【詩】ベンチにて
銭湯からの帰り
公園の隅の赤いベンチに座り
彼とキスをした
風が吹き抜け ほてった身体に心地よい
「エロいなぁ、真美は」
「え? なにが?
「真美のキス顔」
「やだぁー。それって褒めてるの?」
自販機で缶コーヒーを買った
冷たい液体が ほてった唇に心地よい
「昭和ならさぁ」
「えっ」
「小さな石鹸、カタカタ鳴ったー」
「神田川じゃん 笑」
真美を引き寄せると抱きしめた
リンスの香りが 心地よくて胸一杯に吸い込んだ
毛沢東は
何事かを成し遂げる者は
若く、貧しく、無名な若者だと云った
僕らふたりは
そのどれもが
当てはまるのだった
今は三人の子持ちの
中年の、貧しく、無名な夫婦だけれども