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【劇評263】語りと身体。『ふるあめりかに袖はぬらさじ』に観る玉三郎の至芸

 大女優の仕事を女方が引き継ぐ。

 杉村春子のような大女優の当り役は、後継者探しがむずかしい。杉村が牽引してきた文学座にとって、なにより大切な『華々しき一族』や『女の一生』についても、杉村が唯一無二の存在であっただけに、後を引き継ぐ女優は、困難に立ち向かわなければならなかった。

 杉村がまだ存命のうちに、坂東玉三郎は『ふるあめりかに袖はぬらさじ』(有吉左和子作)を新派に客演するかたちで手がけている。
 私が観たのは、平成元年五月、新橋演舞場の舞台で、なるほど玉三郎ほどの傑出した女方ならば、女優が引き継ぐよりも、かえってお園の役に別の味が加わって、おもしろいと思った。

 杉村は台詞のあいまに、ふっ、とかはっとかちょっとした入れ事をして、お園の投げやりな気持を描き出していた。玉三郎もこのやり方を部分的に踏襲している。けれども、吉原から品川、横浜へと流れてきた女の精神の崩れ方を、美しい身体に置き換える至芸は、やはり女方ならではのものである。

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年々、演劇を観るのが楽しくなってきました。20代から30代のときの感触が戻ってきたようが気がします。これからは、小劇場からミュージカル、歌舞伎まで、ジャンルにこだわらず、よい舞台を紹介していきたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。