動物たちの目線


血のつながらない、言葉の通じない、肌の色も見た目も足の数も違う、それこそ種族の違う犬や猫たちと、こんなにも気持ちが通じ、共に暮らして幸せを感じるのはなぜだろう。朝起きると駆け寄ってきて、顔を見ただけで喜んでくれる彼らの心と目線を、深く知りたいといつも感じます。彼らは世界をどのように見ているのか、幾千枚のデッサン彫刻を通してわかってきた事は、彼らの物事を省略して判断する力。
彼らは極力少ない情報から多くの物事を想像する能力に非常に長けています。顔色を伺う、声色で判断する、匂いで位置をつかむ、シンプルで研ぎ澄まされたその五感は、人間が嘘をついてもたちまち見抜いてしまいます。長々とした言葉がなくても、気持ちは一瞬でつながる、そんな感覚の瞬発力を私達と暮らすことで彼らは身に着けていくのです。一体の彫刻を作る時、一枚の絵を仕上げる時も、大切なのはこの省略する判断力と感覚の瞬発力。いい完成とは、細かに表面を作り上げて全て説明する事ではありません。美術の世界ではむしろ、言葉や文字のような説明的な要素は必要なく、的確に物事の美を要約し、省略する形の中に、見る人が想像できる広がりのある彫刻が生まれるのです。膨大な情報でできているこの世界の、おおよそ多くの情報を鋭く省略していく美こそが、私の分野である、そぎ落とした美、彫刻そのものです。幸福に生きていくことに必要なのは、もしかしたら多くの言葉でもあふれる情報でもなく、そぎ落として手のひらに残るような少ない物の中から、無限大にも広がりうる想像力を持てる動物たちのような目線なのかもしれません。

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