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自然豊かな場所に拠点を持つと、知識欲が湧き出てくる

八ヶ岳の家には深夜に到着することが多いのですが、その翌朝に楽しみにしているのが庭の散歩です。
マムシグサの成長を見守り、山椒の木がいつの間にか実生で増えているのを発見して喜び、1本だけ生えているブルーベリーの木にも緑色の若い果実がついているのを確認し、季節が順調に到来していることを感じます。

ブルーベリーの若い果実

さらに庭を歩きながら、なにか新しい発見がないかとキョロキョロします。

苔と一緒に生えるキノコ

庭には、ハイゴケ、コツボゴケ、タチゴケなどが群生している場所があり、なかでも軒下の雨水があたる場所にあるハイゴケの群生地は数十年の歴史が積み重なったという風格でふかふかになっています。私のお気に入りの場所です。そんなハイゴケの緑の絨毯に、オレンジ色の点々が見えました。

傘の直径が数ミリ程度の小さな小さなきのこ

可愛いキノコですね。そういえば、君の姿を去年も見たような、見なかったような。なにせ、どこかで見たことがあるような風貌です。
写真を何枚も撮って、植物アプリで調べてみます(キノコについても、ある程度は判別してくれます)。

表示されたのは、ヒナノヒガサという名前。
苔に寄生(共生)して生えるということで、このキノコで間違いないでしょう。
雛の日傘ということで、分かりやすいネーミングですね。
コケリウムやキノコリウム等でも見かけることが多いとのことで、ファンの方々にとっては身近なキノコです。

可愛い見た目ですが、毒キノコです。
というか、幻覚成分のシロシビンを含んでいるそうです。マジックマッシュルームにも含まれているやつですね。このヒナノヒガサは超小型ですしシロシビンの含有量もかなり少ないので、実害は少なさそうですが。
シロシビンの功罪については、映画「素晴らしき、きのこの世界」を観ることを超オススメします。高速再生でキノコがむくむくと成長していく映像が圧巻ですし、幻覚作用をもたらすシロシビンが実は抗うつ作用を含めて人間の命を救うほどの力を持っているということが分かります。

上の写真は傘が開く前の状態ですが、傘を開くとこんな感じになります。

一番大きなものでも、傘の直径が1cmほど

この写真の右上に、ハチの巣が写りこんでました。
春から夏にかけてアシナガバチが軒下に巣を作り始めます。油断するとすぐに巣が大きくなるので、長い釣竿でひっかけて落としてしまいます。この前は、3個の巣を落としましたね。そのうちの1つでした。
去年、物置小屋に入ろうと思ってドアをガタゴト開けた時に、真上に巣を作っていたアシナガバチが大きな羽音を立ててやってきて、刺されてしまいました。それまではハチがいてもそんなに気にしなかったのですが、それからは徹底抗戦です。ワタシヲ オコラセマシタネ!

意外に長い

苔の絨毯から飛び出ているのは2、3cmほどですが、引っこ抜いてみると意外に長さがありました。根本まで10cmはありますね。

1つ上の写真のヒナノヒガサを抜いたところ

ハイゴケの絨毯が見た目以上に深く、手のひらで押すと5cmほど沈み込むくらい柔らかいので、その底のほうから頑張って生えてきたんですね。

見た目は短いのに、実は長いもの。
と言えば、チンアナゴを思い出します。
チンアナゴも、砂底から体を出している部分は10cmに満たないほどですが、体の大半は砂の中に埋まっていて実は30cmくらいありますからね。最初に見たときは、ちょっと驚きでした。

ネットで調べてみても、ヒナノヒガサについてはあまり情報がありません。
苔に寄生している、または共生していると書かれているのですが、そのどちらなのかも曖昧なようです。あまり、研究者の興味の対象ではないのかな。
私が調べた中では、以下のサイトが一番詳しかったです。蘚類と菌類の共生が知られていないことから、ヒナノヒガサも共生ではなく寄生と考えられているという説を紹介して、詳細な写真もついています。

そよ風のなかで Part2: ヒナノヒガサ (soyokaze2jp.blogspot.com)

名前を覚えて解像度を上げる

日本全体で、ヒナノヒガサのことを知っている人はどれくらいいるんでしょうね。
見たことがあるという人は、10%くらいいるかもしれません。
(いや、そんなにいないかな・・・)
ヒナノヒガサという名前を知っている人は、0.1%くらいじゃないでしょうか。かなりマイナーだと思います。
キノコ本のバイブルとも言える「山渓カラー名鑑 増補改訂新版 日本のきのこ」を見ても、載ってはいましたが結構小さな扱いで情報量も少なかったです。ただ、コケリウムやキノコリウムとして小さなキノコが最近流行しているので、最近では少しだけ存在感を増しているはずです。

ということで、私は晴れて、日本の0.1%に達することができました。
正規分布を仮定すると、偏差値80を超えています。笑
まあ、ちょっと誇張しすぎましたね。そんなことを言うなら、スーパーで売っていないキノコは、ほとんど偏差値80超えでしょう。
ヒナノヒガサは、キノコが好きな方の中ではそれなりに有名なキノコだと思います。ヒナノヒガサを表紙にしている本もありますしね。キノコファンを母数にすれば、偏差値60くらいが妥当な線かな。

という自己満足にひたりながら、庭に現れる植物や菌類や昆虫などを調べています。
やっぱり、実物が目の前にあるというのが最大のモチベーションなんですよね。机に座って図鑑を眺めても次第に眠くなりますが、自分の家の庭に現れた珍しいものを同定するというのは楽しい作業ですし、同定が難しいほど興奮しますし、そうやって同定した名前は記憶に定着します。

そして、自分が知っている植物が増えると、森や渓谷や公園や庭を歩きながら目に飛び込んでくる自然の風景の解像度が上がります
都会でも地方でもヤブガラシがものすごく繁殖していることとか、八ヶ岳で名前を知ったタケニソウ(竹に似ている)が都内の公園の脇にも生えていたこととか、その公園の近くのツツジの植え込みにノブドウのツルが伸びていて小さな実もなっていたのに、翌週見たらツルごときれいに刈り取られてしまっていたこととか、嬉しいことも寂しいことも含めていろいろな発見があるのです。

家を持ったことで、想定外のことが起こった

もともと植物については一般以下の知識しかなかった私ですが、八ヶ岳に自分の家と庭を持つことで、知識欲に目覚めることができました。
これは、自分の家を持ったことによる効果なのだと思います。
私はかつて、別荘を持つということを最もコスパの悪いお金の使い方だと思っていました。そんな大金を別荘に使うよりも、そのお金を旅行代にして世界と日本の各地を巡るほうがいいじゃないか。そういう価値観だったのです。
でも、実際に八ヶ岳に自分の家を持つと、そこでの生活が旅行先での滞在とは全く異なることに気付きます。自分の庭をより良くしたい。自分と家族が過ごすこの空間をもっと快適にしたい。そういう自分中心の欲望が起点なのかもしれませんが、結果として周囲の自然を注意深く観察し、ガイドさんなど自然に詳しい人の話を聞くのが楽しみになり、東京で暮らしている間も図鑑や本を読み続けたいというモチベーションが湧いてきました。
これは、一過性の旅行だけでは生まれなかった気持ちなのだと思います。

ということで、自然豊かな場所に家と庭を持つというのは、ぜいたくではありますが素晴らしい経験と知識を得ることにつながります
今は都会に住んでいて二拠点生活や移住をしたいと思っている方の、心の後押しになれば幸いです!?

さらに小さな、ヒナノヒガサの生まれたて?の赤ちゃん


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