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【劇評178】三島的ではないが、血の通った加藤拓也作・演出の『真夏の死』。

 三島由紀夫については、深い思い入れがある。

もちろん私は小説家としての三島を『花盛りの森』から読み始めた。劇作家としては、なにがもっとも先行していたかは難しいが、おそらくは『サド侯爵夫人』か「近代能楽集」のなかに納められた一幕物だったろう。

 今回、三島由紀夫ボツボ五十周年企画として『MISHIMA2020』が、日生劇場で上演された。何分、上演期間が限られているので、『憂国』と『橋づくし』は、見逃した。

 今回は『真夏の死』について書く。

 私は『三島由紀夫戯曲全集』(新潮社 平成二年)の上下巻を愛用している。『真夏の死』は、百枚の中編ともいうべき小説であり、三島によって戯曲化はされていない。作・演出の加藤拓也は、この荘重な形式によって血液を失った蒼白の物語に、血を通わせた。

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年々、演劇を観るのが楽しくなってきました。20代から30代のときの感触が戻ってきたようが気がします。これからは、小劇場からミュージカル、歌舞伎まで、ジャンルにこだわらず、よい舞台を紹介していきたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。