出口の目線・28
『なんかさぁ、ドラマの光景みたいだよね~実際に目の前で有るのも 不思議な感じだね~…』
父が火葬炉に送られていく場景を見ながら指差し、隣にいる母の顔を覗き込み 言ってみた。
『馬鹿!こんな時に余計な事を言うんじゃない!!』
母は私の礼服の裾を引っ張り、これ以上おかしな事を言わないように 小声で発言を止めた。
後ろにいた参列者は場にそぐわない発言をし、ぼんやりとしていた私を哀れんだであろう。
日々、目の前のことを比喩表現する事が好きなので 私自身、良い事を言ったなと思ったのだ。
火葬炉の場に来る前、焼香終わりの時点で帰されてしまった 父と特に仲のよかった米山さんはいま何処にいるだろう。
焼香の時間が終わって直ぐ、葬儀の担当者は米山さんに小声で声を掛けた。
「申し訳ありません、ここから先は家族葬としての形を取っております。知人の方々の参列はご遠慮頂きたく…」
「え?ダメなの?せっかく来たのに…せめて最後の見送りまで…」
「誠に申し訳ございません…」
そのようなやり取りをしていたのを少し遠くから見ていた私である。米山さんの悔いる表情は私は忘れていない。
サービス業なんだからひとりくらいは…とは私は思わない。選んだプランでは米山さんは絶対に入れないし、これだけ親戚を入れさせてもらう時点でも相当なサービスであったのだ。
葬儀屋がケチくさいのではなく、私たち家族は相当の無理を言ってもらってここまで来ていたのである。
葬儀だって、確実に慈善事業ではない、線引きは必要だ。そして、私たちが選んだ結果なのである。
父には申し訳ないと思った。
自分で自分の棺は担げない…こんな慣用句は有っただろうか?葬式は自分が主役でも、結局は家族などが様々と決めていく。
それにしてもまさにそんな光景ではあった。
【【続く】】
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