見出し画像

M42から来た大怪球 Auto Yashinon-DX 1:2 f=50mm


f2の50mmなら安定と誰が決めたんだ

f2,1/1600ss

 最大解放で寄ってもボケの歪みは少なく合焦範囲はちゃんと写る、お手本のような写り。

f2,1/60ss

 こちらも同じく解放値f2で撮影した画像である。

 両方とも同じレンズだ。

謎多きYachicaの世界

 順当な写りの前者に対して剛速球の癖玉な写りを叩き出している後者の画像、本当に同じレンズか疑うところだが厳密にいえば異なる。先に後者のレンズが手に入り写りの正気を疑った後、全く同じレンズを探して買ったのが前者のレンズである。両方同一の銘板が付けられていて見た目も同じ、では何が異なるのか?
 マニアがYashicaを語る際のキーワードとして『富岡』がある。紆余曲折の末に現在の京セラに合併されたため京セラの沿革を参考に述べると富岡光学機械製造所は終戦から4年後の1949年に東京都青梅市に設立された光学機器会社であり、主にレンズのOEM製造を手掛けていた。そのためこの会社独自のレンズブランド名であるTominonやTominorが刻まれた銘板付きのレンズは僅かであり、多くのレンズは供給先のカメラメーカーのレンズブランド名を刻んだ銘板が付けられていた。一部には銘板に『Tomioka』の文字が入っており製造元の特定が可能だが供給先のレンズブランド名のみが多く、鏡筒の設計や止めネジの位置などから特定を試みる好事家もいるが確証に至れる資料が根拠として示されることは少ない。
 富岡光学機械製造所は1986年に当時のヤシカに子会社化されてヤシカの資本傘下になった。子会社化以前から富岡光学機械製造所がヤシカへレンズ供給を行っていたことは概ね確かなようだがこれがヤシカのレンズを調べる上で難解になる原因でもある。有名なYashica Electro35の初代機が1965年末の発売であり明らかに合併より前だがレンズの製造がヤシカ側であったか富岡側であったかを確定する資料がない、つまり長野県諏訪市の工場で生産されたレンズか東京都青梅市の工場で生産されたレンズかを特定することが非常に困難になっている。
 話を戻すと先に添付した二枚の画像と二つのレンズ、レンズ自体の発売時期はヤシカがM42マウント一眼レフ機を出し始めた1970年代前後と推定できるが確証はない。これより明るいf1.7のバージョンもあり作りも同一名でも前期型後期型があるようで写りの違いが何によるものかを特定することができない。もしかすればただのコーティングの変質で光学的な変化が起きた個体とそうでない個体というだけなのかも知れない。
 本稿では一先ず前者の画像を撮影した際に使用した方のAuto Yashinon-DX 1:2 f=50mmについて述べていく。

合焦とボケの境界

f2,1/1250ss

 これは解放状態でほぼ最短距離の撮影をした画像である。これを拡大してみるとピントが合っている、つまり合焦範囲とピントが外れているボケ範囲の境界線がわかるので見てみよう。

同上 拡大

 画像左下の角が画像の中心方向でありその周辺は焦点が合って苔と木肌の境目も明瞭に出ている。反対に右上の角へ視点を移していくと焦点範囲から外れていき、収差による僅かな回転と画像のぼやけが確認できる。
 凡そ画像の中心から割って左右で合焦範囲内と範囲外がわかりやすく写っており、範囲内の明暗と質感描写、ちゃんと苔の角が立っていることがわかり焦点範囲内であればオールドと分類されて尚且つM42マウントのレンズでもかなりの解像能力を持つといえる。

最短撮影距離0.5m

f2,1/5000ss

 実はこの頃のレンズにならないと最短撮影距離が1m以下で使える解放値f2の標準レンズは非常に限られる。f2より明るいf1.7やf1.8のレンズは被写界深度もありより手前に合焦位置を持ってこれたりf3.5と暗めでもマクロレンズならばさらに近づいて撮影できる。
 ただ接近撮影の常として厳密にピント位置を合わせないと撮りたい対象が薄っすらボケてしまい失敗することがある。下限ギリギリで撮影する第一の難しさといえるだろう。
 このレンズは最短撮影距離が記載指標値で0.5m、つまり50cm距離まで近づける。その場合に気になるのは近づいて撮る以上、画面の中に入るオブジェクトが一つくらいしかないのでそのオブジェクトとオブジェクト以外の描写だろう。上記の画像では咲きかけの桜を画面に入れたが焦点範囲内は解像や色描写、明暗描写はとても良い。色を際立たせる際は全体の明るさを適正露出から若干マイナス、つまり暗めにして光の反射による発色を目立たせるがその際に暗くしたことによって影の部分が曖昧な描写になる効果がある。この画像では接写によって影になる部分の多くは焦点範囲外になりボケの中に格納されて写したい桜の花に僅かな影が入るのみになり、その影と発色の明暗が崩れることなく撮影できている。
 撮影手法による写し方もあるが焦点範囲内では花弁、おしべとめしべ、それら以外の色が画像の中で同一化することなくそれぞれが発色しており範囲外でボケていても枝や芽が明確にわかることから接近撮影にも十分に耐えられる実用性がある。

感想

最近手書きの看板ってみないよね。

 ここまでレンズの性能について述べてきたが持ち歩き使ってみた感想を述べると正直このレンズは似たスペックのレンズの中でも重い方だと思う。外径や直径だけでいえば他社のレンズと大きな違いはないが材質の違いか入っているレンズの太さの違いかわからないがマウントアダプター込みで考えても手ごたえがある。ただこれは整備次第の話にもなるがピント操作はとてもスムーズに動かせる。ちゃんとメンテナンスされていてもヘリコイドの設計がピーキーなレンズは回転動作にやや重さを感じてそれが厳密なピント合わせに適したり速写の邪魔になったりとあるがこのレンズはスムーズ、言い換えれば若干緩いかなと感じるくらいだが極端な軽さでもなくさっと大まかな焦点へ持っていける。ただピント操作に対して絞り操作は操作環が全体からすると細く、指のかかりもいい形とはいえないので絞り操作に関しては癖があり慣れが必要になる。操作や重さについては概ね以上だがやはりこのレンズは写りがとても良い。極端な拡大をすれば粗さを見ることができるが通常の使用範囲ならば同時期のプロ向けレンズに極端な劣りを感じることはないだろう。
 これは余談だが最短撮影距離が0.5mとあるが使った感じだとたぶんもっと寄れている。絞り解放値を参照した被写界深度の計算上は確かに0.5mだがこのレンズは解放にすると指標値のf2よりも若干明るい気がする。そうなると絞り値が明るくなるに従って被写界深度は手前に移るので0.5mより接近もピントが合う。これが単なる気のせいか、それとも大らかな時代の産物かはわからないが読者諸賢にはぜひこのレンズを手に入れて微妙な気分になって頂きたい。本当になんか微妙な気分になるから、やってみって。

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