と大人の狭間で揺れる青春時代の衝動や葛藤、苦悩を歪んだギターの轟音で描いたバンドサウンドが実にエモーショナル。
モヤモヤとざらついた美しく心地の悪い響きは、影響源の「リリイ・シュシュのすべて」の世界観とリンクするかのよう。
決して明るいとは言えない鬱屈した10代の日常と心情の揺れを描いたあの映画を観終えた時の、何とも言えないやり切れなさというか残響というか。
このアルバムに終始流れている空気もまさにそんな感じで。
自分の中で忘れかけていた青臭い何かや、色々なものと引き換えに失ってきた、捨ててきた何かを呼び起こしてくれるかのような、聴いていて胸の奥がざわざわとする感覚を久々に味合わせてくれた一枚でした。

박혜진 Park Hye Jin 「Before I Die」

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続いても韓国出身のアーティスト。
現在はLAを拠点に活動しているPark Hye Jinのデビューフルアルバム。
これまでリリースしてきた楽曲やEPですっかりファンになってたんですが、待望のフルアルバムも期待通りの素晴らしい作品でした。
可憐なピアノの音色が美しいミディアム・スローからクラブバンガーなアッパーチューンまで、彼女のセンスで解釈された中毒性の強いディープハウス〜ヒップホップなサウンドが並んだ秀逸な仕上がり。サウンドもリリックも潔い程にシンプルで、無駄な音や言葉は要らないとばかりに最小限の音数と伝えたいことだけで作り上げられてる感じがとても好きです。
どことなく冷めたようなアンニュイなトーンがちょうど良い温度感だし、サウンドもリリックも色々と隙間や余白が多いからそこが面白くてハマるんですよね。
Blood OrangeやClams Casino、Nosaj Thingなど様々なジャンルのアーティストとコラボを重ねてますが、今後も何か面白い動きをしてくれそうで楽しみな存在です。

Small Black 「Cheap Dreams」

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ブルックリンベースのバンド、Small Blackの通算4作目となる新作アルバム。
Washed OutやToro y Moiと共にチルウェイヴの流行のきっかけを作った彼ら。
5年振りのアルバムとなる今作からGeorge Clantonのレーベル、100% Electronicaに移籍ということでさらに期待が高まってましたが、案の定素晴らしい作品を届けてくれましたね。
レーベルカラーとも近い浮世離れした80sシンセポップ由来のキラキラとしてサウンド。
80年代の終わりから90年代の始まりにかけて、こういったいわゆるブルーアイドソウル〜ポップスみたいなサウンドが流行したけど、そのリバイバルのような彼らの楽曲を聴くと少し前まで感じていた古臭さはあまり気にならないのが面白いなぁと思いますね。
The Weekndの「After Hours」以降顕著になってきている80sリバイバルの動きとも共鳴する一枚かなと思います。

Sofia Kourtesis 「Fresia Magdalena」

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ペルー出身で現在ベルリンベースのプロデューサー/DJ、Sofia Kourtesisの新作EP。
故郷マグダレナの街中でフィールドレコーディングされた音源をベースに制作したという、臨場感溢れるハウスミュージックがとにかくクール!
タイトルのFresiaとは彼女の母親の名前だそうで、家族との繋がりや地元への想いが込められた、ただクールなだけじゃない人間味のある泥臭さみたいなものも感じるサウンドなんですよね。
南米ならではのエスニックな香りが独特の異国情緒と神秘性を作品全体に纏わせている感じ。
サンプルの使い方やサウンドの組み立て方がとても遊び心に溢れていて、聴いてて自然と気分が高揚してくるような魅力がありますよね。
2018年リリースのAll Against Logicのアルバムを聴いた時にも感じたんだけど、人にとって踊るという事の大切さや楽しさを追求して作ってる感じがして素晴らしいなと思いますね。
冷たく無機質な印象のあるクラブミュージックですが、こういう仕上げ方もあるんだなと思わされた一枚です。

