【小説】ペトラの初陣 72

「おい、オルオ。


 お前の立体起動装置を俺に貸せ」


「え?」


「俺は誰の装置でも扱える」


「……本当ですか?」


 本当だろうか、とぺトラも思った。


 しかも、兵長とオルオでは、身長差が結構ありそうに見える。

 ただ、立体起動装置自体にサイズのバリエーションはなく、


 せいぜいブレードの長さや重さなどを自分で使いやすく改良するくらいだ。


 もちろんそういった微調整が生死を分ける境目となるのだが、


 兵長の身体能力を考えれば、その程度の違いは誤差の範疇なのかもしれない。

「新兵の割には、お前はよくやった。下がっていいぞ」


「いや、でも」


「早く脱げ」


「あの、なんで」

「あ?」


「なんで……、ぺトラじゃなくて、僕なんです?」


 リヴァイは、その問いに少し驚く。


「オルオ! あなた、馬鹿なの?」


 ぺトラは心底呆れた。


 こんな時に、何を張り合う必要があるのか。


「お前が足をくじいて動けないからだ」


 ぺトラが畳みかける前に、リヴァイが答えた。


「鼻をつぶす前に着地で足首ひねっただろ?


 それじゃもう、まともに跳べないはずだ」


 オルオは黙ったまま、リヴァイを見つめる。


 ほとんど睨むようなまなざしだ。


「本当ですね?」

「ああ」


「僕が、ぺトラよりも使えないからじゃないですよね?」


「しつけえぞ」


 今度はリヴァイが眉間にしわを寄せた。


「装置を脱いで、手当てをしろ」


「わかりました」


 装置を解き始めたオルオを見て、ぺトラはため息をつく。

 
 その時ぺトラは突然、思い出した。


「雷じゃない!」


 叫び声にその場の全員が、一斉にぺトラを見た。


 なんのことか、誰もわからない。


「さっき外が光ったのに、雷が落ちる音がしていません!」


 リヴァイだけが、その言葉に反応した。


 窓際にいた兵士たちに向かって怒鳴る。


「窓のそばから離れろ!」


 ぺトラの咆哮がそれに続いた。


 閃光の直前の、大きな落雷の音。

 あれには、ほんの一瞬だけ、ごく短い叫び声が混じってはいなかったか。

 見たことも聞いたこともないような、恐ろしい獣の叫び声が。

(そうだ)

 その咆哮こそが、引き金になる。

「さっきの光は――」


 巨人です。


 と続くはずの声は、窓ガラスが粉々に砕ける音にかき消された。


 横幅が10メートルほどのある窓ガラスのすべてが吹き飛び、


 そばにいた2名の兵士が宙を舞った。


 飛びあがったままぺトラの目の前を通り過ぎ、反対側の煉瓦の壁に激突した。

 何かが砕ける不快な音。


 肉と骨だ。


 2人は声もなく、床に落ちた。


 その衝撃の、致命的なノイズがぺトラの耳にこびりつく。

 恐ろしくて、とても振り返ることができない。

 だから、突如目の前に現れた巨人をただ、見つめた。


 窓ガラスを割って乱入してきた時と同じ、


 しゃがんだ姿勢のままだった。

 金髪の長い髪が、地面を撫でている。

 むき出しの筋肉で覆われた顔面に、はっきりと見覚えがあった。


「ミュンデさん――!」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?