出口の目線・26
参列の方々が揃い、そろそろ…という時に葬儀担当の方が声を掛けに来た。
『まもなくですので、ホールの方に御案内いたします』
ぞろぞろと歩いて行き着いた先は、シンプルな広いホールの端の方であった。
喪主の母の意向で僧侶は呼ばないので、読経も無く椅子などは無い。棺の前には焼香台が有り、順番に焼香をしていく。
その後、皆で父の周りに集まり 持参したスポーツ新聞とお酒を叔父さんたちに渡した。これはその場で笑いが起こるような雰囲気でもあった。
『あんちゃん!この世では酒は控えめにって言われていたけど、あっちではどんどん飲んで!新聞も一緒に入れておくから旅路で読んで!』
たたんで枕元にでも添えて置けば良いものを、敢えて広げ体全体を覆うように並べていた。お酒も瓶のままでは入れられないので、蓋を開け父の周りに掛けてくれていた。
『思う存分、飲んでくれよ!』
生前の父のイメージは何処に行っても大酒飲みであったため、そのシーンでさえも ユーモアな雰囲気が有った。
肺が悪かったのが一番の死亡原因であるが、10年以上前にタバコはやめていたので 以前はヘビースモーカーであったが イメージは既に消えていたので、タバコは用意しなかった。
それだけ皆が心地好く送ってくれることは有り難かった。その場で一緒に笑っても良かったのだが、心は付いて行かずボンヤリとそれらを見ていた。
【【続く】】
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