【劇評305】仁左衛門、渾身の「すし屋」。目に焼き付けたい舞台となった。
六月大歌舞伎夜の部、初日。
自由闊達な『義経千本桜』を観た。
仁左衛門が芯となって目をとどかせるのは「木の実」「小金吾討死」「すし屋」。型を意識しつつ、とらわれすぎない仁左衛門の境地にうなった。
「木の実」は、平維盛の行方を捜す妻の若葉の内侍(孝太郎)とその子六代君(種太郎)とお供を勤める家臣の小金吾(千之助)が、下市村の茶店で休んでいる。六代君の腹痛を起こしたため、茶屋の女実は権太の女房小せん(吉弥)に薬を求める。村はずれで身体を休ませる一行の哀しさ、旅の疲れを