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長谷部浩のノート お芝居と劇評とその周辺

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2019年12月の記事一覧

noteを初めて一ヶ月。村上春樹さんの一言が頭の隅にあります。

 十二月からは、急にこのnotoを始めました。これについては、考えがあってのことです。  インターネットが一般的になって、だれもが自由に意見や感想を発表できるようになりました。ひとつの舞台にたくさんの言葉が読めるのはとてもよいことだと思います。  ですが、私自身、心の底で疑問を払拭できませんでした。私がこれまで書いてきた批評は、二十代から貨幣と交換に流通してきました。新聞、雑誌、単行本、いずれも購入しなければ読むことができません。    インターネットに批評を発表するよう

続編はいかに。ミシュランを防衛するために追い詰められる倫子シェフが観たい。グランメゾン東京最終回のはてな。

 グランメゾン東京第十話。  結局のところ、根本的な問題は、解決されずに終わった。  リンダ(冨永愛)が政界の圧力にかかって、不誠実な態度をグランメゾンに取ってきたこと。 先週の第九話で、GAKUを理不尽にも首になった丹後学(菊之助)が、なぜか急にレストランの窮地を救いにくること。 平古祥平(玉森裕太)をめぐる三角関係に、平古が勤務していたホテルを舞台に、松井萠絵(古谷彩子)と蛯名美優(朝倉あき)の試食が、尾花夏樹(木村拓哉)の主導で行われること。 脚

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国立劇場の復活狂言について、かつて書いたことなど。『風の谷のナウシカ』への挑戦は、ここから始まっていた。

『菊五郎の色気』(文春新書 2007年)より抜粋。現在、絶版になっていますが、古書市場で探すのは、さほど難しくないと思われます。 芸の継承の重さ 古典芸能としての歌舞伎にとって、家の芸の継承が重い意味を持つことは、いうまでもない。しかし、二百ともいわれる固定化されたレパートリーを繰り返すばかりでは、古典の名に安住するのでは、活力を失いかねない。まして、名門といわれる音羽屋である。家の型は、厳然としてあり、古典の再解釈、新たな型の創出は、容易ではない。  菊五郎に、この点を

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『風の谷のナウシカ』無事千穐楽。国立劇場の新春公演を控えて。

 『風の谷のナウシカ』も、フライングの復活などもあり、その後、大きなトラブルがなく無事千穐楽を迎えてなによりでした。  休む暇もなく、菊五郎劇団は、新春の国立劇場に出演です。  菊五郎劇団の新春公演は、基本的に、復活狂言です。主に江戸時代に行われた通し狂言を、現代の上演時間に合わせ、観客の嗜好を考えて上演台本が作られてきました。  特に、菊五郎劇団の新春公演は、当代の七代目菊五郎の方針もあって、正月らしく理屈抜きに楽しめる演出を貫いてきました。  今回は文化文政期に活

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俳優の放心をあえて写す。写真家、細野晋司の発見。

 蜷川幸雄がコクーンで活躍した時期を細野晋司が撮影した『Passion』が興味深く思えた。これもよいきっかけと思い、舞台から楽屋へ戻った俳優を撮影した『知らない顔』を求めてみた。  緒形拳からはじまって吉田日出子まで。  このなかの半数くらいの俳優は、直接お目にかかったことがある。稽古場や周辺での取材がほとんどで、楽屋で会った俳優は十人内外だろう。歌舞伎俳優は楽屋が応接間のようなものなので、勘三郎とはよく会った。  蜷川幸雄や野田秀樹が演出したでは、終演後、楽屋を訪ねること

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キーボードとパームレストの親密な関係

キーボードヘビーユーザーは、一度は腱鞘炎の危機にさられたとではと思います。 ただ、テニスは休めますが、いやみなさん休みたがりませんが、キーボード入力から逃れるのはとても難しいのでは? なので、デスク回りの環境はとても大事です。 ハッピーハッキングからリアルフォースに切り替えたために、パームレストのサイズが合わなくなりました。なので、やむなくバード電子のレストを購入しました。 家の家具は、御徒町のウッドワーク製が多いので、お願いする案も浮かびました。そこまで、こだわって

グランメゾン第十話の急展開。菊之助 GAKUを去る。

 最終話を前にして大きな展開があった。  丹後学(菊之助)がシェフを勤めるGAKUに内紛があった。まず、スーシェフの 平古祥平(玉森裕太)がGAKUからグランメゾン東京へと移る。祥平を頼りにしていた丹後は、精気を失ったという理由で、オーナーの江藤(手塚とおる)は、丹後を首にして、他のシェフと契約する。  今回の見どころは、この裏切りを告げられたときの菊之助の受けの芝居にある。  歌舞伎には、「肚を割らない」という原則がある。  当然、役者はあらゆる結末を知っている。なぜ

