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目よ空港よ(18首)


目よ空港よ

橋本牧人

プーパッポンカリーひたひた渉るがにメニューに象三頭は竝べり

カオは米、ガイは鶏とぞ書かれありカオマンガイは米マン鶏なり

ひややかに軽きコップゆきららかに水はわれらの咽を踰えぬ

古さるる財布を留むるしろがねの朦朧として羊なりけり

寂しさのかろきは風に任せおく神田川から逸れて市街へ

うつくしからずかつ朝夕に腐るるを花に袋と書けば思ほゆ

ヴェルギリウスわが手を曳きて黴臭き大江戸線のさらに深きへ

送り火のひとの写真におぼろげに燃ゆや煙は火につながるる

観覧車の円に吊らるる空席の星に濡るるも淫らなりけり

唯とふ字かにかくに思ひ美醜なき真昼を壁が見えてゐるなり

シャワー止まざる男湯にゐて鼻唄のひくきに敗戦国の調べは

NECTARをもとむる指はあかがねの硬貨をいちまいにまい抓めり

快に快重ねてひと日の捷きかな木に咲く花は狂ひ抜くべし

楡の木の膚登りゆく蟬の子の肉あれば足千切れざりけり

ジンジャーエール小瓶いつぽん注ぎきりちさき飛沫に鼻を濡らしつ

夏川のひかりはひかりより生まれ鴨のあたりはほの暗きかも

台風の目と空港は濡れながら虚ろなりけりいのちのごとく

ちさき窓ゆ見下ろす雲の平たきよ靉靆たる漢軍の敗走


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