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vol.18「三春街かど写真展」霜降   10/23〜11/6


 三春の町を初めて訪れたときに気づいたことといえば、神社仏閣が多いこと。お菓子屋さん、床屋さん、花屋さんも多く、そして写真店が三軒も健在している。お菓子屋さんやお花屋さんがあるのは、お寺が多いことと関係がありそうだがその他はなぜだろう?地元の方にお話を伺うと、その昔は銭湯も何軒かあり、大抵近くには床屋さんがあったのだとか。そういえばin-kyoのお隣は今でも現役の床屋さん。その裏手には銭湯跡の建物がある。天井が高くて天窓がある明るい銭湯。まだ陽のあるうちからそのお風呂に入ったらさぞかし気持ちが良かっただろうと想像してみる。今は跡形もないが、近くには駄菓子屋さんもあったらしい。夏には銭湯上がりにかき氷が食べられたのだろうか?冬ならもんじゃ焼き?あんずジャムやイカくんなんかもあったのかな。
 お風呂上がりのさっぱりした足で床屋さんに向かい、髪を切った旦那衆が町なかを闊歩して。お風呂が各家庭に普及するまではそうした風景が当たり前だったのだろう。銭湯で交わされる何てことはない会話、いつもの時間の同じ顔ぶれ。当時の平和な日常の景色。この目で見てみたかったなぁと空想散歩をするばかり。

 写真店が町内に集まっている理由はわかっていないが、そのうちの一軒「いとうカメラ」で出会ったのが三春在住の写真家・中村邦夫さんだ。北海道出身の中村さんは、数十年前に勤めていた仕事の都合上、転勤で東北を中心にあちこちの町で暮らしながら日常の風景を撮り続けていたそうだ。その転勤先のひとつが三春であり、平成3年に移り住み、町や人に惹かれる中で2年後には三春に住居を構え、その後も新幹線通勤をするなど勤務地は転々としながらも震災後からは三春に根を下された。
 見せて頂いた写真集は桜の景色にはじまり、in-kyoの裏手を流れる桜川の風景を撮り続けたものもある。写真に収められていたのは私が移住する前、まだ造成工事が行われていない昔のままの、橋も木造の風情があるものだった。その川と橋のまわりで子どもたちが遊んでいる様子、お年寄りの方が歩く後ろ姿など、日常の何気ない風景が中村さんの優しい視点で切り取られている。そこにはちょっとしたユーモアも感じられて、写真を見ているだけで何とも言えないあたたかな気持ちに包まれる。
その中村さんから「三春街かど写真展というものをやるんだけどin-kyoさんも参加しないかい?」とお誘いを受けたのが数年前。ちょうど企画展の内容とも重なっていたので参加させてもらうことにした。期間中には「いとうカメラ」「まほらホール」など町内にいくつかの展示箇所があり、町を散策しながら自然の風景も感じつつ、展示を見ることができるようになっている。肝心の中村さんの写真はどこに展示されるかというと、桜川沿いのとあるお宅の土塀。屋外での展示ということに驚いている私に中村さんは、
「写真をわざわざ見に行くって言うと敷居が高いかもしれないけど、ここだと歩きながらでも見れるでしょ。車からだってちょっとスピードを緩めれば見れるからね」
そんな風にニコニコ笑いながら話して下さった。
 
 in-kyoが初めて参加させて頂いた2017年の中村さんの作品は「ヤギ爺の野良仕事」。中村さんが三春で出会った、ヤギやニワトリを育てながら畑仕事をして暮らしたひとりの老人を4年間追い続けたもの。取材というものとも違って、ただただ坦々と繰り返される、ヤギ爺の日々の野良仕事の姿と記録。そこからは二人の間に生まれた親密さも感じられる。ヤギ爺も中村さんにカメラを向けられていることを、意識すらしていないような自然な様子が微笑ましい。そうかと思えば満面の笑みで中村さんにお菓子を進めている姿もパチリ。人をいつの間にか笑顔にしてしまう中村さんのお人柄まで写真から伝わってくる。
 ヤギ爺もヤギも中村さんに向かって笑っている。中村さんの目を通したヤギ爺の暮らしぶりはおてんとう様に照らされて、キラキラと輝く愛おしいものに感じられるのだった。