狩俣和沙「明日はきっと楽になる!」(2018年)

ざっくりと言ってしまえば「シャルルー」という名前のリラクゼーションサロンを舞台にした、やや宣伝めいた内容ではありますが、ただそれだけで敬遠してしまうのはもったいないくらい、実は味わい深い短編集です。


たまたま私も同業者なので言えることですが、特にリラクゼーションサロンに関して、嘘や誇張がない点がまず良かったです。


リラクゼーションは確かに万能ではないけれども、肉体的にも精神的にも、そっと優しく背中を押してくれるものなんだ、という本質をしっかり捉えていると思います。そういった、ただ言葉で説明されただけでは伝わりにくい微妙なニュアンス、それこそ小説という形に落とし込んだら最も伝わりやすい部分を、丁寧にすくい上げて描いているというか。


特に印象的だったのは第4章の、キャリアウーマンが久しぶりにバスタブに浸かるシーン。本当に久しぶりに湯船に浸かる人は、本当にこんな風になるだろうな、そういや自分もこうなったな、というリアリティに読みながら思わず微笑んでしまいました。まあ、私が個人的に、小説の登場人物がお風呂に浸かる描写が好きだというのもありますが(笑)。


人はリラックスすると、どうなるのか。

心に余裕ができて、視野が広くなる。
自分が本当は何がしたいのか、何が最も自然なことなのか。
リラクゼーションによって肩書きや無駄なプライドや世間体が剥がれ落ちた時、それがふっと突然、クリアになる。私たちセラピストは時々、お客様のそういう稀有な一瞬を垣間見ることがあります。それは本当に奇跡的な瞬間ですし、仕事冥利に尽きる瞬間です。


この小説に出てくるのは皆、かなり優秀で、コミュニケーション能力も高いセラピストたちです。技術や接客もそうですし、また会話を流しすぎず、かと言って深入りもしすぎず、ギリギリのラインで踏みとどまるバランス感覚を持っています。結果的にその距離感が、お客様の精神的な心地よさにもつながっていく。ぜひお手本にしたいです。そういう意味でも、とても実用的でした(笑)。


もちろん、セラピスト以外の方でも、こういった利用方法があるんだ、と知ってもらういい機会になるでしょう。どこに住んでいようと、ストレスのない場所などありません。リラックスするための選択肢もまた、いくつあってもいいのではないでしょうか。


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