見出し画像

【劇評188】値千金の『身替座禅』。菊五郎と左團次の息。

 歌舞伎には、大人の童話と名付けたくなるような面がある。

 狂言から来た作品には、こうした微苦笑の種が潜んでいて、『連獅子』の「宗論」や『棒しばり』『素襖落』など温かい気分に包まれる。

 菊五郎が得意とする『身替座禅』は、その代表的な一幕で、残念ながら公演中止となった四月の新橋演舞場での歌舞伎公演でも、この演目が予定されていた。

 『身替座禅』のみどころはいくつかある。
 山蔭右京(菊五郎)が、奥方(左團次)の静止をなんとかくぐりぬけ、親しい花子のところで蕩けるような時間を過ごし、ふたたび家に帰るその道すがらを描写した花道の出に、この舞台の成否がかかっている。
 以前、菊五郎は、この出で、深まった酔いと放蕩の果ての気分が濃かった。今回の菊五郎は、思い出し笑いをしている軽快さで、この出を演じ、本舞台では、「谷の戸いずる」と小歌がふっと口をつき、大事な時間が思い出される様子を活写していた。

ここから先は

330字
この記事のみ ¥ 100

年々、演劇を観るのが楽しくなってきました。20代から30代のときの感触が戻ってきたようが気がします。これからは、小劇場からミュージカル、歌舞伎まで、ジャンルにこだわらず、よい舞台を紹介していきたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。