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クラゲになりたかった。

クラゲって知ってますか?水族館ではふわふわと水に浮いていて、時にはライトアップされて綺麗に写る彼ら。

だけど、海で育ったクラゲたちは、嫌がられる役回り。刺されると腫れちゃうからね。

けれど、クラゲみたいに何も考えず、ふわふわ浮いていたかった。

そんな、面倒臭くて、すこしじめっとした話を一つ。


普通になりきれない。

みんなの言う「普通」と私が思う「普通」は違う。そりゃそうだ。

だけどね。

それでも、みんながいう「普通」になりたかった。

私はFtMという、体の性別と心の性別が一致しない症状を抱えている。

今はLGBTの権利もだいぶ世間に受け入れられてきて、幸せそうに暮らしている人もいっぱいいる。

けれど、私にとって体を男性に変えれば全て幸せかって言われるとそうじゃない。

あくまで「普通」になりたかった。

普通に異性を好きになって、普通に結婚して家庭を持って、困難があっても乗り越えて、老いて死んでいく。

そんなごくありふれた幸せが欲しかった。


ないものねだり。

体を変えなければ、自分の望む「自分」にはなれない。

けれど、変えてしまえば「男性」のようにはなれても「本物の男性」にはなれない。

マイノリティとしての自分を受け入れてほしいんじゃなくて、マジョリティの一人になりたかった。

こんなのないものねだりなんだけどね。


親に一生嘘をついて生きていくという覚悟

母親と喧嘩をして初めて母親を殴った時、涙がポロポロと流れてきた。

言いたいことはたくさんある。受け入れてほしいこともたくさんある。

けど、声にならなかった。言い表す言葉が見つからなかった。

でも目の前に広がっているのは泣いている母親で、悲しませていることにかわりはなかった。その時、もう、悲しませることはしないと心に誓った。

スーツを買う時、成人式の時、ショッピングにいく時、大体の時、嘘をつく。

「女物が好き」という仮面を被る。

「かわいい」を一生懸命探す。

女友達に「流行」を教えてもらう。

そうして何重にも嘘を重ねて、どうにか体裁を取り繕う。

「娘が産む孫って格別よ、きっと」

そう母親に言われて血の気が引いた。

それは一生できない約束だなんて、言えなかった。

「普通」だったらできるのかも、できたのかも、

そんなないものねだりが、ずっと心を蝕んで、

それでも抵抗できないから、一生嘘をついて生きていくと言う覚悟を

したくもない覚悟を、二十歳の時に決めた。


実際、「幸せ」ってなんなのよ

みんな自分の人生を生きている。

自力で立っている。だから好きに進めばいい。と人は言う。

私もそう思う。

けれど、母を好きだから、愛しているからこそ、

裏切り者になりたくなかった。

親不孝をしたくなかった。

そんな葛藤の中で本当の「幸せ」を探せるのかな、と

ここ最近考えているって重たい辛気臭い話。

クラゲって原始的な目を持っている

高校生の時に生物の先生に見せてもらった映像に、

「クラゲは原始的な目を持っていて、だから少ししか見えていない」という話があった。


私ももう少し社会がぼんやりとしか見えていなければ、

悩まずに済んだのかなとか、考えて、今日も生きていく。

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