vol.34 「お庭探訪」夏至 6/21〜7/6
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vol.34 「お庭探訪」夏至 6/21〜7/6


 まだ梅雨入り前だというのに、天気予報は雨マークが続いている。と言っても、1日中雨が降るわけでもなく、夏空のような晴れ間が広がっていたかと思えば雷が鳴り出して突然の豪雨。と、空の様子はくるくると忙しない。そんな天気に歩調を合わせるかのように、雑草たちはぐんぐんと勢いを増して成長している。「つい先週草刈りをしたばかりなのに」なんて私の独り言など夕立の音に簡単にかき消され、雑草たちはまたその隙に庭を覆い尽くしてしまうのだ。私と雑草たちとのイタチごっこをよそに、秋に蒔いた草花の種も、この水と光の恵みのおかげで芽吹いて順調に育ち、花を咲かせて目を喜ばせてくれている。今の家で暮らすようになってもうすぐ丸2年。1年目は草刈り以外の庭の手入れがなかなかできずにいたけれど、ここへきて少しずつではあるけれど、ようやく庭しごとができるようになってきた。
 以前の集合住宅に住んでいた頃は、自宅から歩いてin-kyoに出勤しながら、他所のお宅のお庭を見るのを楽しみにしていた。季節になると、あらゆる種類の見事なバラが花を咲かせるお宅。ふわっふわのスモークツリーがシンボルツリーのように植えられたお宅。そしていつも見事だなぁと思っていたお宅は、お庭のアプローチにあるアーチ状のつるバラや、ハーブ、白のオルレアの花が一斉に咲く様子が素晴らしく、毎年その頃を心待ちにして、立ち止まっては見惚れていた。
 ある日、いつものようにそのお宅の前を通りかかって、気持ちよさそうに咲く花やハーブを見ていたら、ちょうどお庭の手入れをされていた奥さまがいらしてごあいさつ。レースのように咲く白い花が「オルレア」という名前だということも、このときに教えて頂いたのだった。
 今の家に引越しをしてからも、ご近所にはきれいにお庭の手入れをして、草花を育てている素敵なお宅が多い。自然が身近にありながら、暮らしの中にも草花の美しさを身近に取り入れて愛でている。町全体にそうしたお宅を多く見かけるのは、気のせいではないように思う。
 山野草が植えられた和風のお宅。バラなどの洋風な花に囲まれたお宅。毎年少しずつ紫陽花を植えているというお宅は、お庭というよりも紫陽花山と呼びたくなるような広大な土地に、青く美しい景色が広がる。山へ続く斜面に咲く山百合の群生が、前を通るだけで誘うように甘い香りを漂わせるお宅もある。空き家のお庭にだって手入れはされなくなっても、昔の住人が育てていた名残なのだろうか、季節ごとに花を咲かせてそれが私の楽しみにもなっている。夏が近づくとムラサキツユクサ、ピンクの粒々が弾けたように花開くシモツケソウ。石塀に蔓を絡ませ涼やかな花が咲くクレマチス。よほど草花が好きだった人が住んでいたのだろうと、想像をしてみる。

 我が家の庭には、私たちが引越しをする前には松の木が植えられていた。家主不在で剪定などの手入れもされないまま、それでもすくすくと10mほどまで成長をしていた大木だった。当時は家の中のことで頭がいっぱいで、庭造りの計画はノープラン。だからなおさらその木をどうしたら良いか決めかねて、庭師のHさんに相談をすることにした。Hさんは松喰い虫が福島にも増えていること、枯れた松葉で屋根を傷めたり、表の通りに落ちて通行する人に迷惑がかかることや、私たちがこの先大木の手入れを定期的にできるかどうかを考慮した上で、伐採を勧めてくれた。伐採の際にはHさんによってお神酒が用意され、これまでこの庭で育ってくれた松の木に対して敬意が払われ、しかるべき段取りで伐採が執り行われた。
 今では松の木があった面影すらなく、風通しの良い庭になっている。何からどう手をつけて良いのやらわからず、ガランとした庭のまましばらく放置していたものの、今年に入ってからは一角を枕木で囲い、ハーブを育てることに。オレガノやローズマリー、ミントやタイム、フェンネルやレモングラス、カモミール、ラベンダーなど、いくつか苗を植えてみた。はじめはか細く頼りなかった苗たちも、今ではもう何年もそこで育っているような顔をしてのびのびしている。その他にも青い実をつけた状態で購入したジューンベリーからは、いくつも赤い実を収穫することができ、もともとあった桑の木に実をつけた桑の実と合わせてジャムにした。ブルーベリーやラズベリーに比べると、鮮烈さに欠けてやや地味な味わいかもしれないけれど、それでもこの時期だけの庭からのご馳走。グミの赤い実だって、鳥についばまれてしまう前に、どうにか美味しく味わう方法はないかと考えている。ハーブはサラダやチーズ、肉や魚、パスタなどの料理にせっせと使ってみたり、お茶にしてみたり。目で見て楽しむよりも、味わうことの方がつい優先してしまっているけれど、そうやって今までやっていなかった庭しごとのおもしろさを、まずは味わうことから探っている状態だ。
 その一方で、これまで散策しながら私の目を喜ばせてくれた数々のお庭のように、我が家も自分たちだけではなく、誰かを楽しませることができたらなどと考えている。家の前を通る人、宅急便や郵便物を届けてくれる方や、回覧板を手にやってくるご近所さん、訪ねて来てくれる友人たち…etc
 名前を教えて頂いた「オルレア」は、昨年の秋に蒔いた種が次々と可憐な白い花を咲かせて、そよそよとそよぐ風に身を任せながらこの1〜2ヶ月、庭先にささやかな華やぎを与えてくれている。草刈りのときにあえて残したドクダミの純白の十字の花は、やはりよくよく見ると可愛らしくて憎めない。手入れというには程遠いかもしれないけれど、少しずつ少しずつ、やりすぎずに自分たちがその時にできる、ほどほどのところ。鳥の鳴き声や風の音、草花や木の香りが手助けもしてくれることでしょう。それで誰かがホッと気持ちを和ませたり、ゆるんだり、清々しい気持ちになってくれたなら。
 
 

 
 

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エッセイスト/生活道具を扱う雑貨店「in-kyo」店主。 「三春タイムズ」vol.1〜24が書籍『三春タイムズ』(文・長谷川ちえ 素描・shunshun)となって この春、信陽堂https://shinyodo.netより出版されました。美しい造本装幀はサイトヲヒデユキさん。