ふじののはなし .3

ふじのはとても臆病で、健気な優しい猫だった。

家のピンポンが鳴ると一目散に物陰に隠れ、入ってきた人をじっと観察した。
だが、ふじのの人見知りは長くもたない。
どっかいっちゃったなと思いながら訪問者と話していると、気が付いたら足音もたてず訪問者と私の真ん中にちょこんと座っている。
大抵はびびって隠れてから、ものの数分後のことだった。

ふじのはとにかく私の上が好きだった。
テレビを見ている時、ゲームをしている時、ごはんを食べている時、寝ている時、何をしていても私の上に乗ってくるのだが、乗られてからしばらくは気付かないことも多々あった。
そ〜っと、忍んで乗ってくるのだ。
そして、乗ろうとしている時に「ダメです」と声をかけるとピタッと止まり、とりあえず前足だけをちょいちょいと乗せて様子を見てきたりする。
ごはんを食べている時も構わずに乗ってくるので、何回かふじのの頭に食べ物のカスが落ちる事もあった。
危ないよと言ってどかしても、すぐにまたそ〜っと乗ってくる。
ふじのは健気且つ、諦めない猫だった。

私は、夜に1人で泣くことや、悪夢にうなされる事の多い人生だった。
大きな声でも小さな声でも、私が泣いたりうなされている時、ふじのは必ず私の側にきてくれた。
遠い部屋にいてもすぐに飛んできて、気が付くと私の傍らに座っている。
側にいるだけで特に何もしないのだが、そんなふじのがいる事で、私の数えきれないほどの日々が救われた。

頭に食べカスをつけていても、それは無理だろというくらい変な体勢になっていても、何度も何度もどかされても、私の上に乗っているふじのはいつも幸せそうに目をしぱしぱさせていた。

余談だが、3歳になるもう1匹の猫のたんぽぽは、家のピンポンが鳴ると一目散に出てきて誰誰誰?!と玄関の方に身を乗り出すタイプの陽キャなので、陰で怯えるふじのと見比べていつも笑っていた。

適当につづきます

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