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『未来』月詠2023.9月-2024.2月まとめ

※一部改作


9月

たとえば、と言うとき躑躅が見えたから少しいじわるだった気がする
“勝手にしやがれ”のラストみたいに走ってる 中野ブロードウェイをトイレへ
トイレ古すぎる孟夏の中野サンプラザで加藤治郎を見ていた
あらためて見ると紫陽花青すぎる、し、ほとんどブロッコリーに似ている
世界からぼくへ檸檬が生るたびにぱちぱちと音楽はかかった
珈琲を飲みに来ててもそれでもたまに水を飲む必要はあること
これまでの生きてき方が水出しの麦茶みたいに、しかも冷えつつ

10月

おじいちゃん二人がずっと話してる映画で、ぼくは良いと思った
炎天にちゃりんこ漕げばtoo late,it's too lateと軋むチェーンは
子、怪力乱神を語らず。ゆえに『子不語』くらいのおしゃれさで荻窪へ
あこがれは高層ビルの窓みたいって気付いてそれからやめてしまった
桃のパフェ崩すぼくらは田舎出でくるりがずっとぐっと来ている
憶えてて ぼくが驟雨にかこつけて喋ったハローワークのせつなさ

11月

お尻にもリボンが付いているズボン履いてるモデルのお尻にリボン
ポテサラ…と渡部陽一みたいに言うくだりを唐揚げが終わらせた
日本を誤解している監督の映画が摑んでいるあれはなに
チェロを弾くならベランダで弾いているあなたのチェロに霊として棲む
箸箱のあの一押しをもう一度知りたくて晩夏の百均へ
恋人がぼくの花束から薔薇を抓みとろうとして、千切れた
Duolingoすると何かをした気分ってほとんどウルトラマンだ
ハンモックくらいみんなが昼下がりしている新宿御苑、いいとこ
後ずさりしている夏がこの国を見限っていくそのするどさに
幽霊がひそひそ声で喋ってるロッカーは少し気まずそうにする

12月

解説でよさがわかった写真家の写真に写っていた悪魔像
でしょう、夜風にかすかに乗ってくる木犀の香に死にたくなって
ポラロイドが偽典のようにひき起こすひかりに佇っている、恋人が
すずしさは造語、なるほど、この秋をぼくは真正直に過ごしたい
だれも追い越さないように気を付けて詩が詩でなくなるさまを見ている
九月尽 いつだったか母が撫でてくれた肩にあなたの頭のおもたさが
みじかく歯磨きを終えてピングーがする笑い方、とても可笑しい
花の落ち際を見たことがない 見ておくべきだと思う、賭すには

1月

あたまからぐっとひき裂かれる生木、働きながらループで思う
あなたたち以外の前ではよく失語しているよ いつも逆光の城
ぼくはぼくの映画の監督兼カメラだからあなたが主人公だよ
あわれみじめな東京のぼくパチンコのドアがひらくとデジモン流れ
小説を映画にするそのプリズムに母とぼくがふたりで棲んでいる
ナイーブなぼくとナイーブでないぼくのどちらがいいか闘牛しよう
うちがわへ羊歯は丸まる どうしよう 孔雀にぼくを喩えたのはいつ
ぼくの子どもがぼくそのものであるような雪の荒野に銃は似合った

2月

レンタルビデオの棚の隙から母の目が馬酔木の花のように見ていた
星座ってコインランドリー行くときの気持ちが見せてくれる幻?
あなたは人、国境となる色と色、人として死ぬことはできない
冬の陽を五本の指で弱らせる力は雪のようで、違った
水に雪溶けゆくさまがちらちらとあたまで光りはじめる くしゃみ
喋ってる人のこころが信仰のあたりへ移る かかしも移る
青鷺の口から小さなおじさんが出てくるなんて思わなかった
踊り場はふくらんでいる感じからきゅっと苦しくなる 昼と昼
林檎いっこくれて渋谷のいたるところで冬が洩れているって、いまさら
西荻のキャベツは意思を持っているらしいよぼくは奨励賞だけど

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