Spellling 「The Turning Wheel」

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オークランドベースのChrystia Cabralによるプロジェクト、Spelllingの通算3作目となる新作アルバム。
他のどのアーティストとも違う独自の世界観のサウンドを作り続けている彼女ですが、今作は彼女の頭の中の世界をより具現化するために総勢31人にもなるミュージシャンたちが参加し、これまで以上にゴージャスなサウンドになっているのが印象的でしたね。
Kate Bushのような妖しげなカルトポップみたいな雰囲気もあれば、70sのオールディーズソウルのような普遍的なラブリーさもあって。
ストリングスやその他の楽器のオーケストレーションアレンジが本当に美しく、それぞれの楽器が生き生きとみずみずしく鳴っているんですよね。
彼女のヴォーカルも高音から低音まで縦横無尽に使い分けた素晴らしい表現力ですね。
お伽話の世界のような現実味の無いフィクションな響きにどんどんと引き込まれていく、不思議な魅力を持った作品です。

Suzanne Kraft 「About You」

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LA出身で現在アムステルダムベースのDiego Herreraによるプロジェクト、Suzanne Kraftの新作アルバム。
元々はアンビエントやニューエイジといった空間的なエレクトロサウンドを主に鳴らしていた彼ですが、今作はガラッと作風を変えてギターを中心とした音作りでとてもポップな仕上がりに。
AORのような親しみやすいメロウネスと、音の歪みが得もいわれぬ虚無感を醸し出すシューゲイズな響きが見事に融合した、まるで白昼夢のように美しい一枚。
様々な要素が組み合わさったサウンドなんだけど決して雑多な感じにはならずに、不思議なバランスで成り立っている奇妙な質感の作品なんですよね。
幅広いサウンドに精通している職人のような彼だからこそ生み出せる、様々なジャンルが程良い分量でちょうどいい塩梅で溶け合った融解点のような一枚です。

Tems 「If Orange Was A Place」

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ナイジェリア出身のシンガー、Temsの2作目となるEP。
同郷のWizkidとのコラボ曲「Essence」や、Drakeの新作アルバム「Certified Lover Boy」への参加で注目を集めている彼女。
ここ数年のトレンドになりつつあるアフロビートをベースにネオソウルをアップデートしたようなR&Bサウンドは、独特のトライバルなグルーヴ感があっつとても心地良いんですよね。
アフリカンならではの躍動的なリズムやレイドバックな質感、濁りとかクセとか色々な要素が混じり合った個性的なヴォーカル。
ファッションやビジュアル、センスも含めて今の時代を体現するような存在と言えるかもしれませんね。
しばらくは客演でも引っ張りだこになりそうな気がします。
今後大物になりそうなオーラも凄いし、フルアルバムのリリースがとにかく待ち遠しい存在です。

Yves Tumor 「The Asymptotical World」

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マイアミ州出身のミュージシャン、Sean Bowieによるプロジェクト、Yves Tumorの新作EP。
去年リリースのアルバム「Heaven To A Tortured Mind」は個人的にも去年のベストアルバムの一つでしたが、今作はその延長線上に位置すると言えるEP作品ですね。
今年のベストトラックの一つでもある先行曲「Jackie」の衝動と勢いそのままに、彼の内側で膨らむグラムロックやプログレッシヴロックへの憧憬をアグレッシヴな形で昇華し放出したかのような仕上がり。
Enumclawやjulieのところでも触れましたが、今年は90sのオルタナティブなロックサウンドのリバイバル的な動きがトレンドの一つで、この作品もその内の一作として捉えられそうですよね。
ギターの音色でしか表現し得ない色気や妖しさを改めて思い知らされた感覚というか、決してこれまでにないような新しい音とかでは無いんだけど、彼が鳴らすことで不思議と斬新という意味で新しさを感じるのが面白いなと思いましたね。
ロックサウンドがこれまでとは違う角度から捉えられてる流れはとても興味深いし、来年以降も続いていきそうな気がします。

いかがだったでしょうか?
今年色々なメディアで注目された作品から、ほとんど取り上げられてない隠れた名作まで、幅広いジャンルの作品を紹介してみました。
自分は普段、海外の音楽系のメディアやYouTubeからおすすめされたもの、Twitterで知ったものなど、色々な形で新しい音楽と出会ってるのですが、本当に果てしないなと思いますね。
次から次へと聴いてみたい作品が出てくる感じ。
サブスクで聴くようになってからますます拍車がかかりましたね。
来年もまたたくさんの新たな出会いがあることを楽しみにしながら、一つ一つの作品をじっくりと聴くことを心がけるようにしたいなと思います。
最後まで読んで頂いてありがとうございました!



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