ふじののはなし .5

ふじのが家に来てからしばらくの間、私は彼を女の子だと思っていた。
何故なら私は以前から動物を飼うなら女の子と決めていて、ブリーダーさんにもその希望を伝え、「この子が女の子です」と言われてもらってきた子だったから、疑う余地も無かったのだ。

ふじの(藤乃)の名前の由来は、私の故郷である湘南・藤沢の「藤」と、女の子の名前の中で1番好きな「乃」という止め字を組み合わせてつけた。
最初の頃はふじのちゃん、ふじのちゃんと呼んで可愛がっていたように思う。
しかし、日々の成長を見守る中で、私と姉は、「何かがおかしい」と思うようになった。

異変を確定づけたのは、ふじのを初めての病院に連れて行った時だった。
最初の発情期が来る前に手術をした方が良いと知ったので、1歳に満たないふじのを連れて近くの動物病院を訪れた。
受付の方に「避妊手術をお願いします」と言った私は心の中で(もしかしたら去勢手術かもしれない)と思っていたが、まだ認めたくない気持ちがあった。

診察室の中に入ると、女性の獣医さんがにこやかに迎えてくれた。
「避妊手術をお願いします」
「はい、…えっ、去勢手術ですよね?」
一縷の望みをかけた私の願いは一瞬で現実に消されたが、本当は以前から覚悟はできていたので、特にショックを受ける事もなかった。
獣医さんの助手の女性が言った。
「女の子と言われてたんですか?ブリーダーさんでも間違える事あるんですね」
「そうですね」
「ふじのちゃん…女の子の可愛いお名前…」
「そうなんですよね」
「ふじのすけにするのはどうですか?」
「!!」
その助手の女性の提案を私と姉はいたく気に入り、家に帰ってきてから大笑いした。
それからふじのは「ふじのすけ」と呼ばれるようになったが、次第にふじが略され、私と姉の間ではただの「のすけ」になった。

昔の私は以前飼っていた犬が女の子だったこともあり、動物は絶対に女の子がいいと思っていたが、暮らしてみると男の子は単純で甘えん坊で裏表が無く素直で、とても可愛かった。
私とふじのがここまで共依存しパートナーとなれたのは、そんなふじのの性格も大きかったように思う。
あの時ブリーダーさんが間違えてくれたことを、今となっては感謝している。

適当につづきます


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