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40歳の修学旅行と静かなバスの中

「沖縄いいね」

修学旅行で「沖縄に行く」と言うと必ず言われる。
決まって僕は言う。

「いや、引率で行くからそんなに楽しめるわけではないよ」と。

正直これは建前。
大変なのは、担任の先生や副担任で、概ね僕に大きな仕事はない。

時々「おーい、こっちだよ」と生徒に声をかけるのが僕の一番の大仕事。
2年連続2回目の沖縄修学旅行。

甲子園の出場回数みたいな表現で書いてみたものの、思い返せば僕は高校生の頃に修学旅行に行っていない。


沖縄旅行が楽しいわけではない

全校生徒約40人。その中で修学旅行に行くのは12、3人。ちょっとした大家族か、親戚の集まりで旅行に行くようなものだ。

知っての通り僕は色々な土地を巡り、ある程度旅行や旅には慣れている。
残念ながらどこかの国や観光地に行って、興奮することも少なくなってきた。

しかし、彼らは違う。
初めて飛行機に乗る生徒。
初めて、沖縄の文化に触れる生徒。

そんな彼らのテンションは、とても初々しく可愛ささえ感じてしまう。
テンションが上がっている中で調子に乗る男子生徒。
慣れない化粧を施して、カメラ写りを気にする女子生徒。

そんな彼らを見守りながら、僕はいつも彼らの後ろを歩いている。
「お小遣いいくら持ってきた?」
「食べたいものはあるの?」
そんな野暮ったい質問を時より彼らにしながら。

40歳の修学旅行。

沖縄にいるから楽しいわけではない。
彼らの醸し出す空気感が、僕にとっては少しばかり楽しい。


いつも言われること

「すいません、一般の方はこちらで・・・」
「え?引率の人ですか?」

行く先々で大概言われる。

少しでも彼らとはぐれてしまうと、僕は引率者に見られない。

去年は早速空港でつまづいた。
「こちらは修学旅行の団体のみの方です。一般の方はあちらへ」

即座に校長先生が「すいません!彼も引率者です」と、慌てふためいたのを横目で見て僕は笑っていた。

「学校の先生らしくないですよね」とも、よく言われる。

厳密に言えば教員ではない。
毎度毎度、説明をするのも面倒なのでそのまま教員で通すことも少なくはないのだが。

ただ、毎回「先生らしくないですね」と言われるたびに僕は思う。

〝先生らしさって何なんだろう?〟と。

ひねくれた考えと言えば、ひねくれた考えかもしれないが、この立場になって思うのは、多くの人はその職種やカテゴリーに〝らしさ〟というイメージ勝手に作り上げている。

そして多くの人は他人に〝らしさ〟を求めている。

高校生らしくしろ。
女らしくしろ。
社会人らしくしろ。

僕はHASHIMOTOらしく人生を歩いているだけだ。


生き方HASHIMOTO

先日、知り合いから届いたメッセージ。

「橋本さんはもはや、生き方HASHIMOTOですね」

時々、それに近いことを言われるが、メッセージを読んで一人ホテルの部屋で中学生時代のことをふと思い出した。

「将来なりたいことを書け」

そう言われて僕は「橋本 暁人」と記入をしたら、こっぴどく中学校の先生に怒られた。

「ふざけるな。どんな〝仕事〟をしたいのかを書くんだ」と。

当時、中学生ながらに、なぜ将来何かの仕事をしなければいけないのか、と考えていた。

ひねくれ者。分かっている。
僕がもし当時の教員だったら同じことを言っていたかもしれない。

ある知人が言った。

「この前、〇〇が来て『橋本は今何をやっているの?』って聞かれたから『橋本は相変わらずHASHIMOTOをやっているよ』って言っておいたよ」と言われた。

僕も「何をやっている人ですか?」と聞かれるのが、一番答えに詰まる。
人によっては「学校で仕事」と言うし、人によっては「石屋さん」とも言う。

バドミントンの会場に行けば「TABIMINTON」と言われ、海外を旅しながらバドミントンのコーチをするブロガーと知られている。

「仕事?僕は旅人だよ」
そんなすかした返答をすることもあった。


裏方の仕事


学校の情報発信や、生徒の身の回りのサポート。
今回の修学旅行で言えば、彼らに動画を作ってあげたいので、多くの時間カメラを回して材料を集めていた。

そう、僕が学校で目立つのは容姿だけのことであって、行なっている仕事は裏方の仕事ばかり。
学校のメインは生徒であることに変わりはない。

小さな町の小さな高校。
僕が作る動画がどれくらい、彼らの思い出として残るか分からないが、他の高校では作ってもらえないクオリティの動画を作ってあげるつもりだ。

生徒によっては、ここから先しばらく旅行らしい旅行に行くことはないかもしれない。
生徒によっては、高校生活で一番の思い出になるイベントかもしれない。

僕は高校生の頃、バドミントンの遠征で修学旅行には行けなかった。
中学生の頃の修学旅行では、旅行先でもトレーニングをさせられた。

一般的な高校生が修学旅行というイベントをどう感じているのか、僕とは違った感覚だと思う。

もしかしたら彼らが40歳になった頃に、今回の修学旅行の動画を見返す時があるかもしれない。

そんな時に、何を思い何を感じるのか。
僕が映り込む動画は一つとしてないが、彼らが担任の先生やクラスメイトを懐かしく思う、そんな時間と機会を与えてあげることが、僕が修学旅行についていく役目だと思っている。


静かに揺られるバスの中で

最終日。
今は新千歳空港から幌加内へ戻るバスの車内。

あれだけはしゃいでいた彼らも眠りにつき、車内ではバスのエンジン音とタイヤが雪の上を駆け巡る音しか聞こえてこない。

先生方ですら眠りにつく車内の中で、僕は一人パソコンを開き画面に向かってタイピングをして、時々窓の外を眺める。

静かなバスが好きだ。
洗練された文章が書ける空間は、僕にとって気持ちの良い空間。

僕が学校でどんな形で生徒と接しているか、これを読んでいる多くの人は知らない。
それでいい。

誰かに自分の学校での立ち振る舞いを見せたくて、彼らのことを書いているわけではない。
また、彼らからしても僕は特別な人ではなく、学校の職員の一人に過ぎない。


40歳で修学旅行に行くのは、僕の今の仕事だから。
そして、こうしてブログを書くのは、静かなバスの中が好きだから。

僕の職業は「HASHIMOTO」であり、それ以上でもそれ以下でもない。



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