「ハッタリをかます」

新たな(へっぽこ)ストーリーが始まった。

いつも懇意にしていただいている方のお手伝いをすることになった。内容は伊東市のとある保養所の点検・掃除・修理などである。

はじめに、まさかの、車を与えられた。貰ったわけではないにしろ、車が使えるようになった。現地での買い出し、遠出に必要なのだろう。東京の事務所で話を受けた。「あそこに置いてあるから、これで伊東まで来てねー!」と。

ご好意はめちゃくちゃ嬉しい。が、しかし。わたくし、ペーパードライバーである。助手席に人が乗ってはじめて、かろうじて死なない程度の運転ができる。仕事よりも運転の方が不安だ。これはハッタリをかますしかない。自分自身にハッタリをかます。「俺は、ベテランドライバーだ!」

勢い余って、始まった、自分を騙す130kmのワンマンデッドドライブ。まず、難所は、都内。寄ってほしいと言われた場所まで車を飛ばす。10分で着くところをしっかり20分かけて辿り着いた。パーキングに、華麗に車体を斜めに傾けて、駐車。必要なブツを受け取り、今度は首都高を目指す。

ここからは、胆力の問題だ。猛者があふれる、朝の霞ヶ関。死なない。それだけを強く思い、駆け抜ける。カーブ。車線変更。いける。いけるぞ。目の前にはETC。みえる。私にも敵がみえる。あとは、流れに身を任せる。ハッタリは十分かました筈だ。流れにのる。トンネルを抜ける。気づくと、目の前に山。やったのだ。私はやったのだ。

無事、交番の看板に死亡者1を足すことなく、伊東までたどり着くことができた。が、やっぱりペーパードライバー。最後の車庫入れで、しっかりやらかし、車体を擦り、地元の方に助けられるという、オチが待っていた。調子にのってはいけない。

建物の引き継ぎに立ち会う。前の所有者の方、そこを使っていた東急の方、僕らの三勢力が揃う。みなさんがスーツの中、1人だけハイネック、リラックスパンツにデニムジャケットとニット帽という風態で参加した僕は、「デザイナーの方ですか?」と聞かれ、「さすらい系の方です」という、答えにしては不適切な切り返しを見せた。ここではデザイナーになりきるハッタリはかませなかった。

汚れたマットレス。つかない電気。開かない自動ドア。壊れた温泉。どうやらこういったものを修理するところまでが今回のミッションのようだ。目を凝らせば凝らすほど気になるポイントが見つかる。やるしかない。ハッタリをかます準備はできている。実績がないことは言い訳にならない。Just Do it 。ナイキのスニーカーが、僕の心にそう語りかけてくる。

一昨日噛んだ舌が痛い。

つづく。

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