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【劇評313】秀逸な「車引」。格調の「連獅子」。贅沢な「一本刀土俵入」。夜の部も快調だった。

 初代吉右衛門ゆかりの秀山祭といえば、重厚でコクのある芝居が見どころ。夜の部には、『菅原伝授手習鑑』の「車引」が出た。

 なんといっても、歌昇の梅王丸、種之助の桜丸がすぐれている。桜丸が花道、梅王丸が上手より登場し、舞台で出合って、笠をかぶったまま手をかけて、渡り台詞となる。

 金棒引は名題昇進した吉二郎。時平公の車が通ると先触れするが、張った調子がよい。

 梅王丸と桜丸とやりとりがあり、笠の紐を解いて、笠を脱ぐと、ふたりの隈がくっきりと現れる。梅王丸の二本隈、桜丸の剥身隈がうっとりするほどの眺め。足を踏み出した見得がすっきりと映える。

 歌昇の「飛び六法」が荒事の楽しみを見せ、種之助がからだに柔らかみがある。ふたりの対照をみるうちに、次代への期待がわいてきた。

 鷹之資の杉王丸の台詞回しが冴える。

 又五郎の松王丸が出るとさすがに、格の違いがあきらかになるが、歌舞伎の伝承が播磨屋のなかで進んでいるのがよくわかる。

 さらに歌六の時平公が凄みを見せ「天下の政事を取り行う時平が眼前」に、底知れぬ魔力がこもって、梅王丸、桜丸がたじたじとなる件り。本来の政治とは、こうした人智を越えた力があったとよくわかる。
 久し振りに歌舞伎の醍醐味を味わった。夜の部、時間のやりくりがつかない方には、一幕見でも見物をおすすめしたい。

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年々、演劇を観るのが楽しくなってきました。20代から30代のときの感触が戻ってきたようが気がします。これからは、小劇場からミュージカル、歌舞伎まで、ジャンルにこだわらず、よい舞台を紹介していきたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。