地からの視点


人はいつも上から物事を見おろすのは得意です。高いところの視点から物事の全体像を見て、安全な位置で批判したり考察したりするのはとても得意です。
上から目線、という言葉にもあるように、いつも物事を上からの視点で見ていると、正しい判断を見失うこともあります。
広い視野で、自分の目線で物事を見て暮らしたいと感じ、三重県の古き良き風景の残る田舎にアトリエを移し、暮らしと彫刻を見つめ直してから3年半が経ち、見えてきたのはここに暮らす人達の地に親しい視点。ここでは同世代の友人が薪を集め割り、おかずを寄せ合って近所の仲間で食卓を囲み、友人が猟をし採った肉や育てた野菜を食べて暮らし、女性は集まって季節の知恵を分け合います。みんな地に近い、とても低い下からの目線で、自分たちの暮らしや社会を見上げて暮らしているのを強く感じます。人を見下す高さもないほどに、虫のような目線で。
一体の彫刻を作っていても、下から見上げる目線はとても重要です。重力の終着する場所、重力に逆らう底面、それらを丁寧に作り込むことが、彫刻に真の存在感とリアリティを与えるのです。それは、ものごとの終わりの形でもある、とても大切な要素です。人は地で生まれ高い場所へ登り、地に横たわり死んでいく生き物で、いつでも終わりの着地点の視点から今の生を見つめることは、人生を充実させる手助けになることでしょう。
私は彫刻家という仕事柄、いつでも最高の形で終わる所を見つけていきたいと感じます。一つの彫刻であっても、自分の一生であっても。いつも空を見上げながら地を歩く小さな生き物のような視点で。


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