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蜷川幸雄の世界観はコロスにある。

 蜷川幸雄は何を考えていたのだろう。  人間は危機的な状況にある。それは、人類の誕生から始まったことで、現在に至っている。未来もまた、この状況は続くだろう。  これは蜷川の世界観であり、蜷川の舞台を撮り続けてきた細野晋司にも引き継がれたように思われる。    細野の近作『PASSION』には、蜷川がもっとも輝かしい中期の時代、渋谷のシアターコクーン芸術監督だった頃の舞台写真が収められている。  ここにあるのはポートレートではない。  まぎれもなく、蜷川幸雄演出の舞台写真

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キーボードは何を選ぶべきか。

 お芝居とは直接、関係ない話題です。  キーボードに向かっている時間が長いので、好みの道具にこだわっています。二十年以上使ってきたのは、ハッピーハッキングキーボードです。近年の原稿はすべてこのキーボードで書いてきました。  ストロークが深く、メカニカルな感触が気に入っています。ただ、特殊なキー配列なので、長年使っていても、もどかしい瞬間がありました。  気分を一新しようと思い、リアルフォースのmac向けのシリーズで、テンキーがないものを選んでみました。  さくさく入力

篠山紀信が撮った野田秀樹の「Q」。あくまで、広瀬すずらのポートレートとして優れている。

 雑誌の「アサヒカメラ」が、篠山紀信が取った野田秀樹の『Q』を巻頭に掲げている。  表紙は、広瀬すずである。  写真雑誌がひとつの舞台についての連作を掲載するのは異例だろう。  もちろん篠山紀信の存在があっての特集である。  よく構成されたページを見るうちに、気がついたことをいくつか書き留めておく。  今回に限らず、舞台の現場で篠山さんと同席することが多い。これは、篠山さんと私が同じような好みを持っているからか、それとも篠山さんが撮る現場が多いからか。どちらかはわから

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【劇評159】花組芝居『義経千本桜』。加納幸和の円熟。

 十九八七年の設立というから驚く。  花組芝居が『義経千本桜』の通しを上演すると聞いて、急に観たくなった。  序幕の「仙道御所」から始めて、知盛、権太、忠信のくだりをすべて網羅している。「北嵯峨」の件りまで含んでいる。これで休憩を含めて三時間以内に収めている。  かといって駆け足だとは思わない。むしろ、脚本・演出の加納幸和が差し出した「歌舞伎の愉しさ」をどれだけ理解出来るか。知的なパズルを観に行ったような心持ちがした。  短くはしている。してはいるけれども、原文を生半可

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『劇評158』 心優しい幸四郎の安さん。チャップリンの世話物。

 十二月は、新作歌舞伎の月になりました。  歌舞伎座の「白雪姫」、演舞場の「ナウシカ」が大作だとすると、国立劇場の『蝙蝠の安さん』は、佳品です。  私はあまのじゃくだからか、こんなさりげない舞台が気になります。なので、わずか五回の公演しかないのですが、三宅坂に行ってみました。  まず、木村錦花の脚色という言葉にひかれました。  『野田版 研辰の討たれ』も、錦花の小説を原作としていますが、大正、昭和の演劇界で活躍した人だけに、モダンでセンスがいい。

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夜のスーパーで勘三郎と会った。

 勘三郎せんべいが好きだった。  三〇代のはじめは、足繁く神楽坂へ行った。  その頃は、まだ飲食店がひしめくような街ではない。古くからある花柳界とその風情を残した商店の街で、路地裏をさまよい歩くのが楽しみだった。  毘沙門天の真向かいにある福屋さんは、地の人で、せいちゃんという店主とは、近くのバーでよく会った。  店の名物は手焼きの煎餅で、「勘三郎せんべい」。  十八代目中村勘三郎ではなく、十七代目の好物で堅焼き。醤油は二度漬けして、あえて焦がしたせんべいをよく買った。

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ご都合主義台本がかなり笑える。 『グランメゾン東京』第九話。

 演劇では、クローズアップするかどうかは、観客に任されている。ときどき、一等席から双眼鏡を使って、役者のアップを観ている観客がいる。  本当に役者が好きなんだなあと思う。テレビは、自分自身の選択ではなく、ディレクターの意図で、アップが行われる。今回は、菊之助の丹後学が、玉森裕太の平古翔平が、査察のような集団から、翔平の過去の過ちをかばう場面で発揮される。  主役級の特権は、アップは切り取りではないところだ。  歌舞伎では、見得になって、フィックスして反応を観客の視線を受け

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