太田匡彦『犬を殺すのは誰か ペット流通の闇』(2013年)

以前からよく言われている、日本におけるペットの飼われ方の特殊性が知りたくて、この本を読んだ。

先進国の中でいわゆる「ペットショップ」が存在するのは日本だけ、ヨーロッパの動物愛護先進国では、シェルターと呼ばれる保護施設から、養子を取るような形で飼い始めるのが一般的らしい。そして飼い始める時も、ガラスケースに入った子犬を見て「可愛い!」「目が合った!」と衝動的に買うのではなく、毎日散歩ができるか、犬舎も体長の二倍あるか、などという条件をクリアしなければ飼えない。犬にストレスなく生活できる環境を提供することが法律で決められている。また、犬税というものもあり、年に1~2万円くらいの税金を払い、それが前述のシェルターの維持費などに活用されると同時に、安易に犬を飼う(そして安易に捨てる)抑止力にもなっている。

しかし、日本は違う。

この本で取り上げられている様々な問題は極端な例だろうが、それでもやはり衝撃的で、想像しながら読むのがとても辛かった。

・ペットショップでは抱っこさせたら勝ち、深夜の繁華街で判断力の低下した泥酔客を狙っているお店まである。

・ショップで売れ残った生後六か月の子犬を、生きたままポリ袋に入れ、冷蔵庫で殺してからゴミと一緒に出す。

などと、今こうして抜粋して書いているだけでも苦しい。去年から同居している我が家の愛犬が、もしかしたら同じ目に……と思うと、胸が詰まる。

もちろん本書はただショックを与えるだけではなく、なぜこういった問題が発生し、さらになぜなかなか無くならいのかを、短いページ数ながら、しっかりとわかりやすくまとめている。

なかでも興味深かったのは、8週齢規制をついに叶えられなかった、2012年の動物愛護法の改正の経緯だ。子犬が産まれて最低でも8週間は母犬の元に置いておかないと、その後の問題行動を起こしやすくなる、という科学的にも有力な説が欧米ではかなり一般的にもかかわらず、日本では小型犬の人気が高いため、ペットショップでは生後56日前の子犬がバンバン売られている。それを規制すべきだという法案が通るはずだったのに、直前になってそれが骨抜きになった過程が詳細に、怒りと落胆を込めて語られている。

規制に反対する業界団体があり、その声を拾ってアクションを起こす政治家がいる。それぞれ自分の立場というものがあるのだろう。一概に正義と悪を分けられないのかもしれない。だが、結局その割を食うのは保健所で殺処分される犬たち、売れ残ったからと言ってどこも悪くないのに、一部の動物病院で「練習のために」手術される犬たちなのだと思うと、やはりやり切れない。

今年2017年は5年に一度の動物愛護法見直しの年。

少なくとも、改正の結果をきちんと把握したいと思う。

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