伊藤英明のスタンリーは、胸の傷から、獣の傷つきやすい魂を解放した。
伊藤英明のスタンリーは、沢尻エリカのブランチと対になっている。
粗暴で野性に満ちているかに見えて、その奥には、恐ろしいまでに傷つきやすい心がある。テネシー・ウィリアムズは、ブランチを自分の分身としただけではない。スタンリーもまた、劇詩人のもうひとりの分身なのだった。
『欲望という名の電車』を観ているあいだ中、そんなささくれだった男が気になっていた。演出の鄭義信は、伊藤のスタンリーに、聖痕を与えている。胸にある痛ましい傷は、肉体を切り裂いただけではない。もともと、ポーランド移民として育った過去を、たくましい身体から、解き放ったのではなかったか。
年々、演劇を観るのが楽しくなってきました。20代から30代のときの感触が戻ってきたようが気がします。これからは、小劇場からミュージカル、歌舞伎まで、ジャンルにこだわらず、よい舞台を紹介していきたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。