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【劇評265】「観客はおれを見に来ている」。みじんも揺るがぬ海老蔵の自信。

 海老蔵の当たり狂言となった『夏祭浪花鑑』。六度目の上演である。
 今回は、鳥居前、三婦内、長町裏の三場が出た。海老蔵は団七役を十八代目勘三郎に教わったが、勘三郎は串田和美の演出のもとに、発端、お鯛茶屋からはじめて、長町裏のあとには、団七内に戻り、屋根上を出す半通しと比べると、今のご時世に合わせて、万事が簡潔に、この芝居のエッセンスを伝えている。

 勘三郎は、団七の心理をリアルに伝えることに主眼を置いた。海老蔵は回を重ねるごとに、『夏祭浪花鑑』の様式美を重く見る。善し悪しをいうつもりはないが、型と色彩を、頑健な身体で見せていく海老蔵は、自分自身の素質をよくわかっている。牢から出たばかりのむさい様子から一転して、売り出しの侠客へと変身するとき、今が盛りの男ぶりのよさを見せている。

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年々、演劇を観るのが楽しくなってきました。20代から30代のときの感触が戻ってきたようが気がします。これからは、小劇場からミュージカル、歌舞伎まで、ジャンルにこだわらず、よい舞台を紹介していきたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。