夢 その1

 目を開くと、見慣れた私の自室の風景が見えた。私は四畳半の中心に立っていた。ある程度の整理整頓を心がけていたつもりだったが、部屋はかなり荒み切っていた。緑色のカーペットの上には棚に収められていた大判の本が散らばっていた。そしてそれらを不完全に覆うようにシャツやコート、さらにはキャスター付きの椅子までもが散乱していた。部屋の三分の一を埋めるベッドには血とも尿とも判別のつかない黒い液体が染み付いており、部屋全体にすえた匂いを撒き散らしていた。時間は日中のようで、カーテンの白色に染まった陽光が、私に荒んだ部屋の風景をまじまじと見せつけていた。しかし、隣家の生活音や鳥の声も含めて、外からはなんの音もしなかった。廊下に出るドアは隙間なくぴったりと閉じられていた。首を回してみようとしたが一切動かない。

 妙なところはそれだけではなかった。

 荒廃した部屋の風景を見ている私の視点は、普段のものよりもやけに高いのだ。また先程私は「立っている」という表現をしたが、それはこの高い視点があったからこその錯覚であり、実際は「立っている」という身体的感覚もなく、浮いていると言った方が近いような、変な虚脱感が存在していた。体の一部分も動かすことはできず、ただ感覚器官としての私だけが部屋の真ん中に残されてしまったようだった。ふとさやかな風が吹いて、視界がゆっくりと回転した。

 ?室内で?窓もドアも開いていないのに?

 違う。これは空気が動いているのではない。

 私が風を切っているんだ。

 ゆるやかに180°回転した私の視界に、陽光に照らされていない部屋の半分と、私の部屋にはなかったはずの鏡が映った。それまで見えなかった部屋のもう半分には、先ほどからすると恐ろしいほどに整えられた文庫本や参考書の並び。鏡には、血の気が失せ弛緩し切った手足に、虚な目、そして地につかない体。鏡の中の私は首を吊って死んでいた。そして私は、自分が昨夜、夜の何かに半狂乱になって天井に縄を括り、首を吊って自殺したことを思い出した。

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